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オーディオドラマ「五の線」
闇と鮒
99 episodes
8 months ago
ある殺人事件が身近なところで起こったことを、佐竹はテレビのニュースで知る。 容疑者は高校時代の友人だった。事件は解決の糸口を見出さない状況が続き、ついには佐竹自身も巻き込まれる。石川を舞台にした実験的オーディオドラマです。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※不定期ですが地味に更新してまいります。こちらはポッドキャスト専用ブログですので、テキストデータはウェブサイトにあります。http://yamitofuna.org
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ある殺人事件が身近なところで起こったことを、佐竹はテレビのニュースで知る。 容疑者は高校時代の友人だった。事件は解決の糸口を見出さない状況が続き、ついには佐竹自身も巻き込まれる。石川を舞台にした実験的オーディオドラマです。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※不定期ですが地味に更新してまいります。こちらはポッドキャスト専用ブログですので、テキストデータはウェブサイトにあります。http://yamitofuna.org
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オーディオドラマ「五の線」
66,12月21日 月曜日 15時35分 ホテルゴールドリーフ
66.mp3 【お知らせ】 このブログは「五の線リメイク版」https://re-gonosen.seesaa.netへ移行中です。 1ヶ月程度で移行する予定ですのでご注意ください。 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「一色貴紀。」 「そうです。」 松永はため息を付いた。 「あのバカ…。」 彼は下唇を噛んだ。そしてホワイトボードに貼られている顔写真を見つめ、再び十河と相対した。 「さっきも言っただろう。覚悟はできている。」 松永は彼の視線からは目を離さず、こう言い切った。暫くの沈黙を経て十河の目が充血し、瞳から一筋の涙が流れ落ちた。 「十河…。」 「理事官、申し訳ございません…。私は嬉しいんです。若手警察官、しかもキャリアの貴方が一心不乱に真実を追い求めてひた走る姿を見ることができて…。」 「なんだなんだ。おまえやめろよ。本題はこれからだろう。調子が狂うじゃねぇか。」 松永は頭を掻いた。 「すいません。本題に移ります。先ほど私がお話したマルホン建設、仁熊会、金沢銀行の関係性に新たに加わるものがあるんです。それが衆議院議員本多善幸と我が県警です。」 「なに。」 「本多善幸と県警のつながりは10年前ほどからです。そのころ国政で大きな動きがあったのを管理官は覚えてらしゃいますか?」 「10年前?10年前って言うと…イラク戦争とかいろんな銀行が合併したとかそんなところしか思い浮かばん。国政レベルって言っても…あの時は…民政党の大泉総理の長期政権中だ…。いや、まて…そういえば、今の最大野党の政友党ができたのはそれぐらいだったかもしない。」 「そうです。政友党ができました。理事官。政友党の実力者は誰ですか?」 「小金沢だろ。」 「はい。小金沢は民政党を割って政友党を結成しました。ヤツは民政党で本多が幹事長になるまでの間、権勢を誇った大物政治家でした。しかし奴はどちらかというと民政党の中でもリベラルな立ち位置。いつの頃からか小金沢は官僚に実質的に支配されているこの国の形を憂い、今一度改めて政治主導の国を作るという思想を高らかに叫ぶようになります。この小金沢の主張は民政党の中で物議を醸し出すことになります。そのころ小金沢に真っ向から対立する形で政治主導の思想に異を唱えたのが本多善幸でした。彼は昔ながらの利益誘導型の政治家。官僚の思惑と自分の票を上手くすり合わせることによって、その盤石な地盤を築いてきました。民政党自体がそういった背景を持つ議員ばかりで構成されていましたので、彼の意見は党内で一気にコンセンサスを得ることになります。ここで小金沢と本多の対立が表面化します。どちらも民政党のベテラン議員。両者の権力闘争は熾烈を極めます。二人の対立が激化したある時のことです。この県警に小金沢の秘書がやってきます。」 「秘書?何をしに。」 「どうやら当時はまだ明るみになっとらんマルホン建設と仁熊会の関係を匂わすようなことを、当時の県警上層部に吹き込んどったようなんですわ。」 「お前らはその時点でそのことに気づいていいなかったのか。」 「はい。我々がマルホン建設と仁熊会のことを調べ始めたのはこのリークがあったからです。」 「調べてどうした。」 「いま理事官に言ったようなことがぼろぼろ出てきました。」 「だが、それだけでは立件できない。」 「そうです。そこでガサを入れようとしたんです。しかし…。」 「しかし?」 「令状の請求時点でそれは握りつぶされました。」 「なぜ。」 「本多の上層部買収です。」 「何…。」 「理事官。当時のウチの本部長は誰だと思います。」 「…知らん…。」 「石田長官ですよ。」 「まさか…。」 「そのまさかなんですよ理事官。」 「警察庁長官、石田利三(トシゾウ)か…。」 松永は肩の力を落とした。そして手にしていたサインペンをそっとテーブルの上に置いて、椅子に座った。 「官僚との対決姿勢を打ち出した小金沢よりも、調整型の本多のほうが与し易かったんでしょう。小金沢からの働きかけにも関わらずウチは本多を取ります。ほんで臭いものに蓋をするわけです。」 松永は頭を抱えた。 「本多を狙ったスキャンダル事件は発覚することはなくなりました。ほんで形勢は本多の方に傾きます。党内の保守派の意見を取りまとめて党内基盤を固め、あいつは次なる一手を撃ちます。」 「検察上層部も取り込んで公共事業口利き事件をでっち上げる。」 「ご明察です。ありもしないことを検察リークという形で大々的にマスコミに報じさせるわけです。このニュースは一時期世の中を騒がせました。本多はいろいろやったんでしょう。今は退官していますが、前の検事総長も本多の息がかかっとると噂されとりましたからね。結果、小金沢の権威は失墜します。奴は民政党から半分追い出されるように離党。以前から親交があった野党と合流し、政友党を結成するわけです。本多のスキャンダルは司法関係のグリップを聞かせとるから明るみにはならん。しかし小金沢はグリップがきかんため、現在も公判中ですわ。」 「警察も検察も本多とずぶずぶってわけか。」 「検察に関しては畑が違いますんで、私はよくわかりませんが、少なくともウチに関してはマルホン建設と仁熊会、そして金沢銀行の関係は歴代上層部で秘匿事項として引き継がれとります。」 「引き継がれているからこそ、そこに手を入れようとした一色の捜査請求をもみ消した。」 「理事官。さっき北署で言ったように、私には一色の捜査請求をもみ消した当事者はわかりかねます。しかしこれだけは分かるんですよ。県警上層部と察庁上層部が何かを寄って集ってもみ消しとるってことはね。長い間ここにおったら、それぐらいのことは調べんでも空気でわかるようになりますわ。」 「なるほど。よくわかった。」 松永は立ち上がって部屋の奥に続く扉を開いた。 「おい。こういうことだそうだ。」 部屋の奥からヘッドフォンをつけたままの男が二名現れた。突然の彼らの登場に十河は驚きを隠せない表情である。 「あ…」 「ということは俺らが聞かされていた情報はどうやら本当のようだな。」 容姿端麗な男はつけていたそれを外し、松永の方を見て口を開いた。 「そのようだ。」 「しかし、お前も役者だな。」 「何が。」 「お前、上層部からの指示で捜査本部の指揮をとってるんだろう。」 「宇都宮だけならいざしらず、石田長官まで絡んでるとは思わなかったよ。」 突然繰り広げられる男三人の様子に唖然としていた十河は、なんとか口を開いて言葉を発した。 「理事官…これは一体…。」 「ああ、十河。言っとくがおれは理事官でも何でもねぇ。」 「はい?」 「監察だ。」 「え…。」 「国家公安委員会特務監察専任担当官。松永秀夫だ。」 「何ですって…。」 「この二人は東京地検特捜部機密捜査班の人間だ。」 直江は松永の方を見て何でそんな事を十河に話す必要があると詰め寄ったが、本人を前にしてお互いが言い争うのは良くないとの高山の諌めを受けて、襟を正して十河と向き合った。 「こんな紹介を受けてしまっては機密も何もあったもんじゃありませんが、よろしくお願いします。直江といいます。」 「同じく高山です。」 「今聞かせてもらった話の続きは北陸新幹線に繋がっていくということで宜しいでしょうか。」 「え、ええ…。」 「確認のためにお話します。十河さん。私の話に間違いがあるようでしたら、違うと言ってください。逆の場合はそのままお聞きください。」 「はい。」 「仁熊会のマルホン建設に対する侵食は田上地区の開発にとどまることは無かった。彼奴らは関わった連中から全てを毟り取る。すでにマルホン建設と仁熊会は蜜月の関係。そこは慶喜が勤める金沢銀行の存在すら介在している。気付けば三者は一心同体の運命共同体のようになっていた。本多はいまあなたが言ったように司法関係に手を回し、グリップを効かせている。こんな状況下で仁熊会は放っておきません。マルホン建設は石川県では一番のゼネコンです。そして金沢銀行も石川の経済を支える有力第一地銀。両者とも石川の経済の屋台骨をになっている。そこで仁熊会は更なる見返りをマルホン建設に要求するようになる。」 「すいません。恐縮ですが、仁熊会は決して見える形で要求はしません。」 「ああ、すいません。言葉が悪かった。仁熊会は運命共同体であるマルホン建設と金沢銀行の慶喜との間で更なる利権を作り上げることを画策する。それが北陸新幹線にかかる用地取得のインサイダー取引です。」 「そうです。北陸新幹線事業はベアーズが土地を国に売り払った頃から本多が唱え始めた政策です。あの頃はまだ単なる構想にすぎなかったはずなのに、既に彼奴らは準備をしていました。」 「ベアーズデベロップメントは、バブル崩壊後、地価が下がり続けているにも関わらず、田上地区の土地だけでなく、田舎の山や田畑を宅地開発の名目で買います。なぜ構想間もないこの頃にベアーズが土地に当たりをつけていたか。既にこの段階である程度の素案が国建省で作成されていたからです。それを建設族の本多が入手しリーク。土地購入資金の用立ては弟の慶喜が関与。二束三文で買った土地はしばらくの間適当に開発され、計画が行き詰まったとかの理由で放置される訳です。」 「あなたのおっしゃる通りです。そして田上の頃とは比べものにならん程の壮大な工作活動が始まるわけです。」 高山が十河に缶コーヒーを差し出した。 「そこまで調べ上げてるんでしたら、皆さんお分かりでしょう。」 「まぁ大体のことはな。」 松永も高山から提供された缶コーヒーに口をつけた。 「ここが闇の本質です。さっき10年前に本多と小金沢の政争の道具に警察が使われたと言いましたね。」 「はい。」 「私はそこで金が動いたと言いました。」 「そうだな。」 「それですよ。原資は。」 皆と同じく缶コーヒーに口をつけた高山は咳き込んだ。 「ですよね。文脈からいくとそうなりますよね。」 「理事官。直江さん。これは大疑獄事件なんですよ。」 全員が沈黙した。しかし彼らの表情は何ひとつ変わることはない。 「ここにあいつは切り込もうとした。」 「そうです。当時、一色はこっちに赴任してきて間もない頃だったんで、そこまでの関係性を把握しとらんかったでしょうが、上層部は横領事件に絡む仁熊会へのガサをきっかけに事が明るみになるのを拒んだ。だから一色の捜査請求も取り上げられんかったわけです。」 松永は再び大きな用紙が置かれたテーブルに移動した。 「しかし、そんな大掛かりな枠組みを作るためには誰かを統括する立場に据えなければならない。本多自身が全てを仕切れるわけもない。」 彼は大きな紙に書かれた人物の名前を目で追った。 そしてそこに書かれているひとりの男の名前を指差した。 「こいつか…。」 室内の全員がその名前を見た。 「よし。松永。俺は今から部長に報告する。お前もすぐに段取りを整えてくれ。」 「わかった。」 「私は関係各所に連絡します。」 直江と高山は奥に部屋へ戻って行った。 「一体…何が起こってるんですか…。」 松永は十河を見た。彼の口元には緩んだ。 「時は今、雨がしたたる、師走かな。」 「…雨、ですか…。」 十河は辛うじて外の様子が見える窓を眺めた。 「雨なんか降っていませんが…。」 「今にわかる。十河。ありがとう。ここでのやり取りは一生記憶から消してくれ。」 「は、はい。」 「お前のような警官ばかりだと、この世も少しはまともなんだろうがな…。」
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5 years ago
18 minutes

オーディオドラマ「五の線」
65,12月21日 月曜日 14時55分 ホテルゴールドリーフ
65.mp3 【お知らせ】 このブログは「五の線リメイク版」https://re-gonosen.seesaa.netへ移行中です。 1ヶ月程度で移行する予定ですのでご注意ください。 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー かつては金沢城の大手堀があったこの辺りはその一部を残して埋め立てられ、今では道路が走っている。この道路に沿うように何件かの宿泊施設が並んでいた。近江町方面からこの辺りまで歩いてきたひとりの男は立ち止まって見上げた。そこには背は低いが真新しい5階建てのホテルがあった。この辺りは金沢城や兼六園のすぐ近くであるため、景観保持ということで建物の高さに制限が設けられていた。無論それは宿泊施設においても例外ではない。彼は握りしめていた拳を開いて、そこに目を落とした。そして建物の正面玄関に掲げられている看板に目をやった。 「ここやな。」 彼は寒さに身を竦めながらその中へと足を進めた。自動ドアが開かれるとすぐそこはフロントロビーだった。ロビーの中央には大きなクリスマスツリーが配され、様々なオーナメントによって凝った飾り付けがされていた。彼は左腕の時計を見た。今日は12月21日の月曜日。今週の木曜日はクリスマスイブということもあって、このロビーの客層はガラリと変わるのだろう。彼は周囲を見回した。平日の夕刻ということもあって、客はまばら。せいぜいが暇を持て余した老年層がロビーにある喫茶店で、日常会話に興じる程度だった。彼はそれを横目にエレベーターの前に立った。しばらくしてそれは開かれ、彼を5階まで運んだ。扉が開かれるとそこに男が立っていた。 「よう。」 先ほどまで北署で一緒だった松永が声をかけた。突然のことだったので彼は返答に苦慮した。 「あ、ああ…。」 「部屋は奥だ。」 そう言うと松永は十河を奥へ手引きした。 「512号室なんて部屋はここにはない。」 彼は苦笑いをした。 「秘匿性が求められる場合は、これぐらいの気遣いがホテルには求められる。」 部屋の前で立ち止まった彼は扉に記されている部屋番号が1512であることを確認した。松永はカードキーを取り出して扉を開いた。そして部屋に入ってすぐの壁に手にしていたカードを差し込み、室内の全ての照明を灯した。 部屋に通された十河だったが、3歩歩んだところで彼は足を止めた。 「何ですかこれは…。」 ゴールドリーフの1512号室は60㎡の豪華な作りのスイートルームであった。上質で機能的、そして贅沢でくつろぎのひとときを提供するというのが、スイートルームの本来の用途。しかし今、十河が目にしている情景はそう言ったものとは程遠いものだった。本来ならばこの部屋から隣接する金沢城址公園を望み、眺めの良さを楽しむはずの大きな窓はホワイトボードが置かれることで、その魅力を見事に失わせていた。