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Japanese Listening Podcast
Japanese Listening Podcast
5 episodes
1 week ago
A podcast for intermediate to advanced Japanese learners. Classic Japanese stories narrated in natural Japanese to boost listening and comprehension. All transcripts are in the episode descriptions as a link and as plain text.
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Episodes (5/5)
Japanese Listening Podcast
Kodama by Mori Ogai | 木精 森鴎外
巌いわが屏風びょうぶのように立っている。登山をする人が、始めて深山薄雪草みやまうすゆきそうの白い花を見付けて喜ぶのは、ここの谷間である。フランツはいつもここへ来てハルロオと呼ぶ。  麻のようなブロンドな頭を振り立って、どうかしたら羅馬ロオマ法皇の宮廷へでも生捕いけどられて行きそうな高音でハルロオと呼ぶのである。  呼んでしまってじいっとして待っている。  暫しばらくすると、大きい鈍いコントルバスのような声でハルロオと答える。  これが木精こだまである。  フランツはなんにも知らない。ただ暖かい野の朝、雲雀ひばりが飛び立って鳴くように、冷たい草叢くさむらの夕ゆうべ、こおろぎが忍びやかに鳴く様に、ここへ来てハルロオと呼ぶのである。しかし木精の答えてくれるのが嬉うれしい。木精に答えて貰もらうために呼ぶのではない。呼べば答えるのが当り前である。日の明るく照っている処に立っていれば、影が地に落ちる。地に影を落すために立っているのではない。立っていれば影が差すのが当り前である。そしてその当り前の事が嬉しいのである。  フランツは父が麓ふもとの町から始めて小さい沓くつを買って来て穿はかせてくれた時から、ここへ来てハルロオと呼ぶ。呼べばいつでも木精の答えないことはない。  フランツは段々大きくなった。そして父の手伝をさせられるようになった。それで久しい間例の岩の前へ来ずにいた。  ある日の朝である。山を一面に包んでいた雪が、巓いただきにだけ残って方々の樅もみの木立が緑の色を現して、深い深い谷川の底を、水がごうごうと鳴って流れる頃の事である。フランツは久振ひさしぶりで例の岩の前に来た。  そして例のようにハルロオと呼んだ。  麻のようなブロンドな頭を振り立って呼んだ。しかし声は少し荒さびを帯びた次高音になっているのである。  呼んでしまって、じいっとして待っている。  暫くしてもう木精が答える頃だなと思うのに、山はひっそりしてなんにも聞えない。ただ深い深い谷川がごうごうと鳴っているばかりである。  フランツは久しく木精と問答をしなかったので、自分が時間の感じを誤っているかと思って、また暫くじいっとして待っていた。  木精はやはり答えない。  フランツはじいっとしていつまでもいつまでも待っている。  木精はいつまでもいつまでも答えない。  これまでいつも答えた木精が、どうしても答えないはずはない。もしや木精は答えたのを、自分がどうかして聞かなかったのではないかと思った。  フランツは前より大きい声をしてハルロオと呼んだ。  そしてまたじいっとして待っている。  もう答えるはずだと思う時間が立つ。  山はひっそりしていて、ごうごうという谷川の音がするばかりである。  また前に待った程の時間が立つ。  聞こえるものは谷川の音ばかりである。  これまではフランツはただ不思議だ不思議だと思っていたばかりであったが、この時になって急に何とも言えない程心細く寂しくなった。譬たとえばこれまで自由に動かすことの出来た手足が、ふいと動かなくなったような感じである。