
(今回のメンバー:キョン、ソキウス)
音楽のステレオタイプな雑食とそうでない雑食がある?
今回のテーマは「音楽を聞く幅」。イントロクイズ経験と音楽を聞く(その見方も含めた)幅との関係について、各々の実感と以前参照した調査の分析とを突き合せることで少しずつ言語化していきます。
【参照:音楽生活の調査回≪質問編≫( https://spoti.fi/3wWXTDH )、≪対話編≫(前編)( https://spoti.fi/3x8W07f )、(後編)( https://spoti.fi/3nUDUQM )】
初めにイントロクイズ経験と音楽を聞く幅との関係についての現時点での実感を挙げていきます。
イントロクイズの経験を積んだことで幅は広がったと考えるキョンは、自身にとっては馴染み深さのレベルが異なる複数の音楽群を例に挙げながら「自分の見える音楽の世界そのものが広がった感覚」について言語化。また音楽との出会いという点では、イントロクイズ以外の要因だとキョンにとって「近しい第三者」のような存在である音楽ゲームやNHKはある意味「惰性」の付き合いなのかもしれないと語りました。そのなかで、以前の回でも挙がった自身のまたは「システム」の「外部」への意識という論点が再び登場します。
【参照:2022年の「洋楽」回( https://spoti.fi/3JYBxau )、音楽ゲームの回( https://spoti.fi/42GPUHJ )、NHK(Eテレ)の回( https://spoti.fi/38tSpmV )】
ここでソキウスは調査の回を踏まえながら音楽雑誌やラジオといった「外部」の性質が高いと思われるメディアを提示し、「なぜそこへ向かわないのか」とキョンに尋ねます。これに対してキョンは、そのようなメディアを「身近」なものとは感じてないこと、また「惰性」の影響もあってか「大きなきっかけ」が無いと「生活は変わらない」と感じていること、そしてラジオは「面白いとは思う」けど限られている「時間を割く」ほどのものではないと考えていることを回答。この「今は違う」けれど特質上は「理想的」に思えるメディアというキョンの捉え方を聞いたソキウスは、「出会う側面」よりかは今自分が好きなものを繰り返し聞くことにキョンが重点を置いている可能性を指摘します。
【参照:ラジオの回( https://spoti.fi/2Xuokls )】
さらにソキウスはキョンの言う「自分の知っている幅」の中の「知らない曲」がとても多いという自己認識もここに結び付ける形で、調査の回で「好きなジャンル」として挙げていなかったものから広がっていく幅という有り様の可能性は少ないだろうという点も指摘。併せて自分が元々知っている世界の「ディティール」を知る(≒キョンの言う「『再』発見」)というキョン的な「出会い」は、「あまりよろしくない意味での『懐古主義』」に繋がりかねないということを一言残しました。
これらの実感を踏まえたうえで、ここからは今回のテーマを「雑食性」の分析[南田ほか 2019]と結び付けていきます。
≪下記の調査結果・分析に関する記述は南田らによるものを基に作成しています。≫
まず調査回の質問の中から「好きなジャンル」の選択数をピックアップ。キョンにその予想も聞きつつ、多くのジャンルへの興味に関する現状へ。
キョンもソキウスも8個挙げたこの質問でしたが、平均値は4.2で中央値は4.0。また、ほぼ三等分になるようにグループ分けすると、0-2個の群・3-4個の群・5個以上の群という結果になり、「Jポップ」を選んだのが75.7%であることを踏まえるとJポップ+αの組み合わせが多いということもここで確認。そのうえで、ジャンル数は多くても実はよく似たジャンルを好んでいるだけで雑食ではないという可能性も検討しようと「ジャンルの親近性」の分析を基に、(「その他」以外の)22ジャンルを<DJ系><ポップ系><ロック系><オタク系><伝統系>に分類したものを導入。この5グループの分け方を前提とすると、音楽の好み方のパターンは4つのクラスターに「モデル化」できることをここで提示します。
そのモデルの1つ目が、「Jポップ」以外をほとんど好まないことと、<ロック系><DJ 系>にはほぼ食指が伸びていないことを特徴とする<一点型>(構成比:64.7%)。
2つ目が、<ポップ系><ロック系>に好みのパターンが特化していること、<ロック系>の「パンク」「ヘヴィメタル」「ヴィジュアル系」と<ポップ系>の「アイドル」「Kポップ」をほとんど好まないことを特徴とする<二色型>(構成比:18.3%)。
【訂正:本編中で<二点型>と述べられているものはこの<二色型>のことを指しています。】