そしてそのホワイトボードには様々な人物の顔写真、そして殴り書きに近い文字の羅列が見受けられる。側にあるテーブルにはノート型のパソコンが2台配され、そこにも数多くの書類が山積みとなっている。足元を見るとこれまた数多くの書類が乱雑に置かれ、部屋の隅には多くの段ボール箱がうず高く重ねてあった。 「帳場みたいなもんだ。」 松永はそう言うと部屋の隅にあるソファに腰をかけた。それはおそらく有名なデザイナーによるものだろう。しかし書類によって部屋が占拠されているので、その存在感は薄い。十河は落ち着かない様子で松永と対面するようにそれに腰をかけた。 「帳場って…。」 十河はソファに腰をかけて再度部屋全体を眺めた。 散らかっている。それが十河の素直な感想だった。そこかしこに散らばっている書類が目立つ。お世辞にも綺麗とは言えない。捜査本部もいろいろな人間が出入りし、様々な情報を吸い上げるためするため随分な状況だが、この部屋はそれに輪をかけたような有り様だ。 「俺は欲しい情報にすぐアクセスできないと気が済まないたちでな。この通りだよ。」 「で、早速なんだが。」 身をかがめていた十河は背筋を伸ばした。 「仁熊会とマルホン建設の関係性を詳しく教えてくれ。」 松永はソファに腰を掛けたまま地べたに落ちているA2サイズの用紙を拾い上げて、それを持って立ち上がった。そして山積みの書類をテーブルから退かして空いたスペースにその紙を広げた。 「どこから話せばいいでしょうか。」 「はじめから順を追って。」 十河は自分の額に手をやった。どのように話せば効率的に松永に情報を伝えることができるだろう。マルホン建設と仁熊会の関係は簡単に説明できない複雑さを持っているため、彼はそれを整理するためしばしの時間をかけた。 「…マルホン建設は国会議員の本多善幸の実家です。仁熊会とマルホン建設が関係を持ったのはこの善幸が社長だった時からです。」 一体何を書いているのか分からないが、松永は十河の言に従ってサインペンを走らせた。 「続けて。」 「私もマルホン建設と仁熊会がくっついたきっかけまでは知らんがですが、仁熊会の影があの会社にちらついてきたのは、バブルが崩壊したころからです。マルホン建設は金沢のいろんなところに土地を購入しとりました。勿論投資目的です。それが弾けてしまって、あの会社は随分な含み損を抱えたんです。さっさと損切りしようにも毎年価値が下がる資産なんざ誰も買いません。しかしそれをなんでかそんぐりそのまま買い取ったところがあった。それが仁熊会のフロント企業と言われるベアーズデベロップメントっちゅう会社ですわ。しかもバブルが崩壊して1年もたたんころの話です。」 「何だそれは。」 「正確な数字ではありませんが、確か全部で20億ぐらいやったと思います。」 「20億?」 「はい。これからどんだけ価値が目減りするかわからん物件をベアーズは全部買い取りました。その後も地価は下落します。ほんでもベアーズは手放さんかった。」 「それじゃあベアーズがみすみす損をするだけだな。」 「そうです。しかしあいつらがそんなボランティアなんかする訳ありません。あいつらがそのタイミングで土地を購入したのは訳があったんです。」 「何だ。」 「バブル崩壊から2年後に本多は衆議院議員選挙に打って出ます。その時にも仁熊会の影がちらほら見えとるんですわ。あいつの選挙運動をバックアップしとったイベント会社ってのがありまして、それがこれまたどうやら仁熊会系列の会社のようなんですよ。」 「ほう。」 「あいつらを侮ってはいけません。あいつらはあいつらなりのネットワークっちゅうもんを持っとります。その組織票も馬鹿になりませんしね。始めての選挙にもかかわらず、結果的に本多は圧勝し国会議員となるわけです。しかしこんな選挙ビジネスだけで仁熊会の損は取り返せません。マルホン建設は土地の売却あたりから、建設工事の下請けに仁熊会のフロント企業を使うようになります。暴対法では暴力団が自分のところを使えと要求することは禁じられておりますが、マルホン建設が進んで使うならば話は別です。あいつらは上手くマルホン建設に潜り込んで行くわけです。」 「そうか…所謂ズブズブってやつだな。」 「はい。そんなこんなで月日は経ち、本多が国会議員になって3年後の頃、田上地区の区画整理事業が突如として持ち上がったんです。」 「区画整理?」 「ええ。バブル崩壊から下落し続けとった地価はそこで下げ止まりました。あの辺りに幹線道路が作られるとか、大学が建設されるとかいろんな話が噂され、田上あたりの地価は高騰を始めます。まぁこの噂っていうのも仁熊会が積極的に流したやつなんですけどね。噂には尾ひれ背びれがついて、田上地区あたりだけがバブル再来のようになります。結局、地価はマルホン建設が手放した時とほとんど同じぐらいになりました。そこで区画整理事業が始まったんです。」 「用地取得か。」 「はい。田上には新たに国道が敷かれました。またうまいぐあいにこの国道っちゅうのが仁熊会が持っとる土地にことごとく引っかかっとったんです。あいつらは何かしらの理由をつけて取得価格を釣り上げます。結果的にあいつらは三割高値の売却に成功。20億の3割ですから6億の丸儲けですわ。」 松永はペンを走らせていた手を止めた。 「聞いたことがあるような話だな。」 「ええ。」 「それが闇なのか。」 「いいえ。まだです。」 「なんだ?本多善幸の国建省への働きかけか?」 「それもありますが、順を追って話します。」 「いったいどんだけあるんだよ…。」 「理事官。深いということはその闇がそれなりに広範に渡ってあるということです。要点だけを掻い摘んで説明するというのを困難にさせます。それにあまり端折ると物事の本質が見えにくくなります。なので簡単に説明できるものではありません。」 「わかった。わかったよ。続けてくれ。」 松永は両手を上げて万歳するように身体を伸ばした。 「はい。まず疑問に思うのが、仁熊会が20億の金をあっさりと用立てた点です。ひとくちに20億と言いますが、ここらの中小企業が簡単にキャッシュで用立てられるもんじゃありません。」 「確かにそうだ。」 「もちろん仁熊会もそれだけのキャッシュをポンと出せるほどの体力はありません。」 「…銀行か…。」 「はい。本多善幸の弟の慶喜は金沢銀行の行員です。彼は当時、とある支店の次長でした。彼がどうやらその時にベアーズデベロップメントにこの金を融資しとるようなんです。」 「なに?」 「マルホン建設は損を出す資産を売却したい。しかしバブル崩壊で誰もそんなもん買わん。そこでマルホン建設は仁熊会を噛ませることで、金沢銀行に損失を補填させた。」 「しかしその損失を補填する資金はあくまでも金沢銀行から仁熊会に対する貸付資金。借りたものは返さなければならない。仁熊会が倒れてしまってはその資金は回収不能となり、今度は金沢銀行が大損するハメになる。」 「そうです。本多慶喜はこのベアーズに対する巨額の融資案件を実行することで、次長から支店長に昇進します。しかしそれが不良債権化すると、彼の出世のどころか金沢銀行の経営にも影響を及ぼすほどの事態に発展します。そこでマルホン建設の善幸は仁熊会と密約を結ぶんです。自分が政治に影響のある立場になることで、仁熊会に売却した土地の含み損を解消させると。それが確実に売りさばけるようにすると。それが善幸が国会議員になって3年後に持ち上がった田上地区の区画整理事業やったって訳です。仁熊会としては当初の予定通りといったところでしょう。区画整理事業までの間、本多の選挙にまつわるビジネスや、マルホン建設からの工事を受注することで利益を得る。別に自分たちがマルホン建設に要求するわけじゃない。マルホン建設が自ら依頼してくるんですからね。暴対法に何ら抵触しない。これで日銭は稼ぐことができる。ほんで最終的には買った土地の価格高騰と売却先も斡旋すると約束してるわけですから、仁熊会にとってこれ以上ないうまい話になる。」 「区画整理事業が着手されるまでの期間、仮にベアーズの資金繰りが難しくなっても、慶喜も自分の立場を守るために追加の融資をせざるを得なくなる。慶喜は同支店の支店長になることで融資を続ける。そうしないと金沢銀行は多額の不良債権を抱えてしまうからな。」 「どうです。酷いもんでしょう。」 「政官業の癒着だな。」 松永は手にしていたサインペンを床に投げつけた。 「理事官。これからですよ闇は。」 十河は立ち上がった。そして松永を真剣な面持ちで見つめた。 「理事官…。本当に突っ込むんですね…。」 念を押すように十河は言った。 「過去に1人だけここに突っ込もうとした人が居ました。」 十河の顔を見ていた松永はホワイトボードの方へ視線をそらした。そして彼はそこに貼られている一枚の顔写真をしばらく見つめた。 「しかし、その人間は今、連続殺人事件の被疑者となっています。」 「一色貴紀。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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5 years ago
18 minutes

オーディオドラマ「五の線」
64,12月21日 月曜日 14時22分 金沢銀行本店
【お知らせ】 このブログは「五の線リメイク版」https://re-gonosen.seesaa.netへ移行中です。 1ヶ月程度で移行する予定ですのでご注意ください。 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 64.mp3 本多慶喜は12畳ほどの広さの専務室にある革張りの自席に座った。ため息をついたところで懐にしまっていた携帯電話が鳴った。彼はそれを取り出して画面に表示される発信者の名前を見て思わず舌を打った。 先程まで開かれていた金沢銀行の役員会上でマルホン建設の追加融資には、条件が課せられた。それは事前に山県が作成した経営改善策を無条件で受け入れることだった。常務の加賀は成長分野である介護・医療の優良先とマルホン建設が提携する山県の案を評価した。これが即座に実行されるならば、仮に金融検査が入っても格下げを回避できようという評価だ。併せて加賀はこの改善策を根拠に、金融庁にマルホン建設の査定を大目に見るよう、事前に働きかけること約束した。 今俎上に上がっている1億の融資が実行されなければマルホン建設は資金ショートを起こして経営に行き詰まってしまう。しかしそのために課せられた条件は慶喜にとって具合の悪いものだった。提携だけならば良いが、ドットメディカルはそれに条件をつけてきた。ドットメディカルのマルホン建設における発言権を高めるために、役員を刷新せよとの事だった。現社長はそのままで、一族の役員は全て解任。その代わりにマルホン建設社内の生え抜きの若手管理職を常務に、ドットメディカルから専務取締役を選任せよとのことだ。後の2人の取締役は社外から引っ張ってくる。今まで役員数が何故か10名もいたマルホン建設はその数を5名にせよとのことだった。 慶喜は金沢銀行専務取締役ながら、実家の家業であるということもあって、マルホン建設の社外取締役として席を置いていた。しかし今般の提携話によってその職も解かれることとなる。 「善昌…。すまん…。」 そう言って彼は何度も鳴る携帯をそのまま机の上に置いて放置した。しばらくしてそれは鳴り止んだ。 ー兄貴にどう報告すればいいんだ…。 慶喜は背もたれに身を委ねて、そのまま天を仰いだ。目を瞑りひと時の間をおいて彼は目を開いた。そして彼は自席に配されている固定電話の受話器に手をかけた。 「もしもし…。あぁ、私だが…。」 「どうしました。」 「まずいことになった。」 「まずいこと?」 「マルホン建設の人事が一新される。」 「はぁ?」 「俺も身内も全員解任だ。」 「どうしたんですか急に。」 「実は…マルホン建設に対する1億の融資案件があってな。その実行条件として役員一同の刷新が課せられた。」 受話器の向こうの男は黙ったままだった。 「善昌はそのままだが、役員のほとんどが社外からの者になる…。」 「あの…そういう事態を未然に防ぐのがあなたの仕事のはずじゃないですか。」 「すまん…。私の力が及ばなかった…。」 「専務困りますよ。力及ばずで済ませる話じゃありませんよ。何とかしてくださいよ。」 「しかし…。役員会でこれは決議された。この条件を飲まないことには手貸が実行できん…。」 電話の向こう側の男はしばらくの沈黙を経て言葉を発した。 「役立たずめ。」 「なにっ。」 「俺に畑山の秘書をやれとか横槍入れてる暇があるんだったら、足下を固めときゃよかったんだよ。ったく…。」 「村上君…。」 「別にいいじゃないですか。マルホン建設ぐらい潰れても。」 「お前、何言ってるんだ…。あの会社が潰れたら社会的な影響も大きい。下請けの多くも飛ぶことになる。」 走らせていた車を止め、彼は右手で髪をかきあげた。そして大きく息をついた。 「お利口さんぶんじゃねぇよ。」 「なにぃ。」 「結局自分のウチが心配なんだろ。」 「村上、お前何言ってるんだ。俺ら一族もマルホン建設から追放されるんだぞ。」 「ふざけたこと言ってんじゃねぇよ。善昌は残るんだろ。本多家としての世間的な対面は保ったままだろ。」 村上の言葉に慶喜は反論できなかった。 「何とかしろよ。」 「それは…。」 「簡単だろ。その融資を実行させないようにすればいいだけだ。」 「お前、何言ってるんだ…。」 村上は助手席にある鞄の中をまさぐった。そしてその中から煙草を取り出してそれに火をつけた。 「マルホン建設を潰せ。」 「お前…自分が何を言っているか分かってるのか…。」 「ふーっ。利用価値がないものには市場からご退場いただくしかないでしょうが。」 「マルホン建設は兄貴の実家でもあるんだぞ。」 「だから?だからどうだって言うんですか?」 「マルホン建設を基盤とした組織票が…。」 「うるせぇ。なんだ組織票って。うるせぇよ。」 村上は吸っていた煙草を車内の灰皿に力一杯押しつけた。 「あのなぁ。お前やマルホン建設がどうなろうがこっちには関係ないことなんだよ。先生は先生で確固たる基盤を持ってるんだ。建設票のひとつやふたつ、挽回しようと思えばなんとでもなるよ。それにな、もうそんな組織票をあてにする時代じゃねぇんだよ。浮動票だよ浮動票。世の中の風を読んでそれに乗っかったもんが勝つんだよ。」 「む、村上君…。」 「専務、何とかなりませんかねぇ。マルホン建設が存続することは結構なんですけど、私としてはそこに外部の人間が入ってくるって事態が非常に困るんですよ。そんなぐらいならいっそあの会社がなくなってしまった方がありがたい。あーむしろ無くなるにはグッドタイミングかもしれませんね。」 「しかし…。」 「しかしもクソもあったもんですか。無能なトップを据え、ろくに経営らしい経営もできていないあんた達本多一族にすべての原因があるんでしょう。専務、あなたも同類ですよ。」 「村上…お前…。」 「専務もご存知でしょう。ねぇ。」 「何の…ことだ…。」 「またまた、ご冗談を。」 「待て、村上君…。一体…何のことだ…。私には皆目見当も…」 「6年前の熨子山。」 電話の向こうの慶喜は絶句した。 「まったく…。あれがバレるでしょう。なんでそんな事にも気が回らないんですかね。」 そう言うと村上は社外に出た。そしてトランクの方へ向かってそれを開けた。彼はその中を何かを確認するかのように、隅から隅まで覗いた。 「まぁ何でもいいから、何とかしろよ。な。」 「ど、どうすればいいんだ…。そ、そうだ…こういう時こそ兄貴の力を借りるのはどうだ。」 「だから言ってるだろう。先生は関係ない。全部マルホン建設がやったことだ。」 「馬鹿な〓︎お前こそ当事者だろう〓︎」 「さっきからゴタゴタうるせェな。口動かす前に体動かせ。何としてでもその融資の話をぶっ壊せわかったな。」 ここで村上は一方的に電話を切った。そしてトランクの中に首を突っ込んだ。 「あーやっぱり何か臭うな。気のせいかな…。」 彼は消臭剤を手にしてそこに2、3度吹き付けて扉を閉めた。 「佐竹ぇ。これがお前が言ってたやつか?