
<プログラBLOG|2025年7月3日から>
これまでのテレビCMは「誰が見ているか」に基づくターゲティングが中心でしたが、共有型デバイスであるテレビでは個人の特定が困難です。そこで注目されているのが、「どんな気分・文脈で視聴されているか」を軸にした“文脈ターゲティング”の手法です。
米IRIS.TVは、動画に「前メタ(事前に付与される文脈情報)」をAIで付与し、ジャンルや感情トーンなどに基づき広告配信を出し分けています。例えば「感動的な動画には保険CMを」「社会問題系の動画は避けたい」といった選択が可能です。これは従来のニュース記事などで行われていた文脈ターゲティングを、動画領域に拡張した先進的な事例といえます。
こうしたアプローチは視聴者の心理状態に合わせた広告配信を可能にし、記憶への定着率や受容性を高めます。実際、家族でドラマを見た後に保険のCMが流れるなど、空気感に合ったCMは個人属性以上に訴求力を持つことがあります。
日本市場においても、地上波やTVerのようなAVODサービスの整った番組体系は、IRIS.TV型の文脈ターゲティングと親和性が高いとされています。さらに、視聴ログや番組編成データをもとに、感情トーンや視聴態度でコンテンツを再分類する「意味空間の再構築」により、広告との適合性を高める余地があります。
IRIS.TVの中核技術「IRIS_ID」は、動画コンテンツに一意のIDを付与し、個人情報に頼らずコンテキストに基づく広告配信を実現します。複数の分析パートナー(Oracle、IAS、GumGumなど)との連携により、映像・音声・テキストをフレーム単位で解析し、その文脈情報を広告に活用する「マーケットプレイス型モデル」も強みです。
Googleとの違いは、自社の囲い込み型ではなく、業界全体とつながる中立的なデータ基盤を志向している点にあります。こうした思想は、リニアTVのような旧来メディアに対しても、価値の再定義を促す可能性を秘めています。
たとえば旅番組の食事シーン直後に宅配ピザのCMを流すような“文脈的な出し分け”は、視聴率やデモグラでは得られない広告効果を生み出す可能性があります。単なるスポット効率の改善ではなく、テレビCM全体の価値を、広告主・テレビ局双方にとって再構築するアプローチだといえるでしょう。