麻痺まひの感じである。麻痺は一部分の死である。死の息が始めてフランツの項うなじに触れたのである。フランツは麻のようなブロンドな髪が一本一本逆に竪たつような心持がして、何を見るともなしに、身の周匝まわりを見廻した。目に触れる程のものに、何の変った事もない。目の前には例の岩が屏風の様に立っている。日の光がところどころ霧の幕を穿うがって、樅の木立を現わしている。風の少しもない日の癖で、霧が忽たちまち細い雨になって、今まで見えていた樅の木立がまた隠れる。谷川の音の太い鈍い調子を破って、どこかで清い鈴の音がする。牝牛めうしの頸くびに懸けてある鈴であろう。  フランツは雨に濡れるのも知らずに、じいっと考えている。余り不思議なので、夢ではないかとも思って見た。しかしどうも夢ではなさそうである。  暫くしてフランツは何か思い付いたというような風で、「木精は死んだのだ」とつぶやいた。そしてぼんやり自分の住んでいる村の方へ引き返した。  同じ日の夕方であった。フランツはどうも木精の事が気に掛かってならないので、また例の岩の処へ出掛けた。  この日丁度午過ひるすぎから極ごく軽い風が吹いて、高い処にも低い処にも団まろがっていた雲が少しずつ動き出した。そして銀色に光る山の巓が一つ見え二つ見えて来た。フランツが二度目に出掛けた頃には、巓という巓が、藍色あいいろに晴れ渡った空にはっきりと画かれていた。そして断崖だんがいになって、山の骨のむき出されているあたりは、紫を帯びた紅くれないににおうのである。  フランツが例の岩の処に近づくと、忽ち木精の声が賑にぎやかに聞えた。小さい時から聞き馴れた、大きい、鈍い、コントルバスのような木精の声である。  フランツは「おや、木精だ」と、覚えず耳を欹そばだてた。  そして何を考える隙ひまもなく駈け出した。例の岩の処に子供の集まっているのが見える。子供は七人である。皆ブリュネットな髪をしている。血色の好い丈夫そうな子供である。  フランツはついに見たことのない子供の群れを見て、気兼をして立ち留まった。  子供達は皆じいっとして木精を聞いていたのであるが、木精の声が止んでしまうと、また声を揃えてハルロオと呼んだ。  勇ましい、底力のある声である。  暫くすると木精が答えた。大きい大きい声である。山々に響き谷々に響く。  空に聳そびえている山々の巓は、この時あざやかな紅に染まる。そしてあちこちにある樅の木立は次第に濃くなる鼠色ねずみいろに漬ひたされて行く。  七人の知らぬ子供達は皆じいっとして、木精の尻声しりごえが微かになって消えてしまうまで聞いている。どの子の顔にも喜びの色が輝いている。その色は生の色である。  群れを離れてやはりじいっとして聞いているフランツが顔にも喜びが閃ひらめいた。それは木精の死なないことを知ったからである。  フランツは何と思ってか、そのまま踵きびすを旋めぐらして、自分の住んでいる村の方へ帰った。  歩きながらフランツはこんな事を考えた。あの子供達はどこから来たのだろう。麓の方に新しい村が出来て、遠い国から海を渡って来た人達がそこに住んでいるということだ。あれはおおかたその村の子供達だろう。あれが呼ぶハルロオには木精が答える。自分のハルロオに答えないので、木精が死んだかと思ったのは、間違であった。木精は死なない。しかしもう自分は呼ぶことは廃よそう。こん度呼んで見たら、答えるかも知れないが、もう廃そう。  闇やみが次第に低い処から高い処へ昇って行って、山々の巓は最後の光を見せて、とうとう闇に包まれてしまった。村の家にちらほら燈火が附き始めた。
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5 years ago
8 minutes 32 seconds

Japanese Listening Podcast
White Camellia | Shirotsubaki 白椿 by Yumeno Kyuusaku