ちょっと早くねぇか?」 村上は車のトランクに拳を叩きつけた。そしてそこに寄り掛かった。吹き付ける凍てつく風に肩を竦めながらも、彼はポケットに手を突っ込んで目を閉じて何かを考えていた。そして彼はおもむろに携帯電話を取り出してそれを耳に当てた。 「ったく…。随分と厄介なところに攻め込んできたな、佐竹の奴…。あぁ…村上だ…。」 「あぁ、村上さん。丁度よかった。こっちも電話しようと思っとったんですよ。」 「はぁ?何だよ。」 「今さぁ、警察のお偉いさんがウチに来とるんですよ。」 「警察?」 「あぁ。何でも鍋島について聞きたいことがあるって。」 「鍋島だと?」 「村上さん。どうしますか?」 「ちょ、ちょっと待てよ。誰だよ、その警察のお偉いさんって。」 「何か関っていう警察庁のお偉さんらしいですよ。」 村上は髪をかき分けて天を仰いだ。 「…関?誰だそれ。」 「何か分からんけど、捜査本部のイカれた捜査官に指示されて来たそうですよ。」 「イカれた捜査官?」 「まぁ何でもいいんですけど、どうします?村上さん。」 「どうするって?…適当にあしらっとけよ。」 「…村上さん。ひょっとしてヤバいんじゃないですか?」 「大丈夫だよ。心配ない。警察には手を打ってある。」 「じゃあ何で鍋島のこと聞きにウチに捜査員が来るんですか。困るんですよね。」 「何かの間違いだ。こっちでうまく処理するから、その関って奴には適当なこと言って帰ってもらえ。」 「…わかった。村上さん。今はあんたの言う通りにするけど、今回ばかりはウチは手を引かせてもらうよ。」 「何?」 「あのさ。鍋島と連絡取れんげんけど、村上さん。」 「は?何のことだよ。」 「昨日から連絡取れんのですよ。ちょうど七尾で男が殺されたと思われる時間からね。」 「七尾?」 「朝からニュースでやっとるでしょ。昨日の昼頃にも今回の事件と同じような手口で男が殺されたって。」 「すまん。おれはテレビとか見ない口なんだよ。」 「昨日の15時くらいから連絡取れんのですよ。鍋島の居場所を知っとるのは俺とあんただけ。村上さん、なんか知らんがですか?【お知らせ】 このブログは「五の線リメイク版」https://re-gonosen.seesaa.netへ移行中です。 1ヶ月程度で移行する予定ですのでご注意ください。 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。」 「知らんよ。」 「殺された男は身元不明って言われとるけど、テレビに出てくる現場映像見れば誰が殺されたかすぐに分かる。俺とあんたならね。」 「…」 「何かあんたヤバいよ。今のあんたにあんまり関わるとこっちまで何か巻き込まれてしまいそうだわ。」 「お前もか、熊崎。」 「お前もかって…。村上さん、誰と一緒にしてるんですか?まぁ今回は手を引かせてもらいますよ。あぁ関のことはご心配なく。適当にやっときますから。それじゃ。」 熊崎は電話を切り、二人の会話は途切れた。 「クソったれ〓︎」 村上はダッシュボードの上部を思いっきり叩いた。 「くそっくそっ〓︎クソめ〓︎カスめ〓︎ヤクザの分際でいい気になってんじゃねぇぞ〓︎何が手を引かせてもらいますだ。ゴミのくせにビビってるんじゃねぇよ。…どいつもこいつもカスばっかだ〓︎」 村上は車内のありとあらゆる場所を殴ったり蹴ったりした。それも渾身の力を込めて。そのため大きな車体の車は外から見ても明らかなぐらい、揺れ動いていた。 「役立たずのゴミカスばっかだよ。」 彼は怒りに震えたまま再び携帯を手にして電話をかけた。 「もしもし…。村上です。」 「ああ、村上くん。」 「なに下手打ってんだよ。」 「なにっ?」 「お前の人選ミスのせいで仁熊会に警察が入る羽目になったじゃねぇか。」 「ちょ、ちょっと待ていきなり何なんだ。」 「てめぇどんな捜査官派遣したんだよ。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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オーディオドラマ「五の線」
63,【前編】12月21日 月曜日 13時51分 北上山運動公園駐車場
63.1.mp3 「何で電話かけてくるって?そりゃあお前、おたくの理事官さんが帳場のことはお前に聞けっておっしゃっていらっしゃったからやわ。あ? ほんなもん知らんわいや。こっちが聞きてぇわ。お前こそあいつにいらんことちゃべちゃべ喋ったんじゃねぇやろな。あ?…喋っとらん?…そうなんか…。」 会話の内容から電話の相手は岡田であることがわかる。片倉は県警で松永と出くわした。出くわしたというよりも、松永が片倉をつけていたと言った方が表現が適切かもしれない。松永の口から岡田の名前が出たため、彼がこちらの事をリークした恐れがあった。今朝、岡田とはお互いの行動の極秘を誓った筈なのに、何故お前は裏切るような行動を取るんだと詰問しようとした片倉だったが、岡田の弁明によってそれは誤解だとすぐにわかった。片倉は信頼できるはずの部下を、このように疑いの目を持って詰問した自分の節操のなさに嫌気が差した。 結局のところ松永が何故自分の行動を捕捉していたか、その原因は分からずじまいだ。 文子からの事情聴取を終えた片倉はアサフスの裏手にそびえる北上山の中腹にある運動公園の駐車場に車を止めた。 「おい、片倉。」 彼の隣で煙草をふかしながら、窓の外にチラホラと舞ってきている雪の様子を見ていた古田は声をかけた。片倉は古田の呼びかけに、何故自分が今、岡田に連絡を取っているかを思い出した。 「ああ…岡田、お前を疑ってしまってすまんかった。ところで帳場のほうで何か変わった動き、無かったか?」 換気のため指二本分開いた窓から古田は吸い込んだ煙を勢い良く吐き出した。 「何?似顔絵?何の…。…おう。…ふん…。…タクシーで熨子山か?小松空港から…。おう。」 片倉はドアを開けて車外に出た。そして彼は古田同様煙草に火をつけ、岡田からもたらされる捜査本部の情報に耳を傾けた。5分ほど話し込んでいただろうか。彼は再び車内に乗り込んでスマートフォンの画面を見つめた。しばらくしてそれは受信音を発した。片倉は3度ほど画面をタッチし、届いたメールを見る。彼の身体は固まった。 「どうした。」 「トシさん…。これ…。」 そう言うと片倉は画面を古田に見せた。それを見た古田も動きを止めた。 「どういうことや…これ、鍋島じゃいや。」 片倉はスーツのポケットから、先程文子から拝借した鍋島の写真を取り出して、画面に表示される似顔絵と見比べた。 「間違いねぇ。」 「片倉、こいつがどうしたって?」 「ああ、この似顔絵の男を小松空港から熨子町まで運んだっていうタクシー運転手が、今朝北署に来たそうなんや。このタクシーの運転手が言うには、こいつは熨子町までの道中、ほとんど何も話さんかったらしい。運転手の問いかけには、はいとかいいえだけ。ほんで唯ひたすら前の方だけを見とったそうなんや。ところが、この男が唯一動いた瞬間があった。」 「おう。何やそれは。」 「穴山と井上を目撃した瞬間や。」 「何ぃ?」 「山側環状をちんたら走っとるこいつらをタクシーが追い抜かそうとした時、この鍋島と思われる男は奴らを追うように見つめ続けとったそうなんや。何に関しても反応が薄かった男がや。」 古田は自分の顎に手をやってしばらく考えた。 「…鍋島は、穴山と井上の存在をその時点で既に認識しとったってことになるな。」 「ああ。それは昨日の18時のこと。そのタクシーはそのまま熨子町まで鍋島を運んだ。降りる時、あいつは運転手に5万渡して闇に消えて行ったそうや。」 「5万〓︎どえらい金やな。」 「まぁ、そのチップについては置いておくとして穴山と井上が殺されたのは深夜。18時から深夜までタイムラグがある。となると鍋島はその後、事件現場である山小屋で待ち伏せしとったと考えられる。」 「ふうむ。ほんなら穴山と井上がなんで山小屋に行ったんかが問題になるな。」 「鍋島があいつらを山小屋まで呼び出したか、それとも始めからあの2人が山小屋に行くことを知っとったかや。」 「そら山小屋に行くのを知っとったんやろいや。急に夜にあんな辺鄙なところに呼び出されて、ホイホイ行くだらおらんわい。もともとそこに行く何かの用事があってんろ。」 「トシさんほんなこと言うけど、そもそも真夜中にあんなところに行く用事なんかあっかいや。」 古田は考えた。深夜の山奥にいったい何の用事があったというのだ。 「…おい。…まさか。」 「なんや。」 「あいつら、ほら、レイプしとるやろ。一色の…。」 「あ…。」 「一色の交際相手がレイプされた場所が実はそこで、ほんでその因縁の場所に犯人を何かのうまい口実をつけて呼び出しておいて、鍋島を使って一網打尽に殺した。」 二人の中で鍋島、一色、穴山、井上が繋がった。しかし彼らは間も無く肩を落とすことになる。 ついさっきまで二人は文子から6年前の事故に関わる重要参考人は鍋島であることを聞かされていた。その事実を知った一色は鍋島を引き摺り出して相応の罰を与えると彼女に誓っていたようだ。そんな彼が鍋島と結託して自身の交際相手をレイプした男らを殺すなんて考えにくい。 「いや、ちょっと待て。一色が鍋島を利用して2人を殺して、その後に鍋島を捕まえようとした。そう考えられんけ。しかしそれが失敗し一色は逃げた。鍋島もその存在が世間的に明るみになるのが不都合な立場やから姿を消した。」 片倉は古田にこう言った。 「うーそれはどうやろう。そうなると一色が何で桐本と間宮を殺さんといかんがや。レイプとか6年前の事故に何の関係もない奴やぞ。その線はちょっと薄いんじゃねぇかいや。」 2人は黙ってしまった。 そうこうしているうちに、再び片倉の携帯が鳴った。どうやらメールのようだ。 「岡田や。」 片倉は画面をタッチしてその内容を確認した。そして彼はまたも固まった。 「何や。岡田は何やって言っとるんや。」 「穴山と井上はシャブの売人やったらしい。」 「はぁ?」 「シャブって…言うとトシさん。」 「仁熊会…。」 ふたりはここでしばし無言となってしまった。 「…なぁ片倉。ここは自分が一色やったらって立場で考えてみんか。」 古田はそう言うと車外に出た。片倉も続いた。 「始まりから考えよう。今までの情報から考えると、一色が穴山と井上との接点を持ったのは3年前の7月のレイプ事件からや。あいつは何かの方法をもって2人に復讐する意思を持っとった。それを実行するためにその機会を虎視眈々とうかがっとった。あいつは確かにワシに言った。素早くそして確実に被疑者に罰を与えねばならんと。警察という組織の人間であれば何かの口実をつけて、穴山と井上を逮捕し、取り調べの中でその二人から吐かせればそれで犯罪成立。起訴、裁判、判決。で、あの二人の罪は現在の法制下でシステマチックに処理される。」 「しかしその法の裁きに一色は不満を抱えていた。」 「そうや。自分の交際相手は女性として殺されたようなもんや。目には目の精神で考えれば、奴らにも同等いやそれ以上の制裁を与えんといかん。」 「考えたくねぇけど、俺も自分の娘がもしそんな目にあったとしたら、悔しくて、憎くて、許せんくて、…殺してしまうかもしれん。」 「急迫不正の侵略を受けて反撃に出ん奴はおらん。ワシもそうや。」 「しかし仇討ちは法で禁じられとる。」 「そう。そこであいつはワシに方法はあるって言った。あいつは何か別の手段を持ち合わせとった。」 「まさか、一色はその時点ですでに穴山と井上がシャブの売人やってこと知っとったとか。」 「そうかもしれん。シャブの背景には仁熊会がおる。仁熊会とそのフロント企業のベアーズデベロップメントは6年前の忠志の事故に関係しとる。一色は穴山と井上に制裁を与える他、その周辺にも制裁を課そうとしたんじゃねぇか。」 「レイプ事件の一年前には仁熊会が関係しとると思われる私立病院の事件もあったしな…。…って待て、トシさん。この時点で一色は鍋島の存在を把握しとるがいや。」 「そうねんて。一色なら当時、写真を見た時から高校の同級の鍋島やって分かっとったやろ。」 「高校の同級が事件に関与しとる疑いがある。しかも重要なキーマンや。一色は闇に葬り去られそうな事件を掘り返して、なんとか真相を暴こうとした。」 「しかしそれは何処かで握りつぶされた。」 「その私立病院の事件の後にレイプ事件…。」 「なんか見えてきたような気がする。」 「トシさん。俺もや。」 「一色はあの病院横領事件の時に仁熊会へガサ入れようとしとった。しかし、その直前に殺しが起こって、二課から一課へ捜査権限移譲。」 「そもそもここからおかしい。タイミングが良すぎるんやて。うちの中の誰かが捜査情報をどっかにリークしとったんじゃねぇか。ほんで手際良く二課の捜査外し。一色が仁熊会と接触するのをなんとか阻止させようしとるみたいや。」 「担当外の人間であるお前でさえ思うんやから、当事者である一色もその事は感じとったやろうな。」 「で、あいつは極秘裏にいつもの個人捜査でいろいろ調べる。ほんで何か重要な情報に行き着く。」 「そこで交際相手をレイプされた。」 「知られると随分とまずい情報やったんやろう。その情報そのものは何かは分からんが、一色の交際相手を凌辱することで、あいつに警告を発したんやろうな。」 「となると、穴山と井上は自発的に一色の交際相手を犯したというよりも、誰かからの指示を受けて実行したと考えたほうが自然やな。」 「穴山と井上はシャブ絡み。あいつらの上には仁熊会がおる。仮にそこの指示やとすっと、全てにおいて辻褄が合いはじめる。」 「仁熊会がレイプの背景にいることを知った一色は、その周辺を洗い始める。そこで田上地区と北陸新幹線に係る利権構造が存在しとることに気がつく。ほんでそこに仁熊会が入り込んでいることを突き止めた。」 「なるほど、ほんで検察さんの出番ってわけか。」 「ほうや。あいつらは新幹線事業と仁熊会の流れを追っとる。」 「一色からの情報を得てな。」 「政治が絡む事件は特に慎重にせんといかん。指揮権発動なんかされたら、せっかく詰めた捜査も全部パアや。」 「トシさん。検察に突っ込むと話がややこしくなる。それはそれでちょっと置いとこうぜ。利権構造を知った一色はその周辺を徹底的に調べる。ほんで出てきたのが6年前の忠志の死やった。」 「おう。かつての同級生の父親っちゅうことで、一色は慎重に周辺を調べて文子と接触。口止め料の現金授受のキーマンがこれまた四年前の事件に顔を出した、鍋島惇であったことを知る。交際相手の強姦を指示したと思われるもの、四年前の病院横領・殺人事件に関係するもの、さらに6年前に友人の父親を事故に見せかけて殺害したと思われるもの。これら全てに仁熊会が関係しとる。あいつの仁熊会に対する不信は頂点に達する。」 「しかし、ここであいつの捜査はプツリと切れた。」 今まで集めた情報が一気に繋がりを見せた推理展開であったが、ここで二人は黙ることとなった。そしてその沈黙を先に破ったのは古田だった。 「なぜ、ここで切れたか。」 「あぁそこやな。」 「何で、あいつが殺しをせんといかんかったか。」 「穴山と井上を殺すだけじゃあいつの目的は達成できん。レイプ事件の仇討ちだけにとどまってしまう。今の俺らの推理に従えば、その周辺の闇の部分を明らかにせんといかんはずや。」 古田は北高の剣道部の顔写真を取り出してしばらくそれを見つめた。 「待てよ…。」 「どうした?トシさん。」 「待て待て待て。あぁ…そうか…そういう線があったな…。」 「おいトシさん。なんねんて。」 片倉の言葉を受けて、古田は5枚のうち一枚の写真を取り出してそれを片倉に見せた。 「村上?」 「おう。こいつ、本多善幸の秘書やろ。」 「はっはぁー。なるほど。こいつなら善幸の出身のマルホン建設と何かしら繋がっとるな。」 「お前、今朝村上の聴取をした時、鍋島の名前だしたらこいつの顔色が変わったとか言っとったな。」 「おう。明らかに変わった。ほんでこいつの言い分は佐竹と赤松の言うことと食い違っとる。」 「ほらほら、こいつも何か絡んどるかもしれんぞ。」 ここで二人は再び黙ってしまった。 「なぁ片倉。」 「トシさん…。」 「切り込むか…。」 片倉は古田の表情を見た。彼の顔つきは何か達観した様子だった。片倉は眼下に見える、薄く雪化粧した金沢の街へ視線を移した。そして何も言わずに煙草を取り出してそれに火をつけた。吸い込んで吐き出す煙には彼の白い吐息が混ざりこみ、それは吹き付ける風に乗って瞬時に消え失せた。 「マルホン建設と仁熊会か…。聖域やな…。」 古田も何も言わずに街並みに目をやった。 「この聖域が一色に二の足を踏ませたんか…。」 「一人でできる事には限界がある。だから一色は協力者を密かに募って、誰にもわからんように下準備して一気に攻め込むことにした。」 「奇襲か。」 「でも奇襲は成功すれば戦果は大きいが、失敗すれば一敗地にまみれる。…あいつは…逆襲にあったんかもしれんな…。」 「どうする。片倉。」 片倉は古田の顔を見た。彼の表情からは感情というものを汲み取れなかった。古田はただひたすらに片倉の瞳を見つめている。 「俺にも守るべき家族がおる。」 古田は片倉を見つめたままだ。 「…だが、このままだと結局世の中はなにも変わりやしない。」 片倉は咥えていた煙草を地面に投げつけた。 彼は何度も何度も力の限りそれを踏みつけた。そして側にある樹木に向かって何度も体当たりをした。その様子を古田は黙って見つめていた。
