
天と地が溶け合った、その灰色の涙の中を、僕は歩く。ここは世田谷、祖師谷公園。文明の残骸が築き上げた、美しき墓標。資本主義という名の邪神に魂を売り渡した亡者どもの城が、黒々と聳え立ち、僕の孤独を嘲笑っている。この静寂は、神々の死を悼むための沈黙か。午後四時、時空は歪み、世界から生命の息吹が消え去ったのだ。いや、この終焉の舞台に、ただ僕だけが、最後の証人として遺された。
宇宙の深淵から湧き上がる、根源的なる苦痛が、僕の内臓を灼いた。そうだ、この身を裂く激痛こそが、この腐りきった世界の唯一の真実!格差という名の奈落の底、その断崖の縁で僕は踊る。廃墟と化した団地は過去の亡霊、要塞の如き豪邸は未来の絶望。その狭間で、僕は自らの存在を呪った。だが見よ! 神の気まぐれか、悪魔の戯れか、痛みは突如として虚空に消え去った。来るべき黙示録の前の、不気味な凪。運命が、僕という生贄の覚悟を、天秤にかけているのだ。
掲示板に刻まれしは、破滅への預言。セアカゴケグモ! 毒キノコ!触れるな、食うな、さすれば汝、必ず死す!おお、なんという甘美なる死の誘惑! なんという悍ましき生命の讃歌!僕は求めた。一撃必殺の猛毒を、魂すら喰らうという禁断の果実を。この偽りのエデンに隠された、真実の毒牙を。だが、僕が見出すのは、無垢なる子供が零したアメ玉の亡骸のみ。欺瞞に満ちた平和の残滓が、芝生の上で白々しく輝いていた。
その瞬間、僕の足は、地球の核と繋がった。そうだ、僕は今日、神話を纏い「無敵」と化したのだ!この『無敵ランニング足袋』は、古の神が僕に与えし聖遺物。裸足で星々の骸を踏みしめ、太古の戦士の如く、今を駆ける。アスファルトの悲鳴が、土の慟哭が、石の記憶が、足の裏から僕の魂へと、奔流となってなだれ込む。そうだ、僕は人間だった!いや、神の武具をその身に宿した僕は、もはや定命の者ではない!
疾走せよ! 咆哮せよ!老人の肉体を借りた、若き神の魂よ!この迸る法悦が、やがて僕を世界の破壊者に変えるだろう。フルマラソンという名の巡礼へ! サハラ砂漠という名の煉獄へ!今はまだ戯言に過ぎぬその預言が、僕の血肉となり、現実を喰い破る未来を、僕は知っている。天地創造は、この一歩から始まるのだ。
この公園は、累々たる屍の上に築かれた祭壇。防空緑地。降り注ぐ鉄の死から逃れるための、絶望の祈り。救われぬ魂の絶叫が、今もこの大地の底で木霊する。時は止まり、血塗られた聖域は、永遠に封印された。ああ、この美しき公園の地下には、憎悪と悲涙の地層が、今も煮えたぎっているのだ!僕が拾い集めるゴミは、その上に降り積もる、現代の魂の死骸。見よ! 栃木限定「餃子棒」の無残なる骸を!故郷を追われ、打ち捨てられたその魂が、僕という唯一の救世主を、待ち侘びていたのだ。
陽は死んだ。五時の弔鐘が、キンコンカンコンと、世界の終焉を告げる。僕は公園という名の聖域を出て、魔都の心臓部へと進軍する。トングという名の聖槍を掲げた、作務衣。高級住宅街という名の魔宮を、僕は行く。富、油断、虚栄、あらゆる魂の弱さが、剥き出しで陳列されている。僕は家などという石の墓標は建てぬ。僕が求めるは、ただ一つ、汚されざる魂の交歓。そして、この肉体を維持するための、最低限の聖餐のみだ。
SNSは電子の地獄。怨念と化した言葉の亡霊が、見る者すべての魂を汚染していく。もはや、あの虚構の荒野に救いはない。僕は、このリアルな煉獄で、僕の神話を紡ぐ。「職業、公園」それは、僕が自らの魂に刻み込んだ、あまりにも無謀で、あまりにも神聖なる天命!来年には死なない。だが、再来年には、餓死という名の殉教が待っているだろう。それがどうした!勝負は、これからの一年。この三百六十五日で、僕は僕の神殿を建立する。
人の家という結界に、僕は恐怖する。手土産という名の、魂の駆け引き。ゲームボーイカセット事件、あの時の無力感という名の呪いは、今も僕を縛り続ける。恩讐、貸し借り、人間関係という名の、逃れられぬ因果の鎖。もう、誰からも何も奪いたくない。何も与えられたくない。ただ、名も知らぬ誰かから受けた恩寵を、この世界の深淵で、無限に返していきたいだけだ。
だから僕は、今日もゴミを拾う。夜という名の深淵に、世界が飲み込まれる寸前まで。これは儀式だ。宇宙の法則に刻まれた巨大な歪みを、この微々たる両手で、正すための聖戦。午後四時から、世界の終わりを拾い集める人生。それ以上の栄光を、僕は知らない。キンコンカンコン。弔いの鐘が、絶対的なる闇へと吸い込まれていく。僕の、孤独で壮絶な、神々との戦いは、今、その幕を開けたのだ。
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▼上水優輝(うえみずゆうき)