白椿 夢野久作  ちえ子さんは可愛らしい奇麗な児でしたが、勉強がきらいで遊んでばかりいるので、学校を何べんも落第しました。そしてお父さんやお母さんに叱られる毎ごとに、「ああ、嫌だ嫌だ。どうかして勉強しないで学校がよく出来る工夫は無いかしらん」と、そればかり考えておりました。  ある日、どうしてもしなくてはならぬ算術をやっておりましたが、どうしてもわからぬ上にねむくてたまりませんので、大きなあくびを一つしてお庭に出てみると、白い寒椿がたった一つ蕾つぼみを開いておりました。ちえ子さんはそれを見ると、「ああ、こんな花になったらいいだろう。学校にも何にも行かずに、花が咲いて人から可愛がられる。ああ、花になりたい」と思いながら、その花に顔を近づけて香においを嗅かいでみました。  その白椿の香気のいい事、眼も眩くらむようでした。思わず噎むせ返って、 「ハックシン」  と大きなくしゃみを一つして、フッと眼を開いてみると、どうでしょう。自分はいつの間にか白い寒椿の花になっていて、眼の前にはちえ子さんそっくりの女の子が立ちながら自分を見上げております。  ちえ子さんはびっくりしましたが、どうする事も出来ませんでした。只呆れてしまって、その児の様子を見ておりますと、その女の児は自分を見ながら、 「まあ、何という美しい花でしょう。そしてほんとにいいにおいだこと。これを一輪ざしに挿して勉強したいな。お母様に聞いて来ましょう」  と云いながらバタバタと駈けて行きました。  しばらくすると、ちえ子さんのお母さんが花鋏を持ってお庭に降りておいでになりました。 「まあ、お前が勉強をするなんて珍らしい事ねえ。お前が勉強さえしておくれだったら、椿の花くらい何でもありませんよ」  と云いながら、ちえ子さんの白椿をパチンと鋏切って、一輪挿しにさして、ちえ子さんの机の上に置いておやりになりました。  ちえ子さんは机の隅から見ていますと、女の児はさもうれしそうに可愛らしい眼で自分を見ておりましたが、やがて算術の手帳を出しておけいこを初めました。  ちえ子さんの白椿は、真赤になりたい位極きまりが悪くなりました。算術の帳面には違った答えばかりで、処々にはつまらない絵なぞが書いてあります。女の児はそれをゴムで奇麗に消して、間違った答えをみんな直して、明日あすの宿題までも済ましてしまいました。それを見ているうちにちえ子さんは、算術のしかたがだんだんわかって来て面白くて堪らず、自分でやってみたくなりましたが、花になっているのですから仕方がありません。  そのうちに女の児は算術を済まして、読本を開いて、本に小さく鉛筆でつけてある仮名を皆消してしまいました。おさらいと明日あすの下読が済むと、筆入やカバンを奇麗に掃除して、鉛筆を上手に削って、時間表に合せた書物や雑記帳と一所に入れて机の上に正しく置きました。それから机の抽斗ひきだしをあけてキチンと片づけて、押しこんだいたずら書きの紙屑や糸くずをちゃんと展のばして、紙は帳面に作り、糸は糸巻きに巻きました。その間のちえ子さんの極りのわるさ! 消えてしまいたい位でした。  女の児はそれから、台所で働いていらっしゃるお母様の処へ走って行って、手を突いて、 「お母さん、お手伝いさせて頂戴」  と云いました。  お母様はしばらくだまって女の児の顔を見ておいでになりましたが、濡れたままの手でいきなりしっかりと女の児を抱きしめて、 「まあ、お前はどうしてそんなによい子になったの」  と云いながら、涙をハラハラとお流しになりました。  白椿のちえ子さんは身を震わしてこの様子を見ておりました。ちえ子さんもお母さまからこんなにして可愛がられた事は今まで一度も無かったのです。あんまり羨ましくて情なくて口惜くちおしくて、思わずホロホロと水晶のような露を机の上に落しました。  それからこの女の児がする事は、何一つとしてちえ子さんを感心させない事はありませんでした。  遊びに誘いに来るわるいお友達はみんな、お母様にたのんで断って頂いて、よいお友達と遊ぶようにしました。 「ちえ子のちえ子の大馬鹿やい。ちえ子の知恵無し落第坊主、一年二度ずつエンヤラヤ、学校出るのに……ツーツータアカアセ」  と悪い男の生徒がはやしても、家の中うちから笑っていました。  そのほか勉強のひまには編物をお母さんから習いました。