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オーディオドラマ「五の線」
63,【後編】12月21日 月曜日 13時51分 北上山運動公園駐車場
63.2.mp3 【お知らせ】 このブログは「五の線リメイク版」https://re-gonosen.seesaa.netへ移行中です。 1ヶ月程度で移行する予定ですのでご注意ください。 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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オーディオドラマ「五の線」
62,【後編】12月21日 月曜日 14時17分 マルホン建設工業
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オーディオドラマ「五の線」
62,【前編】12月21日 月曜日 14時17分 マルホン建設工業
【お知らせ】 このブログは「五の線リメイク版」https://re-gonosen.seesaa.netへ移行中です。 1ヶ月程度で移行する予定ですのでご注意ください。 62.1.mp3 「失礼します。」 木製の重厚感ある扉を開いて佐竹は入室した。彼の目の前には仕立ての良いスーツを見に纏い、窓から外を眺める本多善昌の姿があった。 本多善昌は衆議院議員本多善幸の実子である。本多善五郎が築き上げた裕福な生活基盤を受け継いだ善幸は一人息子である善昌を殊の外かわいがった。ありとあらゆるものを買い与えた。その寵愛ぶりが善昌の人間形成に大きな影響を与えたのだろう。欲しいものは絶対に手に入れなければ気が済まない性格となる。市内のエリート養成幼稚舎からエスカレータ式にその系列の高校を卒業した善昌は、善幸にアメリカへ行って見聞を広めたいと申し出る。常に自分の側に置いておきたい一人息子であり、万が一のことがあるかもしれないと思うと善幸は気が気でなかった。しかし一人の人間として考えた末の決断であり、その意志を尊重したいということで善幸は善昌のアメリカ留学を認めた。 しかしこの留学がいけなかった。善昌の成績は高校の二年あたりから振るわなくなってきていた。見聞を広める、語学を修得するというのが名目の留学の実際は、親の目から離れた遠い異国の地で放蕩の限りを尽くしたものとなっていた。彼はアメリカ留学時にタバコや酒、ギャンブルを覚え、現地の女性にも手を出して妊娠すらさせた。これらの目に余る放蕩ぶりに激怒したのが祖父の善五郎だった。彼は強制的に善昌を日本へ呼び戻す。そして退廃しきった彼の性根を一から鍛え直すということで、善幸から奪うように善昌を預かった。帰国直後は善五郎の厳しい躾のせいで1年間引きこもりの状態であったが、徐々に祖父との生活にも慣れ3年後には自衛隊へ入隊させられる。自衛隊入隊時に祖父の善五郎が他界。これをきっかけに善昌はすぐさま除隊。善五郎の監視の目から開放された善昌は父の勧めでマルホン建設に入社する。その後総務課長、部長、常務取締役、専務取締役を経て昨年代表取締役となっていた。 「佐竹さん。まだウチの口座に1億入ってなんだけど。困るじゃないですか。」 「申し訳ございません。」 「あのさぁ、こっちはこっちで支払いの都合があるんだからさ。」 窓から外を見ていた善昌はこう言って振り返った。 「あれ?」 善昌の視線の先には佐竹ともう一人の男があった。彼は善昌と目が合うと軽く会釈をした。そして善昌を無視するように社長室中央に配されている応接ソファまで足を進めて、そのまま腰を懸けた。 「なんなんだお前。」 「支店長の山県です。社長、1億は貸せんことになりました。」 「はぁ?」 顔つきが変わった善昌はソファに懸けている山県の正面に乱雑に座った。 「どういうことだよ?冗談は顔だけにしろ。」 「はははは、すんません社長。嘘言いました。1億の融資は明日には実行されます。」 「お前、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。俺を誰だと思ってるんだ。」 「…ただの社長。」 山県は不敵な笑みを見せた。 「ただの社長? 何?その上から目線。」 佐竹から1センチほどの厚みのある資料を提供された山県はそれを善昌の前にそっと差し出した。 「これを飲んでくれたら1億は明日オタクの当座に入金されます。」 善昌は出された書類に目をやった。その表紙には大きな明朝体で「マルホン建設工業株式会社の経営改善策について」と記載されていた。 「経営改善?」 「ええ、これを即座に飲むのが条件です。」 「条件だと?」 「はい。これを蹴られるんでしたら融資はできかねます。」 「はははは。山県支店長でしたっけ。」 「はい。」 「ふざけたことぬかすんじゃねぇよ。」 「ふざけていません。」 「こんなままごとみたいな書類なんか読むに値しない。」 「…読みもせずにままごと扱いですか。」 「お前みたいな下っ端じゃ話にならんよ。もっと上の人間を寄こせ。」 「はぁ…社長さん。今日はね、私、役員会の決定を受けてここに来てるんですよ。」 「なに?」 「ままごとはあんたの経営です。あんたには選択権はないんですよ。さっさとこれを読んで下さい。」 山県の姿勢に憤りを感じながらも善昌は書類を手にとって目を通し始めた。 2,3ページ読み進めた善昌は顔を上げて山県を見た。彼は不敵な笑みを浮かべて善昌を見た。 「悪い話ではないでしょう。」 「提携だと?」 「はい。社長もこの辺りを車で走っとたらお分かりやと思いますけど、最近、なんか新しいもの建てとるなぁと思っとったら、大体が高齢者施設。私はその分野の細かなことは分かりませんけど、特養とかデイサービスとか小規模多機能型とかいろんなもんが建っとりますわ。その介護分野にこのドットメディカルが参入を検討しとるんですよ。」 「何を持ってきたかと思えば、今流行りの介護事業参入を画策する会社と提携しろと?我が社に新規事業を起こせと言うのか。しかも俺も聞いたことがない会社じゃないか。」 「やれやれ、ドットメディカルも知らんのですか。」 山県はため息をついた。 「しかも直ぐに結論を求める。ちゃんと書類を読んでから話してくださいよ。見出しだけ読むのは週刊誌だけにして頂きたいもんですな。」 山県は善昌に対して要点を掻い摘んで説明するように佐竹に言った。 「はい。ドットメディカルは金沢市に本社を置く医療機器卸売の会社です。近年、海外大手の医療機器メーカーの特約店契約を取り付け、そのメーカーを背景とした信用と充実したサービスの提供から業界では成長著しい会社です。このドットメディカルが今検討中なのは、先程山県が言った介護事業です。この会社には海外の医療業界とのパイプを持ち、異国の様々な事例、設備、サービスなどに深い見識を持つスタッフが大勢います。そして地元の医療機関でのシェアも確実に伸ばしています。今まで培った国内外の医療の専門的見地をふんだんに取り入れた新しい形態の介護サービスを提供しようとしています。」 「ふーん。で。」 「医療や介護のノウハウ蓄積はドットメディカルと関係のある会社からスタッフを引き抜いて、専門の部署を立ち上げて順調に準備は進んでいます。ですがひとつ課題があるのです。」 「なに?それは。」 「建設ノウハウです。」 善昌は佐竹と山県の顔を見た。 「実はドットメディカルはその介護事業において建築、デザイン、設備、人員、サービス、情報システムなど全てのものを自らの手で利用者に提供することを考えています。そして質の高い介護サービスを比較的安価に提供できる仕組みを検討しているのです。」 「で。」 「人員やサービス、システムといったソフト面はある程度固まってきています。いままでのコア業務の延長線でものごとを考えて計画できますから。ですが、建設やその設計といったところになるとそう簡単に行きません。不得手なものは外に丸投げするというのは確かに方法の一つです。しかしドットメディカルは介護に関するすべてのものを自分たちの責任で利用者に提供するとことを考えています。ですので緊密に連携をとった動きをできるパートナーを探しているんです。」 善昌は腕を組んで考えた。 「御社には3つの核となる事業部があります。公共事業における大型工事や企業プラント建設のようなものを扱う総合建設事業部。 不動産仲介、賃貸、戸建て分譲を行う住宅事業部。 遊休地の有効活用をコンサルティングする開発コンサルティング事業部です。これら総合的な建設に関するノウハウを御社は長い年月の中で蓄積しています。ドットメディカルはこれが欲しいんです。あの会社は何も一棟の介護施設を立てることだけを目的としているのではない。彼らの事業戦略はもっと大きいものです。」 「大きいもの?」 「独自のノウハウを活かした介護施設を実際に経営し、そこで得られたノウハウをパッケージとして新規事業参入者に提供するというものです。」 山県の言葉に善昌は頭を振る。 「ノウハウ提供だけだったら、ウチは今まで培ったノウハウをみすみすその会社に売るだけになってしまうじゃないの。」 山県は呆れた表情で善昌を見る。 「社長。私はマルホン建設のノウハウだけを売れとは言ってません。提携したらどうですかと言っています。」 「なんだよ。勿体ぶらずに早く教えなさいよ。」 「はーっ…。」 ため息をついた山県はしばしの間うなだれた。 「いいですか。だから提出された書類をちゃんと読めと言っとるんですよ。」 「後で読むよ。こっちは忙しいんだよ。何事も結論から言ってもらわないと、その話が検討に値するかどうかの判別に時間がかかるじゃないですか。」 山県は目の前の机を思いっきり叩いた。 「いい加減にしろ。無能経営者。」 「なにぃ!!」 「冒頭言ったやろ、お前には選択権はないって。」 「貴様!! 誰に向かってその言葉を言っている!!」 「やれやれ気に食わない事があれば大声を上げるのは当行の本多専務と一緒ですな。」 「黙れ!! 俺の問いに答えろ!!」 「本多善幸議員のご子息であり、かつ当行専務取締役本多慶喜の甥っ子さんでしょう。」 「俺の力を使えば、お前の処分なんか何とでもできるんだよ。」 「だから言っとるでしょ。これは金沢銀行役員会の決定やって。」 「そんな馬鹿な話なんかあるもんか。」 そう言うと善昌は懐から携帯を取り出して電話をかけた。その様子を見ていた山県は彼がどこに電話をかけているか瞬時に悟った。彼は何度も電話をかけ直し、それを耳に当てるも言葉を発さなかった。 「専務もいろいろとお忙しいですからね。」 善昌は手にしていた携帯を力なく落とした。 「仕方が無いから説明しましょう。先ほどの続きです。御社がドットメディカルと提携して得られるものは大きい。彼らが初回に建設する介護施設の建設はおろか、彼らのノウハウをベースに介護事業に参入する者たちの建設案件も受注できる。何故ならドットメディカルは事業そのもののノウハウを全てを売るわけだから。ソフトもハードもまるまるドットメディカルが参入事業者に提供する。建物もそうですよ。」 「…悪い話じゃ…ない…ですね…。」 「良い話です。この上ない良い話です。」 山県は笑みを浮かべてテーブルの上に配された灰皿を指差した。 「…どうぞ。」 煙草を咥えてそれを堂々と嗜む山県の姿は、力なく受け応えする善昌とは対象的だった。 「受けて貰えますね。」 「…はい。」 善昌の言葉を受けて笑みを浮かべた山県は、佐竹に直ぐにドットメディカルへ連絡をするよう指示した。 「しかし…。」 「いいから直ぐにドットメディカルに連絡しろ。善は急げだ。」 「わかりました。」 そう言うと佐竹は社長室を出て行った。 善昌は社長席に座って窓の外を眺めていた。 「社長。この言葉をご存知ですか。」 「何ですか…。」 彼は山県の方を見ずに力の無い返事をした。 「軍人は四つに分類されるそうです。」 「軍人?」 「はい。有能な怠け者。有能な働き者。無能な怠け者。無能な働き者です。ご存知ですか?」 「いや。」 「有能な怠け者。これはどうすれば自分が、部隊が楽をして勝利できるかを考えるため、前線指揮官に向いていると言われます。」 「ほう…。」 「有能な働き者。これは自ら考え、実行しようとするので部下を率いるよりは、参謀として指揮官を補佐するのが良い。」 「なるほど。」 「次は無能な怠け者。」 「耳が痛いな。」 善昌はそう言うと椅子をくるりと回して、座ったまま山県を見た。 「これは自ら考えて行動しないため、参謀や上官の命令通りにしか動かない。よって総司令官、連絡将校、下級兵士に向いている。」 「くっくっく…。」 「最後に無能な働き者。無能であるために間違いに気付かず、進んで実行するため、さらなる間違いを引き起こす。よって処刑するしかない。」 山県の言葉を受けて善昌は頭を抱えた。 「なんだ…。俺はその無能な働き者だとでも言いたいのか。」 「いいえ。」 「じゃあ何でそんな話を引き合いに出すんだ。」 「私はこれに独自の解釈を加えているんですよ。もうひとつ付け加えます。無能なのに働き者の振りをしている者。」 「何だそれは。」 「無能でも働き者であるというのは結構なことです。確かにこのような人間が上に立ってしまうと、組織は混乱する。しかしそのために参謀という役職があるのです。彼らが機能すれば、トップの行動力が推進力となり組織が回り出す。問題なのはそのトップが実際のところ何もしていないのに、重責を抱えてさも日々忙殺されているかの如く振る舞うことなのです。これは非常に具合が悪い。忙しそうに振る舞うことで参謀の言葉に耳を傾けない。そして向き合わなければならない事から目を背け続ける。その癖変にプライドが高いため、無駄に世の中のトレンドなどを知っている。しかしそれらはテレビや雑誌から仕入れた上辺をなぞった程度のもの。掘り下げて自分で考えようともせずに、知っていることそのものに価値があるかと勘違いする。威張りちらすしか能がなく結局のところ何も自分の手で実行しない。これが本当に処刑せねばならない対象なのです。」 善昌は天を仰いだ。 「それが俺だというのかね。」 山県は善昌をただ黙って見つめる。 「ついさっきまではそう思っていました。」 山県の表情には笑みがあった。 「あなたは経営者として無能だ。業績をみれば一目瞭然。そしてろくに働きもしない。しかしどういう訳か素直だ。現に今、あなたは私が提出した経営改善案を受け入れました。」 「褒めているのか、貶しているのか…。」 「あなたが全ての元凶ではないんですよ。」 善昌はうっすらと笑みを浮かべた。 「社長。改善案の最後のあたりを読んでください。」 山県の言葉に従って、善昌は改善案のまとめの段を読んだ。彼がこのくだりを読むには2分ほどの時間を要した。読み終えた彼は山県を睨みつけた。 「俺を除いた全役員をクビにするのか。」 山県はタバコに火をつけ、それを吸い込んで目一杯の煙を吐き出した。 「はい。せっかく磨けば光る素直な経営者がいるのに、それを活かしきれない役員連中は無能の極み。これは一刻も早く処刑せねばなりません。」 「ふざけるな!!」 「社長。言ったでしょう。提出された書類にはちゃんと目を通した方がいいって。」 「認めん。認めんぞ!」 社長室のドアが開かれ、佐竹が戻ってきた。 「ドットメディカルは社長の英断に感謝するとのことです。今日の晩にでも一度社長とお会いしたいとの申し出です。」 「なにぃ!? お前、なにを勝手なことを!」 善昌の反応に佐竹は戸惑った。 「はははは。交渉成立ですな。社長。いやめでたい。誠にめでたい。」 「山県!! 貴様!! 俺を嵌めたな!!」 「社長。残念ですが、承諾したのはあなたですよ。こっちはただ伝書鳩みたいにただ先方へ連絡しただけですわ。撤回したいんならご自分でどうぞ。」 怒りに震えていた善昌であったが、事を飲み込んだのか方の力を落として諦めの表情となった。 「流石、善五郎さんのお孫さんだ。飲み込みが早い。」 そう言うと山県は立ち上がって社長席に座る善昌の側まで歩み寄った。 「さて、社長。今晩のドットメディカルとの会談を前にあなたがやるべき大きな仕事がある。」 善昌は自分の前に立ちはだかる山県を見た。小柄であるはずの彼の姿は、今の善昌にとって途方もなく大きな壁のように見えた。 「一族をそれまでに罷免しろ。どんな手を使ってもいい。それがお前とマルホン建設が生き残るための唯一の方法だ。」 「そんな…無理だ…。」 山県は善昌の襟元を掴んで詰め寄った。 「支店長!!」 「いいからやれま!! お前がやらんくて誰がやれんて!!」
