
米国の3つの価値観層:伝統派、モダン派、カルチュラル・クリエイティブスの特徴に関する報告書
本報告書は、LOHAS(Lifestyles Of Health And Sustainability)という概念の源流である、米国の価値観に関する調査研究を解説するものである。
この概念は、米国の社会学者ポール・レイと心理学者シェリー・アンダーソンが著書『The Cultural Creatives』(カルチュラル・クリエイティブス)の中で提唱した。
彼らは10年以上にわたり15万人を対象とした調査を実施し、その結果から米国社会には主に3つの価値観に基づく層が存在することを発見した。
それは「伝統派(Traditionalists)」「モダン派(Modernists)」、そして「カルチュラル・クリエイティブス(Cultural Creatives)=生活創造者」である。LOHASとは、調査当時、米国成人の26%を占めたカルチュラル・クリエイティブスのライフスタイルを指す言葉である。
本報告書では、これら3つの層が持つ、それぞれに異なる価値観と特徴について詳述する。
ただし、これらはあくまで抽出された「モデル」であり、実際の個人はこれらの価値観を様々な割合で組み合わせた、より複雑な世界観を持つと理解する必要がある。
1. 伝統派 (Traditionalists) の特徴
1.1. 社会的・道徳的価値観 (Social and Moral Values)
この層の価値観は、厳格な家父長制と伝統的な道徳規範に深く根差している。• 家父長が家族を支配するべきだと考える。
• フェミニズムを嫌う。
• 男女はそれぞれ伝統的な役割を全うすべきだと信じている。• ポルノグラフィ、10代のセックス、婚外交渉、人工中絶の禁止を求める。
1.2. コミュニティと国家観 (Community and National Views)
所属意識と愛国心が、彼らのアイデンティティの中核を形成している。
• 家族、教会、地域社会への所属を重視する。
• 男性は軍隊に入隊し、自国に誇りを持つべきだと考える。
• 外国人に対しては排他的な姿勢をとる。
1.3. ライフスタイルと信条 (Lifestyle and Beliefs)
彼らの信条は、宗教的教義と伝統的な生活様式への強いこだわりを特徴とする。
• 人生におけるすべての導きは聖書にあると信じている。
• 大都市や郊外よりも、田舎や小さな町での暮らしの方が道徳的であると考える。
• 不道徳な行為を制約することは、市民の自由よりも重要であると見なす。
• 武装する自由を重要視する。
2. モダン派 (Modernists) の特徴
2.1. 中核的価値観と世界観 (Core Values and Worldview)
モダン派の世界観は、物質主義、実利主義、そして科学技術への絶対的な信頼によって定義される。
• 物質主義を信奉する。
• 自己実現や内面的・精神的な生活には無関心である。
• 利他的な考え方や理想主義を持たない。
• 理想主義ではない。
• 人間関係を重視しない。
• 政治に対しては冷笑的(シニカル)な態度をとる。
• 科学と技術が真実であると信じている。
• 人間の肉体やほとんどの組織は、機械のようなものだと捉える。
2.2. 経済・キャリア観 (Economic and Career Views)
モダン派の成功観は、金銭的な富とキャリア上の地位を絶対的な指標とする、明確な階層志向に基づいている。
• 人生において成功を最も優先する。
• 目標に向かって成功の階段を上ることに集中する。
• 多くの金銭を所有し、「時は金なり」を信条とする。
• 経済的および技術的な進歩を重視する。
• 大企業や政府が最善の判断を知っていると信頼する。
• 富裕であることを尊敬し、重視するのは正しいことだと考える。
• 大きいことはいいことだと考える。
• 目標を設定することは重要で効果的だと信じている。
2.3. ライフスタイルと問題解決 (Lifestyle and Problem-Solving)
彼らのライフスタイルは効率性、外見、そして合理的な分析を最優先する。
• 身なりを重視し、スタイリッシュで最新のトレンドを追い求める。
• 効率とスピードを最優先する。
• 問題解決の最善の方法は分析であると信じている。
• 地域住民、田舎の人々、伝統、ニューエイジ、宗教といった価値観を否定する。• メディアが提供する娯楽を好む。
3. ロハス派=カルチュラル・クリエイティブス (LOHAS / Cultural Creatives) の特徴
3.1. 中核的価値観と世界観 (Core Values and Worldview)
この層の価値観は、非物質主義、自己実現、そして本物志向に根差しており、内面的な豊かさを追求する。
• 非物質主義的な世界観を持つ。
• 自己実現と理想主義を志向する。
• 人間関係を大切にし、成功は高い優先事項ではない。
• 出世には関心がない。
• 宗教的神秘を信じる。
• 自然は神聖なものであると考える。
• 結果よりもプロセスを重視する。
• 本物志向であり、プラスチック製品、偽物、模造品、ハイファッションを嫌う。
• 未来に対して楽観的である。
3.2. 社会・政治への関与 (Social and Political Engagement)
彼らは社会課題に対して強い当事者意識を持ち、積極的な関与を通じて持続可能な未来を目指す。
• 環境保護と持続可能な社会の実現を支持する。
• 利他的で、ボランティア活動に積極的である。
• 社会的な活動家でありたいという願望を持つ。
• 政治に対して冷笑的ではない。
• 技術の進歩にはあまり関心がない。
3.3. ライフスタイルと消費行動 (Lifestyle and Consumer Behavior)
消費行動は慎重かつ意識的であり、生活においてはシンプルさと質の高さを両立させることを重視する。
• シンプルな生活様式(シンプルライフ)を支持する。
• 購入前には情報を吟味する慎重な消費者である。
• 家族や友人と質の高い時間を過ごすことを重視する。
• 食への関心が非常に高く、新しいレストランでの外食、自炊、エスニック料理などを楽しむ。
• 日本車など、燃費の良い自動車を好んで使用する。
• 子供の教育、保育、家庭の福祉に高い関心を持つ。
3.4. 住居と旅行 (Housing and Travel)
住居や旅行においては、ステータスよりも本質的な価値や体験を求める傾向が顕著である。
• 新築住宅よりも、緑が多くプライバシーが保たれる古い住宅地を好む。
• ステータスを誇示するような外観(例:円柱のある家)を嫌い、正統的で本質的なデザインを求める。
• 旅行を非常に好み、特に異国情緒があり、冒険的(ただし危険ではない)、教育的で、本物の体験ができる精神的な旅を求める(例:エコツーリズム、パッケージ旅行では行かない場所への旅、マヤ文明の再建を手伝うツアーなど)。
3.5. 健康と文化への関心 (Interest in Health and Culture)
心身の統合的な健康と、知的好奇心を満たす文化活動への強い関心を特徴とする。
• 心、身体、精神が一体となったホリスティックな健康観を持つ。
• 健康的な食生活や代替医療による予防医学に関心を持ち、なるべく薬に頼らない。
• 読書を好み、大衆を誤解させるようなテレビ番組は嫌う一方で、良質な情報を得るためにラジオをよく聴く。
• 芸術や文化活動に非常に積極的である。• 物事の背景にあるストーリーや詳細な情報(うんちく)を好む。
4. 結論
本報告書では、ポール・レイとシェリー・アンダーソンの研究によって特定された、米国の3つの主要な価値観層(伝統派、モダン派、カルチュラル・クリエイティブス)の際立った特徴を概説した。
重要な点として、これらは概念的なモデルであり、現実の個人はこれらの価値観を様々な割合で内包している。そのため、実際には無数とも言える多様な個人の世界観が存在すると考えられる。