夜はお祖父さまの肩をもみました。お母様のお使い、お父様の御用向でも、ハイハイとはたらきました。そうして自分の事は何一つお母様やお祖母様に御迷惑をかけませんでした。  お家の人は皆驚いて感心をして賞め千切って、いろいろのものを買って下さいました。しかし女の児はそれを大切にしまって、今までちえ子さんが使い古したものばかり使いました。  けれどもお家の人よりも何よりも驚いたのは学校の先生でした。今までは何をきいてもうつむいてばかりいたちえ子が、今度は何を聞いてもすっかり勉強しておぼえていて、時々は先生も困る位よい質問を出します。  そればかりでなく、今まで運動場で遊んでいても、直すぐに泣いたり、おこったり、すねたり、よけいなにくまれ口をきいたりして嫌われていたちえ子が、急に親切にやさしくなって、どんな遊戯でもいやがらずに、それはそれは元気よく愉快に仲よく遊びますので、友達の出来る事出来る事。今まで寄り付かなかったよいお友達が、みんな遊びたがってお家にまで来るようになりました。  女の児はいつもよいお友達と音なしく遊んで、音なしく勉強しました。  来るお友達も来るお友達も、みんなちえ子さんの机の上の一輪ざしに生けてある白椿の花を賞めました。その時女の児はいつもこう答えました。 「あたしはこの白椿のようになりたいといつも思っています」 「ほんとにね」  と友達は皆、女の児の清い心持ちに感心をしてため息をしました。  ちえ子さんの白椿は日に増し淋しく悲しくなって来ました。「あたしのようなわるい児はこのまま散ってしまって、あの女の児が妾あたしの代りになっている方がどれ位みんなのしあわせになるかもしれない。どうぞ神様、妾の代りにあの女の児がしあわせでいるように、そうしていつまでもかわらずにいるように」と心から祈って、涙をホロホロと流しました。  その中うちにだんだん気が遠くなって、ガックリとうなだれてしまいました。 「まあちえ子さん、大変じゃないの。総甲を取っているのに、何だって今まで見たいに成績を隠すのです。お起きなさいってば、ちえ子さん。そんなに勉強ばかりして身体からだに障りますよ」  とお母さんの声がします。フッと眼をあけてみると、ちえ子さんは算術の本を開いてその上にうたた寝をしているのでした。  眼の前の机の上の一輪挿しには椿の枝と葉ばかりが挿さっていて、花はしおれ返ったままうつ伏せに落ちておりました。
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5 years ago
7 minutes 55 seconds

Japanese Listening Podcast
The Immortal | Sennin 仙人 by Akutagawa Ryuunosuke
仙人 芥川龍之介  皆さん。  私わたしは今大阪にいます、ですから大阪の話をしましょう。  昔、大阪の町へ奉公ほうこうに来た男がありました。名は何と云ったかわかりません。ただ飯炊奉公めしたきぼうこうに来た男ですから、権助ごんすけとだけ伝わっています。  権助は口入くちいれ屋やの暖簾のれんをくぐると、煙管きせるを啣くわえていた番頭に、こう口の世話を頼みました。 「番頭さん。私は仙人せんにんになりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」  番頭は呆気あっけにとられたように、しばらくは口も利きかずにいました。 「番頭さん。聞えませんか? 私は仙人になりたいのだから、そう云う所へ住みこませて下さい。」 「まことに御気の毒様ですが、――」  番頭はやっといつもの通り、煙草たばこをすぱすぱ吸い始めました。 「手前の店ではまだ一度も、仙人なぞの口入れは引き受けた事はありませんから、どうかほかへ御出おいでなすって下さい。」  すると権助ごんすけは不服ふふくそうに、千草ちくさの股引ももひきの膝をすすめながら、こんな理窟りくつを云い出しました。 「それはちと話が違うでしょう。御前さんの店の暖簾には、何と書いてあると御思いなさる? 万口入よろずくちいれ所どころと書いてあるじゃありませんか? 