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オーディオドラマ「五の線」
61,12月21日 月曜日 13時10分 熨子山連続殺人事件捜査本部
61.mp3 松永は自席に座って右脚を小刻みに動かしていた。 「連れてきました。」 一見するとヤクザかと思われる迫力の風貌をもった男が松永の前に立たされた。 「組織犯罪対策課の十河と申します。」 「そこに掛けろ。」 松永の向かい側の座席に座った十河は、そこに広げられている穴山と井上に関する資料に目を通し始めた。 「どうだ。なにか分かるか。」 十河は資料にさっと目を通して松永の問いかけに即座に答えた。 「ポンプ(注射器)が確認されますね。突きですからシャブ(覚醒剤)です。シャブとなるとこの辺りでは大体が仁熊会が元締めだと言われています。」 今回の事件の被疑者は一色貴紀である。彼は熨子山で穴山と井上を殺害し、その後桐本と間宮を殺した。そして一色かどうかは完全な確証を得たわけではないが、どうやら昨日の夕方にも七尾で男ひとりを殺して、彼は現在逃亡中。動機は依然として不明。 先ほど県警本部で松永は片倉と接触した。6年前の熨子山での事故をめぐる背景を片倉から聞かされ、松永の頭の中には仁熊会の存在がインプットされていた。 最初に殺された穴山と井上はどうやらシャブの売人の顔を持っていたようだ。十河の言うところではシャブの出処は仁熊会とかいう石川県の暴力団の可能性が高いそうだ。この仁熊会のフロント企業はベアーズデベロップメントと言い、6年前の熨子山での事故に関わっている可能性がある。その6年前の事故を殺しではないかと一色は個人的に捜査をしていた。別の事件と思われるものが仁熊会という組織の登場で関連性が現れてきていた。 「十河と言ったな。お前、この穴山と井上のこと把握していたか。」 「いえ把握しておりませんでした。面目次第もありません。」 松永はうなだれた。 「じゃあ別の質問にしよう。シャブのことは置いておこう。その写真の中に金沢のクラブらしきものが写っている。この店はお前知ってるか。」 十河は松永が指す写真が掲載されたページを見てすぐに反応した。 「ああこの店は分かります。仁熊会の関係者が時々使う店ですよ。」 「なに。」 「どちらかと言うと会の末端の人間が使う店ですね。」 「どこにあるか分かるか。」 「はい。」 「よし。おい。」 松永は捜査員を呼び出した。 「おまえはこのクラブを今から当たれ。穴山と井上の情報を聞き出せ。」 「理事官。出来ました。」 関が捜査本部へ入ってきた。彼は十河と話し込んでいる松永の横に立ち一枚の紙ペラを机の上に広げた。 「小西の協力を得て、彼が熨子町まで運んだ男の似顔絵を作りました。」 関が提出したものには丸型のサングラスをかけた男の似顔絵があった。厚手の下唇。コケた頬の輪郭が特徴的だ。 「なんだこれは。今どきこんなサングラスかけてたら、随分と目立つじゃないか。」 松永がこう言った直後、その場で一緒に似顔絵を見ていた十河が口を開いた。 「…ちょっと待ってください。」 「なんだ。どうした。」 「これ...まさか...。」 松永と関はお互いの顔を見合わせた。 「鍋島じゃあないですかね...。」 「鍋島?」 「ええ。そっくりですわ。」 「鍋島って誰だ。」 「仁熊会に時々出入りしている奴ですよ。謎が多い奴でして、会の関係者もこの男の詳細は誰も知らないんです。」 「なんでそんな素性のよくわからない人間のことを、お前は覚えているんだ。」 「4年前にとある事件がありましてね。その時にちょっと話題になったんで覚えとりますよ。多分、自分以外の人間もその事件に関わったことがある奴なら、覚えとるでしょう。」 「なんだその4年前の事件って。」 十河は松永に4年前の私立病院をめぐる横領、殺人事件の顛末を松永に話した。 「事件から2年後に捜査二課の古田警部補がたまたま片町でこの男にそっくりの男を見かけたんですよ。4年前の目撃者に似とるって。」 「古田ねぇ…。で、どうした。」 「当時、二課の課長やった一色が何度も再捜査を上に進言したんですが、それが採用されることはありませんでした。」 「なんで?」 「どこかで揉み消されたのではないかと。」 「もみ消されたぁ?」 十河のこの言葉に松永は豹変した。 「もみ消された?はぁ?おまえ何言ってんの?なんでそんな大事なことを握りつぶす必要があるのかな?僕らは警察だよ。警察官。わかる?」 「あ、あの…。」 「結局のところ根拠の薄い一色の主張は上層部にとって取るに足らない話だったってことだろ。てめえの無駄な推理なんかここで垂れるんじゃねぇよ!!」 「も、申し訳ございません…。」 「わかったら言葉の使い方に気をつけろ!!」 「はいっ。」 机を激しく叩いて松永は思いっきり息を吸い込んだ。 「関。おまえこの鍋島って男を調べろ。いまから仁熊会の親分にでも会って直接話を聞いてこい。」 「わ、わたしがですか…」 関はどこか落ち着かない表情で松永の指示に返事をした。 「あら?まさか…君、ヤクザの親分が怖いのかな。」 「い、いいえ…。そのような現場仕事は現場に任せておけばよろしいのでは…」 「何言ってんだ関。お前しっかりしろ。現場が無能だからお前がきっちりと仕切ってくるんだよ。」 「しかし…。」 「おいおい。まさかお前俺に金魚の糞みたいについてくれば、それで立派な実績になるとでも思ってんのか。」 「い、いえ…。」 「マルボウから何人かピックアップして行って来い。おれはもう少し十河から聞くことがある。他を当たれ。」 「ですが…。」 「なにビビってんだ。今回の捜査はお前の働きぶりにかかっているところが大きいんだ。俺はお前に目立つ実績を作って上に上がるチャンスを与えてんだよ。それぐらい分かれよ。」 「かしこまりました…」 関は一礼し松永に背を向けて捜査本部を後にしようとした。 「あ、そうだ。関。熊なんとかって奴ががたがた抜かすんだったらこう言っとけ。」 「は?」 「警察なめんじゃねーぞこらぁ。」 松永は関を熊崎に見立てて彼に向かって中指を突き上げた。 「って察庁のイカレた捜査員が言ってましたってな。」 「は、はい。」 松永は元気の無い背中を見せながら、捜査本部を後にする関の後ろ姿を見送った。そしてため息をついて十河と向き合った。 「理事官…大丈夫ですか…」 「なにが?」 「今の関課長補佐を見る限り、熊崎相手に渡り合えるか…」 松永はニヤリと笑うだけで十河の言葉には答えなかった。 「おい。さっきの件だが聞きたいことがある。」 そう言って松永は周囲を見回した。捜査員たちは皆、自分のすべき仕事に没頭しているようだ。 「誰だ。揉み消したのは。」 「え?」 「誰だって聞いてんだよ。」 「え…でも理事官、さっき…」 ついさっき、治安を司る警察組織が何かの訴えを揉み消すようなことはあり得ないと松永は十河を糾弾した。それなのに今は揉み消しの犯人は誰かと十河に聞いてきた。いったい松永という人間はどういう思考回路を持っているのだろう。周囲の人間は彼に翻弄されるばかりだ。 「理事官。それは私には分からんがですよ。ただ、上がそうしたとしか聞いていません。」 「上とは?」 「わかりません。当時の一色の上司かもしれませんし、そのさらに上の方かもしれません。」 「…なるほどわかった。そういうことが過去にここで有ったんだな。」 「は、はい。」 「記憶にとどめておく。」 松永は額に手を当ててしばらく考えた。そして向かい合って座っている十河の瞳を直視した。 「十河。お前を組織犯罪対策課のベテランと見込んで頼みたいことがある。」 「私にですか?」 松永は頷いた。 「マルホン建設と仁熊会の関係を教えてほしい。」 そう言うと松永は手元のコピー用紙の端を手でちぎって、そこにある施設の名前を記した。 「今から2時間後ここに来い。部屋は512号室。」 「理事官…。」 「何だ?」 ヤクザのような強面の十河であるが、この時の彼の眼差しは人を威嚇するものではなく、どこか少年のような純粋さを感じさせるものだった。 「どうした。」 「突っ込むんですか…」 「何がだよ。」 「あそこに…手を突っ込むんですか。」 「あそこって、お前昼間からいやらしいこと言うんじゃねぇよ。そんなお楽しみなんかとんとご無沙汰だ。」 「茶化さないでください理事官。あなた本気なんですか。」 松永は十河の目を直視した。 「覚悟はできている。」
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オーディオドラマ「五の線」
60,12月21日 月曜日 13時22分 フラワーショップアサフス
60.mp3 店の奥にある畳敷きの文子の部屋で古田と片倉は彼女と向かい合っていた。 「当時のことは剛志さんからお聞きしました。」 「そうですか。」 「単刀直入にお聞きします。文子さん。あなたは500万の口止め料を貰いましたね。それは誰からのものですか。」 「剛志から聞いたでしょう。コンドウサトミという人です。」 「いえ、私がお聞きしたいのはあなたが口止め料を振り込むようにと依頼した人です。コンドウサトミさんではありません。」 文子は古田の言葉に黙ってしまった。 「忠志さんは口止め料の受け取りを拒んだ。しかしあなたは旦那さんに内緒で口止めを依頼する人間と接触した。だから500万が口座に入金されたんですよね。」 文子は問いかける片倉と目を合わさない。その様子を古田は片倉のそばで観察した。 「あなたが接触した人間は誰ですか。」 文子は黙ったままだ。 「文子さん。我々はあなたが口止め料を貰ったから、罪に問われるとか言ってる訳じゃないんです。ただ、当時の本当のことを知りたいだけなんです。」 この片倉の台詞にはっとした文子は、塞いでいた表情から一転して片倉の目を正面から見ることとなった。 「…あの人も同じことを言っていました。」 「あの人?あの人って誰ですか。」 「一色くん…です…。」 文子は瞳に涙を浮かべていた。片倉と古田はお互い顔を見て頷いた。そして片倉が続けて質問をする。 「文子さん。その一色と同じように我々にも教えていただけませんか。」 「刑事さん。」 そういうと文子は改まって座り直してお下座をするように二人に頭を下げた。 「お願いです〓これ以上聞かんといてください〓この通りです〓」 「文子さん…」 「お願いです。お願いです…これ以上私を責めんといて下さい〓」 何度も何度も畳に頭を擦り付けるように懇願する文子を前に片倉と古田は困惑した。 「文子さん。私はあなたが何故そこまでその人物の名前を言うのを拒むのかよく分からんのですよ。仮に私たちが今聞いている人間が仁熊会の関係者であったとしてもご心配ありません。あなた 「お願いです。もうこんな思いを誰にもさせたくないんです…」 髪を振り乱し何度も頭を下げた文子の様子は明らかにやつれている。 ここまで証言を拒む理由はよくわからないが、このまま聴取を続けるには彼女の負担が大きすぎる。そう判断した片倉は古田に改めて出直すかどうか諮った。それを受けて古田は片倉に代わって文子に言葉をかけた。 「文子さん。剛志さんが言っとりましたよ。感謝しとるって。」 「え?」 「詳しい経緯は分かりませんが、昨日そのことをすべて剛志さんに打ち明けたんでしょう。今回の被害者の一人がかつてこの店で働いていたアルバイト。そのことで心の中がぐちゃぐちゃになっているのに、更に精神的に負担となる6年前の過去の件を彼に話したんでしょう。あなたのその心の傷の大きさを考えると剛志さんは聞くタイミングを間違えたと後悔していましたよ。しかし、それでも正面から向き合って話してくれたことに感謝をしとるって。」 この言葉に文子は肩を震わせて泣いた。 「でも…でも…。」 「我々はそんなあなたに随分な負担をかけてしまったようです。土足で他人の家に入り込むような聴取をして誠に申し訳ございませんでした。」 古田は文子を前に頭を下げた。その様子を見ていた片倉も彼に合わせて深々と頭を下げた。 「課長。今日は一旦帰りましょう。」 古田は片倉にそう言うと、畳に置いていたメモ帳とコートを抱え立ち上がった。片倉も頷いて再度文子に会釈をして立ち上がろうとした。 「待ってください。」 古田と片倉は振り返って彼女を見た。 「聞いていいですか。」 「なんでしょう。」 「私がその交渉役の名前を言うことで、その人は何かの罰を受けることになるのでしょうか。」 片倉は古田と顔を見合わせた。 「それは何とも言えません。口止め料の授受だけでは基本的に犯罪の構成要件を満たしません。しかし6年前の事故、つまり忠志さんの死に何らかの形で関わっているとなればあなたおっしゃる可能性は否定できません。」 「文子さん。あなたはなぜ交渉役を庇うようなことを仰るんですか。旦那さんが殺された疑いがあるというのに、なぜかその重要参考人の情報を明らかにすることを拒んでいる。それでは交渉役とあなたはもしや謀議を計っているんではないかと思われても仕方がありませんよ。そうなればあなたまで我々は捜査の対象と見なければなりません。せっかくの剛志さんの感謝の気持ちをあなたは踏みにじることになりますな。」 先ほどまで文子に寄り添うように接していた古田は、手のひらを返したように彼女に言い放った。その表情は非情である。文子は愕然とした表情で古田を見た。そしてうなだれてしまった。 「それでは失礼します。」 「一色…。」 その場から立ち去ろうとした古田と片倉は振り返った。 「一色くんは約束をしてくれました。」 「約束?」 「そう、その交渉役を必ずこの手で引きずり出して相応の罰を与えると。」 文子は自分の手のひらを見つめそれを握りしめた。 「一色には言ったんですね。それが誰か。」 「はい。」 「誰ですか。」 「…鍋島惇。」 「まさか…。」 古田は思わず声を発した。 「可笑しいですよね。旦那の殺害に何らかの関係を持っている人物も、その真相を暴こうとしている人も、昔うちに出入りしていた剛志の友達同士。でも昨日から鍋島のことは絶対に許さないと言っていた一色は、うちでバイトをしていた由香ちゃんを殺した連続殺人事件の容疑者。鍋島は依然として行方不明。もう私は誰を信じていいのか分からない…。」 「…何てことだ。何て事になってたんだ…。」 片倉は呆然とした。 「刑事さん。私は何を信じればいいんでしょうか。お願いです。教えてください。」 再び嗚咽してか細い声で救いを求める文子に古田が答えた。 「…家族です。」 「え。」 「文子さん。あなたが今もっとも大事にすべきは家族です。」 この言葉に文子は堰を切ったように泣き出した。古田は再び文子と正対して座った。