
Case 24-2025: A 32-Year-Old Woman with Fatigue and Myalgias
Citation
N Engl J Med. 2025 Aug 21/28;393(8):799–807. doi:10.1056/NEJMcpc2312739
概要
本報告は、マサチューセッツ総合病院(MGH)のCase Recordsとして提示された症例である。患者は32歳女性、既往にSARS-CoV-2感染後の長期的倦怠感・筋肉痛・頭痛などを経験し、2年にわたり鍼治療やサプリメントを使用していた。再感染後は急性症状は速やかに軽快したが、その後頸部痛、右腕への放散痛、強い疲労感が出現した。
救急受診時には徐脈と房室ブロックが認められ、胸痛や動悸、労作時呼吸困難も伴っていた。血液検査では炎症反応は陰性であったが、NT-proBNPが軽度上昇していた。心電図では一過性のMobitz I型房室ブロックから完全房室ブロックまで進展し、その後自然に回復する経過を示した(図2, p.802)。
鑑別としてCOVID-19関連心筋炎や心外膜炎、肺塞栓、急性冠症候群、心筋症、感染性心内膜炎、ブルセラ症やツラレミアなどの人獣共通感染症が検討されたが、最終的に考慮されたのはライム病であった。患者はニューイングランド地方在住で屋外活動歴があり、数週間前に環状紅斑(写真, p.804)が出現していた。
血清学的検査ではBorrelia burgdorferi 特異抗体(IgM, IgG)が陽性であり、ライム心炎(Lyme carditis)と診断された。治療は静注セフトリアキソン開始後、症状改善に伴いドキシサイクリン経口投与へ移行し、計3週間の抗菌薬投与が行われた。心電図上の房室伝導遅延は2週間で消失し、その後活動レベルも回復した。
結論
本症例は、米国北東部でみられる典型的なライム病の心臓合併症(Lyme carditis)の症例であり、発熱や炎症所見に乏しい急性房室ブロックの鑑別として、野外曝露歴や紅斑の存在を重視する必要性を示した。早期の血清学的診断と抗菌薬治療により、恒久的ペースメーカーを回避しつつ良好な予後を得た。