万と云うからは何事でも、口入れをするのがほんとうです。それともお前さんの店では暖簾の上に、嘘うそを書いて置いたつもりなのですか?」  なるほどこう云われて見ると、権助が怒るのももっともです。 「いえ、暖簾に嘘がある次第ではありません。何でも仙人になれるような奉公口を探せとおっしゃるのなら、明日あしたまた御出で下さい。今日きょう中に心当りを尋ねて置いて見ますから。」  番頭はとにかく一時逃のがれに、権助の頼みを引き受けてやりました。が、どこへ奉公させたら、仙人になる修業が出来るか、もとよりそんな事なぞはわかるはずがありません。ですから一まず権助を返すと、早速さっそく番頭は近所にある医者の所へ出かけて行きました。そうして権助の事を話してから、 「いかがでしょう? 先生。仙人になる修業をするには、どこへ奉公するのが近路ちかみちでしょう?」と、心配そうに尋ねました。  これには医者も困ったのでしょう。しばらくはぼんやり腕組みをしながら、庭の松ばかり眺めていました。が番頭の話を聞くと、直ぐに横から口を出したのは、古狐ふるぎつねと云う渾名あだなのある、狡猾こうかつな医者の女房です。 「それはうちへおよこしよ。うちにいれば二三年中うちには、きっと仙人にして見せるから。」 「左様さようですか? それは善い事を伺いました。では何分願います。どうも仙人と御医者様とは、どこか縁が近いような心もちが致して居りましたよ。」  何も知らない番頭は、しきりに御時宜おじぎを重ねながら、大喜びで帰りました。  医者は苦い顔をしたまま、その後あとを見送っていましたが、やがて女房に向いながら、 「お前は何と云う莫迦ばかな事を云うのだ? もしその田舎者いなかものが何年いても、一向いっこう仙術を教えてくれぬなぞと、不平でも云い出したら、どうする気だ?」と忌々いまいましそうに小言こごとを云いました。  しかし女房はあやまる所か、鼻の先でふふんと笑いながら、 「まあ、あなたは黙っていらっしゃい。あなたのように莫迦正直では、このせち辛がらい世の中に、御飯ごはんを食べる事も出来はしません。」と、あべこべに医者をやりこめるのです。  さて明くる日になると約束通り、田舎者の権助は番頭と一しょにやって来ました。今日はさすがに権助ごんすけも、初はつの御目見えだと思ったせいか、紋附もんつきの羽織を着ていますが、見た所はただの百姓と少しも違った容子ようすはありません。それが返って案外だったのでしょう。医者はまるで天竺てんじくから来た麝香獣じゃこうじゅうでも見る時のように、じろじろその顔を眺めながら、 「お前は仙人になりたいのだそうだが、一体どう云う所から、そんな望みを起したのだ?」と、不審ふしんそうに尋ねました。すると権助が答えるには、 「別にこれと云う訣わけもございませんが、ただあの大阪の御城を見たら、太閤様たいこうさまのように偉い人でも、いつか一度は死んでしまう。して見れば人間と云うものは、いくら栄耀栄華えようえいがをしても、果はかないものだと思ったのです。」 「では仙人になれさえすれば、どんな仕事でもするだろうね?」  狡猾こうかつな医者の女房は、隙すかさず口を入れました。 「はい。仙人になれさえすれば、どんな仕事でもいたします。」 「それでは今日から私わたしの所に、二十年の間奉公おし。そうすればきっと二十年目に、仙人になる術を教えてやるから。」 「左様さようでございますか? それは何より難有ありがとうございます。」 「その代り向う二十年の間は、一文いちもんも御給金はやらないからね。」 「はい。はい。承知いたしました。」  それから権助は二十年間、その医者の家に使われていました。水を汲む。薪まきを割る。飯を炊たく。拭き掃除そうじをする。おまけに医者が外へ出る時は、薬箱くすりばこを背負って伴ともをする。――その上給金は一文でも、くれと云った事がないのですから、このくらい重宝ちょうほうな奉公人は、日本にほん中探してもありますまい。  が、とうとう二十年たつと、権助はまた来た時のように、紋附の羽織をひっかけながら、主人夫婦の前へ出ました。そうして慇懃いんぎんに二十年間、世話になった礼を述べました。 