そして一枚の顔写真を文子の前に差し出した。 「これがあなたにする最後の質問です。鍋島惇はこの男でしょうか。」 サングラスをかけて振り返る様子の写真。もともと遠くから写されたものを無理やり拡大したため粗い画像である。文子はそれを手にとってしばしの時間沈黙を保った。そして首を捻った。 「違いますか。」 「サングラスをしていたら分かりません…。」 「…やはり…そうですか。」 古田は少し落胆した声を出した。 「あ…ちょっと待ってください。ひょっとして…」 涙を拭った文子は立ち上がって、押入れからアルバムを持ってきた。そしてそれを古田と片倉の前でめくり始めた。 「剛志の高校時代の写真です。あの時はみんな仲が良くて、部活以外でもどこに何をしに行くのかわからないけど、よくあの子らは遊んでいました。剛志はカメラが好きでしてね。ほら当時あったでしょ、インスタントカメラって。あれでよくみんなの様子を撮っていたんですよ。ひょっとして…」 アルバムには剣道の試合や集合写真の中に混じって、カラオケでふざけている様子、合宿先かどこかでバーベキューに興じる様子などがあった。 「あ。」 古田がそういうと文子は手を止めた。 写真の中に剣道部の皆が仮装のようなものをしてポーズをとっている写真があった。その中に古田が差し出した写真と同じ様な丸型のサングラスをかけている男がいた。 「鍋島。」 片倉と古田は同時に男の名前を呟いた。 「すいません。この写真、しばらく預かってもいいでしょうか。」 片倉の申し出に文子は応じた。 「文子さん。よく私達に教えて下さいました。本当にありがとうございます。」 古田と片倉は文子に向かって深々と頭を下げた。 「ひとつ言い忘れたことがありました。」 「なんですか。」 「あなたが信ずるべきものはもうひとつある。」 「はい?」 「我々です。」 「え?」 「我々を信じてください。必ず事件の真相を突き止めて見せます。」 文子は古田の顔を見て部屋の仏壇に置かれた忠志の遺影を見た。遺影の忠志はこちらに向かって微笑んでいる。彼女は忠志に向かって頷き彼らに向かって一礼した。 「どうかよろしくお願いします。夫の無念と桐本さんの無念を晴らしてください。」 「約束します。必ずや真実を白日の下に晒してみせます。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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オーディオドラマ「五の線」
59,12月21日 月曜日 13時15分 金沢銀行本店 役員会議室
59.mp3 金沢の南町に居を構える金沢銀行。大正期に当時の著名な建築家の手によって建てられた石造りの重厚な外観は権威的でもあり、その中も当時の面影を色濃く残した作りとなっている。10メートルほどの高さを持った一階営業店フロアは圧巻であり、中でもその背後の中央から左右に別れるように広がる階段は翼を広げた鷹を彷彿させ、来店する皆を圧倒する迫力を持っていた。金と権力が集まる石川県の第一地銀金沢銀行の中枢には、この階段を登って行かねばならない。赤絨毯が敷かれた階段の先には役員と関係者のみが出入りを許される、役員会議室と頭取室があった。 「では小堀部長続けてお願いします。」 会の進行は総務部の担当である。総務部長は上座窓側に立って資料に目を落としながら議事を進めた。Uの字を思い起こして欲しい。この文字の底辺となる場所に頭取は座る。その両サイドの直線となったところの最も底辺に近い位置に専務取締役の本多慶喜。常務取締役の加賀京三が向かい合って座り、それから順に取締役達が並んでいる。これらの男どもが、口を真横一文字に噤んで権威的な建造物が作り出すこの重厚な空間に負けじと踏ん反り返っている様は、第三者がみると滑稽に映るかもしれなかった。 「マルホン建設に関して、今般一億の手貸の承認を求める稟議が金沢駅前支店より上がっています。」 融資部から検討用の稟議の写しが会議室の全役員に配布された。資料がひと通り全役員に行き渡ったあたりで役員たちがざわざわと騒ぎ始めた。本多はそれを鎮めるように役員室全体に響くほどの声を発した。 「小堀部長!! 何だこの稟議は。支店長の判子がないじゃないか!!」 「申し訳ございません。」 「バカも休み休みにしたまえ!!こんな不完全な書類でマルホン建設の融資が承認されるとでも思っているのか!!」 「まぁまぁ専務。落ち着いてくださいよ。」 常務の加賀は正面に座る本多をなだめるように言った。 「小堀部長。どうしてこんな稟議をこの場で提出したんですか。これは支店長の承認がない時点で否決案件ですよ。ねぇ専務。」 不敵な笑みを浮かべて加賀は本多の方を見た。金沢銀行では本多慶喜率いる派閥が過半数を占めている。この役員会でもそうだ。加賀は財務省からこの金沢銀行に三ヶ月前に天下ってきた40代後半の男である。 「金沢駅前支店支店長山県有恒に代わって、私がマルホン建設の融資についてご説明申し上げます。なので融資部直轄案件として皆さまにはお聞き願いたくここで伺うものです。」 「なんだその融資部直轄案件ってのは!!いつからマルホン建設はそんな扱いになったんだ!!いいから山県支店長を今すぐここに呼びたまえ!!」 先ほどから大声を張り上げる本多は冷静さを欠いているとしか思えなかった。 「本多専務、先ほどから大きな声でどうされたんですか。いいじゃないですか。小堀部長がご自分でこの場でマルホン建設の融資について説明するっていうんですから。聞いてあげましょうよ。」 加賀は同席する役員たちの顔を眺めた。誰も彼も困惑した表情である。 「お願いします。何卒よろしくお願いします。」 小堀は深々と頭を下げて役員たちの同意を願う。専務の本多は彼と目を合わせようとせず、ただひたすらに提出された稟議を手にして肩を震わせている。 「マルホン建設の明日がこれにかかっています。」 「ほら皆さん。金沢の有力企業の明日がこの融資にかかっているんですよ。苦しんでいる企業があればその言葉に耳を傾ける。地元経済の発展を願う地方銀行としてはあたりまえのことじゃないですか。ましてやマルホン建設はここにおられる本多専務のご実家ですよ。みすみす否決にもできないでしょ。まぁでも、小堀部長の説明を聞いてからでないと何とも言えませんがね。」 加賀はそう言って頭取である前田平八郎の顔色をうかがった。前田は黙って頷いた。その様子を見て小堀は頭を下げた。 「ありがとうございます。ではご説明申し上げます。」 小堀はマルホン建設の与信状況の説明を始めた。 「マルホン建設はお手元の三期分の決算書をご覧の通り、二期連続の赤字でございます。幸い今のところ決算書上では債務超過ではないことから当行の与信判断からは要注意先と判断されています。しかし先方の強い申し出から貸出条件は緩和しており、試算表から見るところ今期の業況も思わしくなく、このまま行けば今期も赤字。そのための累損、債務超過は必至です。これらのことを総合的に勘案しますと、実質は要管理先いや破綻懸念先と言えます。」 「何だ君は〓現状の与信判断は要注意で留まっているというのに、君の勝手な予想と見解をこの場で述べるな〓」 本多は私見をこの場で述べる小堀を叱責した。 「ふーん。なるほど。続けてください。」 本多とは対象的に加賀は小堀に説明を続けるように促す。 「マルホン建設はご存知の通り公共事業を主たる業務としています。現在、北陸新幹線に係る仕事を自治体から請け負うことで営業を続けております。なので急激に業況が悪くなるという懸念はありません。それに先ごろ国土建設大臣になった本多善幸は公約のひとつに新幹線事業のさらなる拡充というものを掲げています。なので、ひょっとするとマルホン建設は来期以降、工事受注額が増えて持ち直す可能性もあります。今般の一億円の手形貸付は当該先の年末の資金ショートを回避するための限定的なものです。返済原資は売掛金の回収によってなされる見通しです。」 「なんだ、よくある話じゃないですか。専務。年末の資金ショートは何もマルホン建設だけに限った話ではありませんよ。」 加賀は本多の方を見て不敵な笑みを浮かべた。 「私はいいと思いますよ。今回の融資は。皆さんはどうでしょう?」 手元の稟議を見ながら気難しそうにしていた役員たちは一様に頷いた。 小堀は役員に向かって一礼した。 「ありがとうございます。」 「専務。皆さんが賛同されていますよ。良かったじゃないですか。」 本多は自分の実家の財務的窮状を役員全員の前で晒されたことで怒りに震えていた。 「なにもそこまで取り乱すことじゃないでしょう。そうですよね頭取。」 頭取の前田は役員会が開かれてから一度も口を開いていない。彼はただ頷くだけだった。 「でもですよ。金融検査では指摘されるでしょうね。この先は。」 この加賀の言葉に役員室は静まりかえった。 「仮に実質破綻先に格付けされたら、引き当ても随分と積まなくちゃいけませんからね。」 「山県支店長はことのほか、そのことを気にしているようです。」 小堀は加賀に答えた。 「確か金融庁が入ったのは二年前でしたっけ?」 「はい。」 「じゃあさっさと改善させておかないとまずいですね。」 「はい。いつまた入るかわかりません。」 「それなら話は変わってきますね。マルホン建設の早急な経営改善を私は求めます。でなければ、私はこの融資に賛同しかねます。」 役員たちは加賀の初議にざわめいた。 「はははは。加賀常務。一体あんた何なんですか。」 「え?金沢銀行常務取締役ですけど、何か?」 「さっきから黙って聞いていれば、随分と好き放題にご意見されていらっしゃる。たった三か月前に財務省から天下ってきたご身分だというのにご主張が過ぎるのではありませんか。」 本多は加賀の言い分についに堪忍袋の緒が切れたようだ。 「はて、本多専務。私はおかしなことをいいましたか?金融庁検査はだいたい二年ごとに入ると相場は決まっています。いやね、別にこの先が優良先ならいいですが、ほら、際どいでしょう。」 「際どいもんですか。今まで当局から指摘など受けたことはないですよ。」 「いやいや。だって二年前のことでしょ前回の検査は。お手元の決算書を御覧なさい。ほら、要注意の二期連続の赤字、それでもって貸出条件緩和債権あり。これはいけませんよ。で、なんですか。融資部の見立てでは今期も随分と残念な見通しのようじゃないですか。私が検査官の立場ならジッパですよ。」 「ジッパ…。だと…。」 本多は拳を握りしめた。 「専務さん。お気持ちはわかりますけど、あなたも銀行員として長いキャリアを持ってらっしゃるから言わなくてもわかるでしょ。ジッパになったら引き当て積まないとねぇ。そうなったらマルホン建設の心配よりも当行の財務が心配になっちゃうでしょ。」 「加賀常務。どうやらあなたはお分かりになっていないようですね。」 「何のことでしょうか?」 「金融検査があるのは百も承知ですよ。そのために貴方がいらっしゃるんでしょ。」 加賀は首を傾げた。そして隣に座る別の役員に自分の役割について尋ねるも、彼は明確な答えを示さなかった。 「何でしょうか本多専務。あなたのお言葉はいまいち良く分からない。もうちょっと噛み砕いてご説明くださいませんか。」 「おやおや本当にお解りでないようですね。皆さん。これは困りましたよ。はははは。」 本多に合わせるように役員の過半は笑い出した。 「働きかけるんですよ常務。」 「働きかける?」 「まったく分からない方だな。あなたの仕事はお上相手の調整ですよ。それ以外に考えられないじゃないですか。通常の銀行業務は我々にお任せください。あなたは霞が関の方だけ見ていればいいんですよ。」 加賀は本多とほかの役員連中を見回した。彼らの視線は厳しく、そして威圧的でもある。 「分かりました。それが私の仕事というならそうしましょう。」 「何だ、素直じゃないですか。加賀常務。」 「しかし、あなた達の期待している結果とは真逆の事になるかもしれませんよ。」 「なにい?」 役員たちはお互いの顔を見合わせる。 「確かに私は財務省からの天下り。一般的にはあなた達のおっしゃる役割を期待されているんでしょう。それはあなた達の世界での出向と似た性格を持っている。」 「馬鹿言え。君たちの役人の給料は我々民間企業が負担しているんだ。中央官庁でお役御免となった連中に我々は税金を払い、尚且つ給料も払う。こんな破格の待遇で当行はあなたを雇い入れているんだ。それなりの働きをしてもらわないと困るんだよ。出向と同じに扱うんじゃないよ。」 「俺が自ら希望してここに入ってきたとしたらどうだ?」 先ほどから失笑渦巻く役員室が水を打った静けさとなった。 「俺が志願してここに入ってきたらどうなんだと言ってるんだ〓」 激しく机を叩いた加賀は鬼の形相で本多はじめ全役員の顔を睨みつけた。 「いいかひとつだけ覚えておけ。役人の世界でなし得ないこともあるんだ。そのためにその世界を飛び出すモノ好きなやつもいるんだよ。」 「な…。」 本多は会議開催時から沈黙を保っている頭取の顔を見た。彼は本多と目を合わせずにただ正面だけを見つめている。 「専務。あなたがおっしゃる通りに働きかけますよ。どうやら金沢銀行の融資審査はザルの部分があるってね。さっさと検査した方がいいんじゃないですかってね。」 「ま、待ってくれ…。」 「え?働きかけを期待されているんでしょう。ねぇ皆さん〓」 加賀の発言に役員たちは狼狽を隠せないようだ。それとは対象的に前田頭取は身動きひとつせず静観の構えを保っていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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5 years ago
18 minutes

オーディオドラマ「五の線」
58,12月21日 月曜日 12時45分 河北潟周辺