3つ目が、<DJ 系>の音楽を好む割合が他よりも高いこと、<ロック系><オタク系>を好む割合が相対的に低いことを特徴とする<特化型>(構成比:7.7%)。
4つ目が、<ロック系>を好む割合が突出し、さらに<オタク系><伝統系>も他のクラスターよりは高いこと、<DJ 系>だけ食指が伸びていないこと、他のクラスターと比較すると「Jポップ」を選ぶ割合が相対的に低いことを特徴とする<分散型>(構成比:9.3%)。
この分類を受けて、キョンが想定する「ステレオタイプ」な雑食とモデルとの差から何が雑食なのか「答えに窮する」こと、<分散型>に近いだろうというキョンの自己認識、さらにジャンルの好みの絶対数とグループ間の相対的な差の重要性の違いを確認したうえで、続いては雑食と称されるもの(主に<特化型>と<分散型>)の有り様を見ていきます。
そのためにまずソキウスは以前の趣味遍歴に関する一連の回、特に読書遍歴の回( https://spoti.fi/3M0Sa42 )でのキョンと活字文化との繋がり方を例に出し、映像文化的な文化ジャンルへの関心が高い<特化型>と活字文化的なそれへの関心が高い<分散型>の違い[南田ほか 2019: 156]をキョンの音楽生活と対応させていくことに。音楽情報を提供する媒体ごとの特徴の違いを念頭に置きながら、雑食性の有り様を検討していきます。
【参考:YouTuber/Podcasterの回( https://spoti.fi/3rIH39G )】
その中で、「他者とのツール」としての音楽の利用傾向の違い、最も好きなアーティストとして挙げるアーティストの洋/邦・メジャー/マイナーの違い、音楽への吸引要素の違いなどの要素が雑食性の有り様の違いとして見いだせることをデータから確認しました。(本編で言及しなかった要素については[南田ほか 2019: 160]を参照)
【参照:remix音源の回( https://spoti.fi/3z7m1Fs )】
調査を受けたこれらの結果の分析として、雑食と非雑食の二極分化やそれの相似形としての消費の細分化、複数の雑食性の存在可能性とそれが依拠する文化の違い(活字文化と正統性との間にあるイデオロギー的な結びつきetc)という二点が雑食性の現状として挙げられそうなこと。またそもそも雑食性を判断する前提の段階で浅いコミットの可能性を否定できていない以上、多くの領域にコミットしてたとしてもそれがどのような形なのかが未だ不明瞭だという問題があること。さらにこれらの点を踏まえて雑食性は質的な差異を考慮に入れた概念として検討を進めていくべきだという課題をここで確認したうえで、この回の最後は、調査データとその分析の結果をイントロクイズと音楽を聞く幅との関係にも適用させて改めて考えます。
その結果、ここまで示してきたデータとその分析がイントロクイズ出題者が持つある種の「常識」(≒「ステレオタイプ」な雑食という想定)を相対化するきっかけになるのではないかというソキウスの考えと、正解を目指していくというクイズという遊びの性質と「多くの音楽幅」で聞いている人が「正義」だとは限らないということ(ex.「一つのジャンルの音楽しか聴いてないから良くない」訳ではない)とを関連付けさせるキョンの考えがここで提示されます。
ただソキウスは、各々が依拠する文化の違いが(場合によっては複数の次元で)存在するとき、その違いによって生まれる差を埋めていくために「解像度」を上げていこうとするキョンの行動や態度は、「本当に解像度を高めることになっているのか」という点をここで指摘。自らと親和性の高いクラスター内での「閉じた傾向」によって判断された高い解像度ではないかということへの批判的視点を持つことと今後のイントロクイズの可能性(=「『外』を見ていく必要」)との関連性について言及しました。
【本日の一曲】
毎回最後に1分以内で今紹介したい1曲を持ち回りで語ってもらう「本日の一曲」。
今回はキョンが、男性声優がボーカルを務めていたバンドの楽曲を紹介。
正統派ロックでないところが好き?
【今回のキーワード】
音楽聴取の雑食性/システムとしての「アメリカ」/新発見と再発見/懐古主義/音楽ジャンルの親近性/音楽の好み方のパターン/「ステレオタイプ」な雑食/雑食と非雑食の二極分化/消費の細分化/正統性/音楽へのコミットの深さ/雑食性の質的な差異/「解像度」の高さ/The NaB's/KENN
【参考資料】
南田勝也・木島由晶・永井純一・小川博司編著; 溝尻真也・小川豊武著, 2019, 『音楽化社会の現在: 統計データで読むポピュラー音楽』新曜社.