「ついては兼かね兼がね御約束の通り、今日は一つ私にも、不老不死ふろうふしになる仙人の術を教えて貰いたいと思いますが。」  権助にこう云われると、閉口したのは主人の医者です。何しろ一文も給金をやらずに、二十年間も使った後あとですから、いまさら仙術は知らぬなぞとは、云えた義理ではありません。医者はそこで仕方なしに、 「仙人になる術を知っているのは、おれの女房にょうぼうの方だから、女房に教えて貰うが好いい。」と、素そっ気けなく横を向いてしまいました。  しかし女房は平気なものです。 「では仙術を教えてやるから、その代りどんなむずかしい事でも、私の云う通りにするのだよ。さもないと仙人になれないばかりか、また向う二十年の間、御給金なしに奉公しないと、すぐに罰ばちが当って死んでしまうからね。」 「はい。どんなむずかしい事でも、きっと仕遂しとげて御覧に入れます。」  権助ごんすけはほくほく喜びながら、女房の云いつけを待っていました。 「それではあの庭の松に御登り。」  女房はこう云いつけました。もとより仙人になる術なぞは、知っているはずがありませんから、何でも権助に出来そうもない、むずかしい事を云いつけて、もしそれが出来ない時には、また向う二十年の間、ただで使おうと思ったのでしょう。しかし権助はその言葉を聞くとすぐに庭の松へ登りました。 「もっと高く。もっとずっと高く御登り。」  女房は縁先えんさきに佇たたずみながら、松の上の権助を見上げました。権助の着た紋附の羽織は、もうその大きな庭の松でも、一番高い梢こずえにひらめいています。 「今度は右の手を御放おはなし。」  権助は左手にしっかりと、松の太枝をおさえながら、そろそろ右の手を放しました。 「それから左の手も放しておしまい。」 「おい。おい。左の手を放そうものなら、あの田舎者いなかものは落ちてしまうぜ。落ちれば下には石があるし、とても命はありゃしない。」  医者もとうとう縁先へ、心配そうな顔を出しました。 「あなたの出る幕ではありませんよ。まあ、私に任せて御置きなさい。――さあ、左の手を放すのだよ。」  権助はその言葉が終らない内に、思い切って左手も放しました。何しろ木の上に登ったまま、両手とも放してしまったのですから、落ちずにいる訣わけはありません。あっと云う間まに権助の体は、権助の着ていた紋附の羽織は、松の梢こずえから離れました。が、離れたと思うと落ちもせずに、不思議にも昼間の中空なかぞらへ、まるで操あやつり人形のように、ちゃんと立止ったではありませんか? 「どうも難有ありがとうございます。おかげ様で私も一人前の仙人になれました。」  権助は叮嚀ていねいに御時宜おじぎをすると、静かに青空を踏みながら、だんだん高い雲の中へ昇って行ってしまいました。  医者夫婦はどうしたか、それは誰も知っていません。ただその医者の庭の松は、ずっと後あとまでも残っていました。何でも淀屋辰五郎よどやたつごろうは、この松の雪景色を眺めるために、四抱よかかえにも余る大木をわざわざ庭へ引かせたそうです。 (大正十一年三月) 。
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5 years ago
10 minutes 18 seconds

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The Festival night | Matsuri no Ban 祭りの晩 by Miyazawa Kenji
"Matsuri no Ban" - Ryoji goes to the autumn festival that takes place in the village near his home. There he encounters a giant man with eyes the colour of "grubby gold." Is he, as the villagers claim, the Mountain Man of legend and is Ryoji wise to try to help him?