58.mp3 「何だって?お前はその刑事にそんなこと言ったのか。」 「ああ。」 「まったく何てことしてくれたんだ。」 「なんだよ。聞かれたことをその通り話して何が悪いんだ。」 「あのなぁ。俺はお前とは連絡とって無いって言ってしまったんだぞ。あぁ辻褄が合わなくなってるじくるじゃないか。」 「はぁ?なんでそんな嘘をつく必要があるんだよ。」 「いや…。」 確かに佐竹のいう通りだ。村上は佐竹に余計な面倒をかけたくないとの気持ちから片倉に嘘の答弁をした。警察から事情を聴取されたという佐竹からの連絡もなく、おそらく自分が最初の聴取対象であろうと踏んだのが間違いだった。まさか別の者が同じような時間帯に佐竹を聴取していようなどとは村上は想定していなかった。物理的に離れた環境にいる他者の気持ちを以心伝心で組めるほどの卓越した能力を持っている人物などいる訳もなく、村上は自分の軽率な言動を後悔した。 「他に何か聞かれなかったのか。」 「いや、俺は俺で年末のゴタゴタで忙しいから今日の晩にもう一回出直してくれって言っといた。」 「そうか。」 「なぁ、なんでお前そんな嘘ついたんだ。」 「いいだろお前には関係ない。」 「関係ないってなんだよ。おまえこそ変にあいつらに勘ぐられることになるぞ。」 ここで村上は昨晩談我での店主とのやり取りを思い出した。 「相手に黙って、こそこそするからダメなんじゃあ無いのかなぁ。なんて言うのかな、こうちゃんと向きあって、俺はこう思っている、君はどう思うって。」 「いやぁ、なかなか面と向かって言えないよ。」 「そうかなぁ。でもそういう本音の部分を話せるの間柄って言うのが、友達の良い部分じゃないのかなぁ。」 「佐竹、あのな。」 「どうした。」 村上は頭髪をかき乱しうな垂れながら言葉を発した。 「…俺、実は今ピンチなんだ。」 「なぜ。」 「あのな…あれ…ほら、あれだよ。」 「何だよ。」 しばらくの沈黙を経て村上は意を決した。 「ウチのボスの弟の慶喜。お前んとこの専務がちょっかいを出してきた。」 「専務が?」 「ここだけの話だ。石川3区の立候補予定者がいてな。俺にその秘書をしろと言ってきやがった。」 「それがどうピンチなんだ。」 「あのなぁお前にはさんざん話していただろ。俺が何故今、政治家の秘書なんかやっているか。」 「ああ、お前は政治家になるんだろ。」 「そうだ。そのために俺は本多善幸一筋でこの仕事をしてきた。あいつの代わりに嫌いな人種に頭を下げたり、嫌な汚れ役も先回りして引き受けてきた。それもこれも善幸の支持を得て俺が選挙に出るためだった。」 「そうだな。」 「この世は腐っている。善幸がどうして政治家になっていられるか。それもこれも特定の利益集団に担がれているからだけなんだよ。あいつ自身それほどまで確固たる政治思想を持っているわけでもない。北陸新幹線に関してもそうだ。多重型国土軸形成なんて単なるお題目。意図するところは支持母体や自分ところの会社を延命するだけなんだよ。」 電話の向こう側で村上の政治に対する姿勢を聞いていた佐竹は、先ほどまで山県と話していた金沢銀行改革のための思想を思い出した。今、村上が言っていることは山県の信念とダブるところがあった。 「いいか国会議員ってもんは国の代表だ。地元のことは地元の議員がやるべきだ。それがなんだ気づいたら国会議員は地元セールスマンになり変わっている。こんなことじゃ激変する国際社会の競争に、この日本は取り残されるんだよ。」 「村上…だったら決別しろよ。」 「なんだって。」 「決別しろって言ってんだ。」 不意をついた佐竹の言葉に村上は頭が真っ白になった。 「俺は思うんだよ。そんな忌み嫌う連中に平身低頭で支持を取り付けて仮にお前が政治家になったとしよう。お前はその呪縛を引きずることでしか組織票を勝ち得ることはない。そうなればお前が善幸の意図したところを先回りしてやってきた損な役回りを、別の人間がするだけだろ。」 河北潟を望んでいた村上は風に煽られて揺れる水面を見つめた。川でも海でもない潟に漂う波はたおやかであり、風と共になびく水辺の枯れたススキがさわさわと音を奏でている。 「俺が今までやっていたことは無になるじゃないか。」 「無になるかならないかはお前次第だろ。俺もついさっき重大な局面に立たされた。だからお前の話に正面から向き合っている。」 「佐竹…」 「なぁ村上。業務に関わることだから詳しくは話せないが、ひょっとすると俺が今立たされた立場によって、お前が不利益を被ることになるかもしれない。」 「なんだって…」 「だから俺はお前には後悔のない生き方をして欲しいんだ。」 村上は足元に転がっている石ころをつまみ上げてそれを目の前に広がる河北潟めがけて投げ入れた。肩には多少の自信があったが、自分でも意外なぐらいの飛距離をもってその石つぶては水の中に落下し、波紋を作り出した。 「どうやら俺はずいぶんと遠回りをしていたようだな。はははは。佐竹、済まんな。電話で話すレベルの内容じゃなかったな。」 「いや村上、お前先回りしすぎて変に自分の身動きが取れなくなる癖があるだろ。だから心配なんだよ。」 「そうだな。」 ひと呼吸おいて村上は口を開いた。 「俺もお前に不利益をもたらすかもしれん。」 「なんだって…。」 「まぁ、お前の勧めの通りに行動すればそれはないだろうが、それを決めるのは俺次第だ。何故なら俺の人生だからな。」 電話の向こう側の佐竹はしばらく黙っていたが、しばらくして笑い出した。 「そうだ。お前の人生はお前が決めろ。」 「あぁ、そんな単純なこと、何で今まで分からなかったんだろうな。俺は俺で判断する。消して悔いのないように。」 「長い付き合いの男ととうとう対立する立場か。まるでドラマみたいだな。」 「佐竹…すまんな…。」 胸襟を開いて話したはずが、どこかもの寂しげな空気が漂っていた。二人の心境をそのまま表現したかのように、河北潟には12月の寒風が吹き荒んでいた。 「でも、絆は大切にしたいな。」 「絆?」 「お前昨日言ってただろ、疎遠になった間柄といえども絆ってものはあるって。」 立ち尽くしていた村上の頬に一筋の流れるものがあった。この電話以降、自分の行動如何によって佐竹とは反目し合う関係となるかもしれない。それだけにこの一言は村上の琴線に触れるところがあった。 「そうだな。」 「お互いベストを尽くそうぜ。」 高校時代に苦楽を共にした戦友として二人はお互いを認め合っていた。時には対立し、時には価値観を共有し、社会に出た今日まで絆を深めてきた。自分が慶喜の申し出を断ることで、佐竹の出世が脅かされようが、それはそれで止むを得ないことである。佐竹も思わずがな自分に不利益を与える立場になったようだ。それは彼の望むところであろうがなかろうが、彼自身の手で決断したこと。そんなことで決定的な溝ができるほど二人の間は柔なものでもない。二人はそのように語り合い、お互いの健闘を祈って電話を切った。 切った携帯電話をしばらく見つめた後、村上は河北潟の様子を眺めた。そして振り返って10メートルほど離れたところに止めてある自分の車に目をやって言った。 「ははは、また敵が増えちゃったよ。一色。」
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5 years ago
13 minutes

オーディオドラマ「五の線」
57,12月21日 月曜日 12時24分 金沢銀行金沢駅前支店
57.mp3 人気が少なくなったロビーの雑誌類を整理していた佐竹は、店内に設置されたデジタルサイネージに目をやって今の時刻を確認した。 そろそろ休憩をとっても良い時間だ。一足先に休憩に入っている橘はもうしばらくすればここに戻ってくる。彼の帰りを確認して自分も休憩をとろう。そう思いながら佐竹はひと通り店内を見回した。彼が店内奥の職員通用口に目をやった時に、その扉は開かれた。 「支店長。」 山県は羽織っていたコートを脱いで、そばにあるコートハンガーにそれを掛けた。支店長の決裁を求める稟議書がうず高く積まれた自席に目をやってため息を付いた彼は、立ったままデスクの引き出しに手をかけた。 ーさぁどうする。 引き出しの中を確認した山県は店内を見回した。そこでロビーに立っている佐竹と目があった。山県の目つきは鋭く、5m先にいる佐竹は固まってしまった。そこに休憩を終えて外から帰ってきた橘がタイミングよく通用口から店内に入ってきた。橘は山県の車が駐車場に止まっていることから、彼が帰ってきたことを知ったのだろう。店内に入るやいなや支店長席の方へ駆け寄った。橘の動きを見て佐竹は同じく支店長の側へ駆け寄った。 「次長も代理もそろって何や。」 「融資部からの再三の催促で支店長には無断で稟議を本部へ送りました。」 橘が支店長不在時の事の顛末を報告した。 「これみれば分かるわ。」 そう言うと山県は自席の引き出しを開けてその中を二人に見せた。 「すいません。」 「次長も代理も揃いも揃ってだらやな。」 山県の表情には笑みが浮かんでいた。 「おい、ちょっと応接にこいま。」 応接室に入るやいなや山県はタバコを咥えてそれを吸い始めた。 「どう思う。」 「どう思うって言っても...。」 橘はそう言って佐竹と顔を見合わせた。 「小堀部長何か言っとったか。」 この問いに佐竹が答えた。 「13時からの役員会で承認もらうから、とにかく稟議を直接こっちまで持って来いって言ってました。ですが稟議は支店長の席にあって、尚且つ不在なためそれは難しいと答えました。」 「そしたら?」 「書き直せとの指示でした。」 「書き直すのは容易いことですが、私たちとしても後で現場の独断で融資を起案したと責任をなすりつけられるのは困ります。そこでダメもとで支店長の席の引き出しを開けると稟議がありました。 支店長が却下された稟議としてそのまま融資部へ持って行って現在に至ります。」 「でもそれやったら俺が却下した稟議かどうか証明できんぞ。マルホン建設が仮に飛んだりしたらお前らに責任が擦りつけられるかもしれん。」 「そのあたりはここに証拠を収めておきましたので何とかなるでしょう。」 佐竹は胸元から携帯電話を取り出した。 「携帯?」 「ええ、スマートフォンじゃないですが、これでも立派に録音ぐらいは出来るんですよ。」 佐竹は携帯を操作して録音した音声をこの場で再生した。 「融資部に入ったところから録音しています。」 「お疲れさまです。上杉課長。」 「お疲れさん。佐竹、マズイぞ。小堀部長が朝からソワソワしてめちゃくちゃ機嫌悪いげんわ。」 「それで今、ここに来たんですよ。課長。ちょっと教えて欲しいんですが、今日は何月何日ですか?」 「なんねんて佐竹。」 「いや、ちょっとここまできて稟議書の日付があっとるかどうか不安になって。」 「おいおいここまできて書き直しは辞めてくれや。12月21日。」 「えーっと今何時でしたっけ。」 「時計見れや。9時半やろ。」 「稟議。」 「君かマルホン建設を担当しとるのは。」 「はい。」 「佐竹君やな。」 「はい。」 「支店長は休みや。」 「いま何て言いました?」 「だから支店長は休んどるって言っとるやろ。」 「部長。意味がわかりません。支店長はこの稟議書をちゃんと読んで却下されました。その却下された稟議書の原本を持ってきてるんですけど。そもそも部長は支店長とこの一件で朝電話されていたじゃないですか。」 「山県のやつ、べらべらべらべらと喋りやがって。もういい。わかった。これは受理する。」 「失礼します。」 録音された音声はここで切れた。 「ははは。代理、おまえなかなかな策士やな。」 「そうや。日付と時間を第三者に言わせて裏を取るとか、まるで刑事やな。」 山県と橘は佐竹のツボを抑えた録音に感心しながら笑みを浮かべた。 「別に専務派とか支店長派とかのことを念頭においてやったことではありません。ただ自分達の身を守るために必要だろうと思ってやったことです。」 この言葉を受けて山県は真剣な面持ちとなった。 「佐竹。それは大事なことや。それはお前のみならず、次長やこの店で働く全行員の身の安全を図る手立てとなる。良くやった。」 佐竹の隣に座る橘も山県の言葉に頷いた。 「ありがとうございます。」 「支店長。私たちも今の融資体制には疑問を持っています。我々もできる限りのことをしますので、支店長の今後の展望をお聞かせ下さいませんか。」 「ははは。次長。あいにく俺は専務のような徒党を組むことが苦手でな。お前もその口やろ。」 「まぁそうですが…。」 「その言葉だけありがたくもらっとくわ。」 「どうして私たちには明かしてくれないんですか。」 ここで佐竹が口をはさんだ。 「私達だって現状の人事や業務に疑問を持っているんです。だから今回のマルホン建設の稟議の扱いも自分なりに考えてリスクを冒しながら本部に持参したんです。支店長からは何も聞かされていません。今回はたまたま私が融資部でのやり取りを録音していたから、あとから何とでも弁明できますが、これがそうでなかったらどうするんですか。それこそ私や次長にマルホン建設の融資事故が起こった際に責任が被せられる。支店長は小堀部長と親交があるから欠勤扱いになるかもしれないですが、私たち当事者はそうは行きません。」 「佐竹…」 支店長に食ってかかる佐竹を見て橘は少したじろいだ。 「私も派閥とか権力闘争とかは好みません。しかし支店長がおっしゃる融資体制のおかしな点を改めたいということには賛同します。賛同するからこそ支店長、あなたの真意を聞きたいんです。」 山県は佐竹の目を見て微動だにしない。 「支店長。あなたは出世にために、もしくは派閥抗争に勝利するためにマルホン建設を踏み台にされるんですか。それとも当行を本来あるべき姿に変革したいがために、マルホン建設を切り捨てようとされているのですか。」 「前者だ。」 佐竹と橘は固まった。額から一筋の汗が流れ落ち、それが喉を伝った。 「と言ったらどうするんだ。ん?」 ソファに深く座り肘をついて佐竹の言い分を聞いていた山県は、座り直して前屈みの姿勢となった。この時佐竹は心の中では動揺していた。血気にはやって直属の上司を問いただすようなことをしてしまった。彼の刺すような視線に目を背けたい気持ちに駆られたが、こう言い放ったからには引くに引けない。 「身の処し方を考えます。」 「おい佐竹。よせ。」 「はっはっはっ。」 山県が大きく笑った。 「代理。必死やな。必死すぎると大怪我するぞ。」 「支店長…。」 「冗談や。冗談。まったくお前がこんなに熱い男だとは思っとらんかったわ。俺が派閥抗争なんかするとおもっとるんか代理。」 「いえ。ですがその言質を頂いていませんでしたので。」 「すまんな。あまり自分のことを語る主義じゃないんでな。お前らに変に気を遣わせてしまっとったか。すまん。」 山県は佐竹と橘に頭をたれた。 「これは俺の独断や。お前らには絶対に迷惑はかけん。ほやからもう少しの辛抱や。金沢銀行の癌は全て本多専務とその取り巻きにある。あいつらを一掃して本来あるべき姿に戻す。そのためには俺は刺し違える覚悟や。ただ今の俺の立場では何もできん。何かを変えようと思ったら変える立場に自分が上がらんといかんのも事実。だからお前の問いに答えるとするならば、両方と言えるかもしれん。」 佐竹は山県の目を見た。彼は視線をそらさない。嘘をつくような人間ではないと思うが、佐竹は不安だった。 「信じていいんですね。」 「信じるか信じんかはお前に任せる。」 「…わかりました。」 「どうしてこのタイミングで支店長は事を起こそうと思われたんですか。」 橘が山県に問いかけた。 「次長。奇襲っていうもんは相手の虚をつくから奇襲っていうんや。マルホン建設から出た本多善幸が国土建設大臣になった。お膝元ではホッとして胸をなでおろしとるところやろ。あいつの関係者もそうや。そいつらは相変わらずなんの考えもなしに利権構造にしがみつきっぱなしや。税金ちゅう蜜に群がる蟻や。そんな奴らの目を覚めさせるんや。」 「しかしマルホン建設が飛ぶとなると、社会的影響は計りしれません。」 「おれは別にあの会社を潰したいわけじゃない。本当の意味での競争力を身につけて欲しいだけや。そのためにはマルホン建設そのものの刷新。そして現状変化を望まずただ延命だけを計るウチの上層部をガラリと変える必要がある。そのための奇襲や。俺はマルホン建設を潰すなんて一度も言った覚えはない。」 「しかし、今朝の小堀部長とのやり取りで支店長はマルホン建設はどうなっても知らんと。」 山県はタバコを咥えて橘の問いかけに答える。 「あれは売り言葉に買い言葉や。小堀さんはきっと解ってくれる。」 山県はそう言って勢いよく煙を吐き出し、落ちてきた眼鏡位置を調整した。 「いや解っとる。」 ここで佐竹の携帯電話が震えた。彼は胸元からそれを取り出して画面に表示される発信者の名前を見た。 ー村上。 村上は本多善幸の選挙区担当秘書。山県の画策に賛同して気持ちが高揚していた佐竹であったが、ここでふと我に帰った。いま山県が言っていたことを実行するとなると、彼に何らかの影響が及ぼされるかもしれない。思いを巡らせている間に着信は途絶えた。 「代理、大丈夫か?」 橘が顔色が悪くなった佐竹の様子を伺った。 「え、ええ。大丈夫です。ちょっと気分が。」 佐竹は得意先への訪問の予定があると言って、応接を後にした。応接には山県と橘の2人だけとなった。 「次長。悪く思わんでくれ。」 「いえ。」 「ここが天下分け目の勝負や。」 「はい。」 「急なことで済まんが、付き合ってくれ。」 「わかっていますよ。」 「それにしても佐竹のやつどうしたんや。」 「さあ、ただ何かのスイッチが入ったようですよ。」 「仕事も人間関係も無難にこなしてあまりこれといった特徴が無い奴やと正直思っとったけど、熱いもん持っとるんやな。」 「そうですね。」 「まるで昔の俺を見とるみたいや。」 「何言ってるんですか支店長。あなたは今も大概ですよ。」 「そうか。」 二人は声を押し殺して笑った。 「ただな。あいつには言ってなかったが、事を起こす時は得てして何かを失うもんや。その辺りは次長。佐竹のフォローを頼むぞ。」 橘は山県を見てゆっくりと頷いた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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5 years ago
19 minutes

オーディオドラマ「五の線」
56,12月21日 月曜日 11時53分 県警本部交通安全部資料室