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5 years ago
11 minutes 33 seconds

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Christmas Gift | Kurisumasu no okurimono クリスマスの贈り物 by Yumeji Takehisa
クリスマスの贈物 竹久夢二 「ねえ、かあさん」  みっちゃんは、お三時やつのとき、二つ目の木の葉パンを半分頬ほおばりながら、母様にいいました。 「ねえ、かあさん」 「なあに、みっちゃん」 「あのね、かあさん。もうじきに、クリスマスでしょ」 「ええ、もうじきね」 「どれだけ?」 「みっちゃんの年ほど、おねんねしたら」 「みっちゃんの年ほど?」 「そうですよ」 「じゃあ、かあさん、一つ二つ三つ……」とみっちゃんは、自分の年の数ほど、テーブルの上に手をあげて、指を折りながら、勘定をはじめました。 「ひとつ、ふたあつ、みっつ、そいから、ね、かあさん。いつつ、ね、むっつ。ほら、むっつねたらなの? ね、かあさん」 「そうですよ。むっつねたら、クリスマスなのよ」 「ねえ、かあさん」 「まあ、みっちゃん、お茶がこぼれますよ」 「ねえ、かあさん」 「あいよ」 「クリスマスにはねえ。ええと、あたいなにがほしいだろう」 「まあ、みっちゃんは、クリスマスの贈物のことを考えていたの」 「ねえ、かあさん、何でしょう」 「みっちゃんのことだもの。みっちゃんが、ほしいとおもうものなら、何でも下さるでしょうよ。サンタクロスのお爺じいさんは」 「そう? かあさん」 「ほら、お口からお茶がこぼれますよ。さ、ハンカチでおふきなさい。えエえエ、なんでも下さるよ。みっちゃん、何がほしいの」 「あたいね。金の服をきたフランスの女王様とね、そいから赤い頬ほっぺをした白いジョーカーと、そいから、お伽とぎばなしの御本と、そいから、なんだっけそいから、ピアノ、そいから、キュピー、そいから……」 「まあ、ずいぶんたくさんなのね」 「ええ、かあさん、もっとたくさんでもいい?」 「えエ、えエ、よござんすとも。だけどかあさんはそんなにたくさんとてもおぼえきれませんよ」 「でも、かあさん、サンタクロスのお爺さんが持ってきて下さるのでしょう」 「そりゃあ、そうだけれどもさ、サンタクロスのお爺さんも、そんなにたくさんじゃ、お忘れなさるわ」 「じゃ、かあさん、書いて頂戴ちょうだいな。そして、サンタクロスのお爺さんに手紙だして、ね」 「はい、はい、さあ書きますよ、みっちゃん、いってちょうだい」 「ピアノよ、キュピーよ、クレヨンね、スケッチ帖ちょうね、きりぬきに、手袋に、リボンに……ねえかあさん、お家うちなんかくださらないの」 「そうね、お家うちなんかおもいからねえ。サンタクロスのお爺じいさんは、お年寄りだから、とても持てないでしょうよ」 「では、ピアノも駄目かしら」 「そうね。そんなおもいものは駄目でしょ」 「じゃピアノもお家もよすわ、ああ、ハーモニカ! ハーモニカならかるいわね。そいからサーベルにピストルに……」 「ピストルなんかいるの、みっちゃん」 「だって、おとなりの二郎じろうさんが、悪漢わるものになるとき、いるんだっていったんですもの」 「まあ悪漢ですって。あのね、みっちゃん、悪漢なんかになるのはよくないのよ。それにね、もし二郎さんが悪漢になるのに、どうしてもピストルがいるのだったら、きっとサンタクロスのお爺さんが二郎さんにももってきて下さるわ」 「二郎さんとこへも、サンタクロスのお爺さんくるの」 「二郎さんのお家へも来ますよ」 「でも二郎さんとこに、煙突がないのよ」 「煙突がないとこは、天窓からはいれるでしょう」 「そうお、じゃ、ピストルはよすわ」 「さ、もう、お茶もいいでしょ。お庭へいってお遊びなさい」  みっちゃんはすぐにお庭へいって、二郎さんを呼びました。 「二郎さん、サンタクロスのお爺さんにお手紙かいて?」 「ぼく知らないや」 「あら、お手紙出さないの。あたしかあさんがね、お手紙だしたわよ。ハーモニカだの、お人形だの、リボンだの、ナイフだの、人形だの、持ってきて下さいって出したわ」 「お爺さんが、持ってきてくれるの?」 「あら、二郎さん知らないの」 「どこのお爺さん?」 「サンタクロスのお爺さんだわ」 「サンタクロスのお爺さんて、どこのお爺さん?」 「天からくるんだわ。クリスマスの晩にくるのよ」 「ぼくんとこは来ないや」 「あら、どうして? じゃきっと煙突がないからだわ。でも、かあさんいったわ、煙突のないとこは天窓からくるって」 「ほう、じゃくるかなあ、何もってくる?」 「なんでもよ」 「ピストルでも?」 「ピストルでもサーベルでも」 「じゃ、ぼく手紙をかこうや」  二郎じろうさんは、大急ぎで家うちへ飛んで帰りました。二郎さんの綿入をぬっていらした母さんにいいました。 「サンタクロスに手紙をかいてよ、かあさん」 「なんですって、この子は」 「ピストルと、靴と、洋服と、ほしいや」 「まあ、何を言っているの」 「みっちゃんとこのかあさんも手紙をかいて、サンタクロスにやったって、人形だの、リボンだの、ハーモニカだの、ねえかあさん、ぼく、ピストルとサーベルと、ね……」 「それはね二郎さん、お隣のお家には煙突があるからサンタクロスのお爺じいさんが来るのです」 「でもいったよ、みっちゃんのかあさんがね、煙突がないとこは天窓がいいんだって」 「まあ。それじゃお手紙をかいてみましょうね。坊や」 「嬉うれしいな。ぼくピストルにラッパもほしいや」 「そんなにたくさん、よくばる子には、下さらないかも知れませんよ」 「だってぼく、ラッパもほしいんだもの」 「でもね、サンタクロスのお爺様は、世界中の子供に贈物をなさるんだから、一人の子供が欲ばったら貰もらえない子供ができると悪いでしょう」 「じゃあぼく一つでいいや、ラッパ。ねえかあさん」 「そうそう二郎さんは好よい子ね」 「赤い房のついたラッパよ、かあさん」 「えエえエ、赤い房のついたのをね」 「うれしいな」  クリスマスの夜があけて、眼めをさますと、二郎さんの枕まくらもとには、立派な黄色く光って赤い房のついたラッパが、ちゃんと二郎さんを待っていました。二郎さんは大喜びでかあさんを呼びました。 「かあさん、ぼく吹いてみますよ。チッテ、チッテタ、トッテッ、チッチッ、トッテッチ」  ところが、みっちゃんの方は、朝、目をさまして見ると、リボンと鉛筆とナイフとだけしかありませんでした。  みっちゃんはストーブの煙突をのぞいて見ましたが、外には何も出てきませんでした。みっちゃんは泣き出しました。いくらたくさん贈物があっても、みっちゃんを喜ばせることが出来ないのでした。みっちゃんはいくらでもほしい子でしたから。 (一九二五、九、二五)
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6 years ago
6 minutes 50 seconds

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