56.mp3 「松永…。」 片倉の前方10m先にはコート姿の松永が立っていた。 「お前、そこで何をしている。」 そう言って松永はこちらに歩いてくる。 「おい、片倉。松永か。まつ…。」 電話の先で声を発する古田を遮るように、片倉はそれを切った。 「やれやれ。ちょっとは大人しくしていてくれればいいものなんだが…。」 松永は伸びきった自分の髪の毛を掻きあげた。 「ちょろちょろちょろちょろネズミが動きまわって目障りなんだよ。何を調べていた。」 「別になんでもいいだろ。あんたこそなんでこんな所におるんや。」 「何だ…その態度は。」 「こっちは今あんたとは何も関係がないんだ。指図は受けねぇ。」 片倉の態度に呆れた表情を示した松永だったが、昨日の狂人のように振る舞う素振りは見せなかった。松永は片倉が左手にスマートフォンを持っているのを見た。 「捜査資料の無断複製、外部持ち出しは懲戒もんだ。」 そう言って彼は片倉からそれを取り上げた。 「消せ。」 「…。」 「今すぐこの場で消せ。俺の目の前で確実に消せ!!」 「それはできん。」 「あのなぁ、この俺が最大の親切心で言ってやってんのに、それすらもお前は無視か?」 そういうと松永はコートのポケットの中からホッチキスで止められ、強引に4つに折りたたまれた10枚ほどの用紙を取り出した。 「お前が欲しいのはこれだろ。」 松永が手にしている資料は、いま片倉が撮影した6年前の県道熨子山線交通事故に関する調査報告書そのもののコピーだった。 「なんで…」 「質問は後だ。いますぐこの中のデータを消せ。」 松永は奪い取った携帯を片倉に返した。片倉は渋々該当するデータを松永の目の前で消した。 「それでいい。ったく、情報セキュリティのいろはもわからん奴が、その手のデバイスを何の警戒もなしに使用するのは見てられん。何かの拍子で外部に漏れたらどうするんだよ。」 そういうと手にしていたコピー用紙を松永は片倉に差し出した。 「ほらよ。くれてやる。」 「なんだよ。どういう風の吹きまわしだ。」 「ほら、さっさと受け取れ。」 片倉は今、自分の目の前に起こっている状況を掴みきれない表情で資料を受け取った。 「なんでお前がこの資料を漁ってるんだ。」 「…。」 「なんでお前がこの資料を漁ってるんだ?ん?」 「…。」 「やれやれ…。俺も随分な嫌われ役になったもんだな。まあそれが俺の役割。今のところ自分に及第点を与えてやっても良いか。」 「どういうことだ。」 「知りたいか。知りたければお前が今、ここにいる理由を先に説明してみろ。そうすれば教えてやってもいい。」 片倉は暫く考えた。松永の意図するところが全くわからない。 その中で自分の手の内を明らかにすることは、相手に付け入る隙を晒す非常に危険な行為である。だが松永の真意を知りたくもある。 昨日、自分を捜査から外した松永は傍若無人という形容がそのまま当てはまる人物だった。本部長からも松永の人となりを注意せよと聞いている。しかし今、自分の目の前にいる彼はその言動に気に食わない箇所があるにせよ、こちらにとって不利益をもたらす人物には思えなかった。抑えたデータを消去するよう要請はされたが、その代替として資料のコピーを提供してくれている。 「俺は俺なりに今回の事件を調べたいんだ。各方面から情報を収集しとる。この資料を抑えるのもその一環や。」 「6年前の県道熨子山線の事故と今回の事件が一体何の関係があるって言うんだ。」 「話せば長くなる。」 「長くなるのがお前にとって不都合なのか。」 別に不都合ではない。ただ自分と古田の捜査は極秘であるため、それを知られたくないだけだ。 「今、電話をしていた相手は誰だ。」 「知らん。」 「知らないやつと捜査の話か。そんな訳ねぇだろ。」 「誰と話をしようがお前には関係はないやろ。お前の捜査手法に疑問を持つ人間なんてわんさとおるからな。」 「古田登志夫。」 「は?」 「県警本部捜査二課課長補佐 古田登志夫だろ。」 唐突だった。話し相手を当てられた驚き。古田の名前を松永が知っていた驚き。このふたつの衝撃が片倉に走った。古田は熨子山連続殺人事件の捜査には招集されていない。なぜ松永は古田の情報を得ているのだろうか。 「なんでトシさんの名前を知っとるんや。」 「それも俺の仕事だよ。」 「仕事?」 「知りたいか。それなら6年前の事故と今回の事件の関係を言え。」 捜査の機密を保持したい気持ちは強いが、ことごとく意表をつく言葉を返す松永を前にして、彼の本心を知りたい衝動に駆られた。逡巡した挙句、片倉は松永に口外無用を条件に、つい先程古田から入手した県道熨子山線における事故の背景を語ることにした。 「なるほど。事故に見せかけたコロシか。いまお前の言った背景を考えるとそれほど飛躍した推理でもなさそうだ。」 「そうか。あんたもそう思うか。」 素直だ。自分を機械呼ばわりした昨日とは全く別人だ。片倉は松永の人格の変容に終始戸惑いながらも、彼が人の意見を聞く耳を持つ側面もあることに、何かしらの安堵感を抱いた。 「その文子という女性は健在なんだろう。そこからベアーズかマルホン建設かそれとも仁熊会の関係者を割り出せそうだな。」 目の付け所が自分と同じであることが、松永に対する片倉の警戒心を一気に解いた。 「そ、そうねんて…。ちょうどその話をしていたところなんだ。」 「スッポン捜査の古田。熱くて意外とクレバーな片倉。」 「意外とはなんだ。」 片倉はむっとした。 「まあいい、その線で攻めてくれ。」 「なんだって。」 「ああ、帳場に戻れとは言っていない。そのままこっそり古田と続けてくれ。」 「…いいのか。」 「但しもう少しわかりにくく動け。古田はどうか知らんがお前はダメだ。分り易すぎる。現に俺はお前の行動を補足していた。以後注意を怠らぬように。」 片倉は松永の指摘にぐうの音も出なかった。 「さて、こちらも口外無用だ。」 バイブレーションの音がなった。松永の携帯からのもののようだ。 「松永だ。ああ、正午の件だなちょっと遅れそうだ。どうした。…なに…。穴山と井上が…。そうか、わかったすぐにそっちに行く。ああちょっと待て。」 そう言うと松永は携帯のマイクの部分を手で覆って片倉の方を見た。 「ここから北署まで何分だ。」 「15分。」 「15分で戻る。それまで待機だ。」 電話を切ったのを確認して片倉は松永に声をかけた。 「穴山と井上がどうかしたか。」 「随分とややこしい話になってきた。俺は帳場に戻る。」 「おいちょっと待て。俺はお前の話を聞いてない。」 「すまんな。急用なんだ。機会があればまた今度。」 松永は肩を竦めてその場から早足で立ち去ろうとした。 「おい!! 話が違うがいや!! 」 「そのうち分かるさ。ああ、帳場の情報は岡田にでも聞いてみてくれ。じゃあな。」 「岡田?」 松永が去った後の資料室に再び一人になった片倉は呆然としていた。 結局こちらから一方的に情報を提供して、相手方の情報をひとつも聞き出せなかった。松永ははじめからこちらの情報を得ることだけを考えて、片倉と接していたのだろうか。いやそれならば熨子山の事故資料のデータ破棄と引き換えにコピーを渡すなんてことはしないだろう。そもそもなぜ松永は片倉が交通安全部の資料室にいることを知り、尚且つ彼が求める資料のコピーを持っていたのか。謎が多い。 さらに松永は去り際に岡田の名前を出した。片倉は先ほど本多事務所で岡田とバッティングし、その事自体をなかったことにしようと本人と話し合った。それが既に松永に露見したというのか。岡田のことを疑いたくないがまさかこちらの動きが報告でもされているのか。 「訳が分からん。やっぱりあいつ変人や。」 そう呟いて片倉は後味悪く資料室を後にした。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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5 years ago

オーディオドラマ「五の線」
55,12月21日 月曜日 11時30分 県警本部捜査一課
55.mp3 携帯電話の音がなった。胸元にしまってあるそれを取り出して、片倉は画面に表示される発信者の名前を見た。そこには古田登志夫の名前があった。 「おうトシさん。」 「片倉。なんやら次から次とどえらいもんが出てきたぞ。」 「そうか。ちょっと待ってくれ。」 そう言うと傍らの職員にしばらく離席する旨を伝え、彼は捜査一課から喫煙室へと移動を始めた。熨子山連続殺人事件の捜査本部は北署に設置されているが、県警本部との連携をとるために、ここにも連絡室なるものが設置されている。そのため県警本部全体もいつもより慌ただしく殺気立った雰囲気が充満していた。足早に歩く私服警官。県境を中心とした徹底した検問体制を敷く警備部。皆余裕が無い様子だ。 「で、どうした。」 「赤松と接触したんやが、あいつの父親が6年前に事故で死んどる。」 「で。」 「その事故がコロシじゃないかと一色がこっそり捜査をしとったようなんや。」 「おいおい待てよ。トシさん。また訳が分からんくなる情報やな。」 喫煙室の目の前に来た片倉だったが、そこで踵を返して別の方向に向かった。 「まぁ黙って聞け。お前、今どこに居る。」 「県警本部や。」 「そりゃあありがたい。片倉、ちょっくらそのまま交通安全部の資料室で当時の事故の調書見てくれんか。」 「そう言うやろうと思って、いまそこに向かっとる。」 「お前、天才やな。」 「まあな。で、どうなんや。」 「当時の一色が言うには、ブレーキひとつ踏まんと崖から転落するなんて考えられんっていうんやと。」 「ブレーキ踏まんと崖から転落?」 「ああ。」 「うーんトシさん。それやったら自殺って線もあるんじゃねえが。」 「ワシもはじめそう思った。ほやけどその死んだ当の赤松の父親をめぐる話を聞いたら、一色の推理もあながち無視できんげんて。」 「と言うと。」 「赤松の家は田上の花屋や。あの辺りは区画整理でいまは随分と綺麗になっとるわけやけど、そこの用地取得に関する不正な構造を、赤松の父親は何かの形で知っとったようなんや。」 「不正な構造?」 「あの辺り一帯の土地は昔マルホン建設が買い漁っとった。ほやけどバブル崩壊であいつらは大損。売るにも売れんくてどんどん含み損が増えていく。このゴミみたいな土地をどうにか手放せんかって思っとったときにベアーズデベロップメントっちゅう会社がそいつを全部買ってくれた。その後、そのゴミみたいな土地を含む田上地区の区画整理が持ち上がってベアーズデベロップメントは購入金額よりも高値で国に土地を売却。一見するとベアーズデベロップメントの先見の明が成し得た、不動産投資の成功話。」 「そうやな。」 「そのベアーズって会社が普通の不動産投資会社なら話はそれで終わり。ほやけどほら、この会社は仁熊会のフロント企業ってやつや。」 交通安全課資料室の前まで来た片倉はその扉を開け中に入った。人は全くおらず、書架が整然と並び、書類保存のため一定の温度と湿度を保った凛とした空気感は、暖房と人の熱気が充満する県警本部全体の環境とは一線を画すものであった。 「仁熊会やって…。」 「ほうや。まぁちょっと聞いてくれ。マルホン建設と言えばお前、何を思い出す。」 「そりゃ本多善幸…。って…ちょっとまってくれトシさん。」 「ああ、お前が言いたいことはわかるけど、先にこっちから報告するから待っとってくれ。」 「わかった。」 片倉は年号別に書類が整理された書架の中から6年前のものを探した。 「バブル崩壊時にどんな博打打ちでも、みるみる評価損を出すような土地を買うなんてことはせん。そこをベアーズデベロップメントはマルホン建設から買った。業界で有名な不動産投資会社って言うならわかるけど、世間的には誰も知らん仁熊会のフロント企業や。マルホン建設の当時の社長は本多善幸。あいつはベアーズに土地を売却した後に政界進出。その後に田上の区画整理。一時的に損をしたベアーズは地価を持ち直し、上昇に転じたそいつを国に売却することで最終的に多額の利益を得る。いわゆる税金を食い物にした構図のできあがり。」 「その構図を知った赤松の父親が口封じに殺されたっちゅうんか。」 「ああ一色はそう推理したようや。ほやけどちょっとよう分からん事があってな」 「よう分からん?」 「父親の忠志は500万で口止めを依頼された。だが正義感の強い忠志はそれを固辞。旦那に内緒で母親の文子が500万の口止め料を受け取った。それを知った忠志は文子を非難する。いくらなんでもそんな後ろ暗い金は取れんちゅうことで忠志は全額を引き出して返しに行った。それがどうやら深夜の熨子山。そこで事故。」 古田と会話をしているうちに片倉は6年前の事故資料が保管されている段ボール箱を書架に発見し、その中を漁り始めた。 「事故後にその500万円は赤松の店でバイトをしとる人間を介して、赤松家に戻ってくる。当初の口止め料の振込人はコンドウサトミとかいう女性。後で現金で戻ってくる時の封筒にもコンドウサトミ。しかし、文子はこのコンドウサトミとは面識がない。なんで500万っちゅう金がマルホンとかベアーズのほうと赤松の家をこうも行ったり来たりするんか…。そこらへんがよう分からんがや。」 「トシさん。今聞いとって思ったんやけど、赤松の母親の文子って今も健在ねんろ。」 「おう。」 「ほんなら文子に聞けばいいがいや。」 「何をいや。コンドウサトミのこと知らんっていっとるがいや。」 「トシさん。文子は口止め料を入金してくれって用地取得の関係者とコンタクトとってんろ。ほんなら文子からその関係者ってやつ聴きだしてみれば、なんかの手がかりが出てくるかもしれんがいや。」 「あ。」 「あ…って、トシさんも寄る年波には勝てんげんな。ちょっと勘が鈍くなってきたんじゃねぇか。ああ…これやこれ。6月15日付け県道熨子山線交通事故に関する調査報告書。ちょっと待ってくれ。」 「そうか…俺も年やなぁ。定年60歳っていうのも何か分かるな。ははは。…って今お前なんて言った。」 「何って、勘が鈍くなってきたんじゃねぇかって。」 「違う。日付やって。日付をもう一回言ってくれ。」 「なんねんてトシさん。今度は耳でも遠くなったんか。6月15日。」 「それ当たりや。」 「なにが。」 「一色のやつ1年半前の6月15日に赤松の店に花を買いに来とる。」 「は?」 「なんでも知り合いの墓参りとか言って、赤松と直接会ったらしい。しかし、今お前が指摘した文子のこと。一色が気づかんかったとは到底考えられん…。あいつの中での捜査は一体どこまで進んどったんやろうか。ひょっとして何かの壁にぶち当たったか、それとも…。」 「…。」 「おい。片倉、どうした。」 「トシさん。これはひょっとしたらヤバいもん見たかもしれん…。」 「何が。」 「この報告書の検印。官房の宇都宮の判子が押されとる。」 片倉と古田は本部長の朝倉から、今回の熨子山連続殺人事件の捜査本部に松永が派遣された理由のひとつに官房宇都宮からの指示があったことは聞かされていた。宇都宮は以前、当県警で1年半交通安全部の交通課課長を務めていたことがあった。その後、全国の主要警察本部で要職につき、現在の官房総務課課長となっている警察キャリアの中の勝ち組的存在である。 「どう見たってこれは事故じゃねぇわ。ブレーキひとつかけずに見事なダイブ。自殺なら納得行くけど事故って言うなら誰もが首をひねる代物や。」 「おいおい。まさか官房さんもこの件にいっちょ噛みしとんるんじゃねぇやろな。片倉、その資料、お得意のあれ。えーっと何って言った。あの画面を指でピッピって触るやつ…。」 「スマホか。」 「ああそれそれ。スマホコピーしといてくれんか。」 「ああ分かった。長居は無用や。さっさと写して退散するぜ。」 背広の内ポケットからスマートフォンを取り出して片倉は手際よくそれらの資料をカメラで収める。 「携帯2台持ちって昔はお水の姉ちゃんぐらいやったけど、今じゃ俺みたいなおっさんも必要な時代ねんな。」 「で、そっちはどうやった。」 「ああ、こっちはその噂のマルホン建設輩出の本多善幸の秘書さんと会ってきた。こいつがこれまたどうも胡散臭い。」 「胡散臭い?」 「おう。村上隆二は昨日熨子山で検問にひっかかっとる。ほんで氷見に抜けて帰りは検問に引っかかることなく羽咋経由、金沢入り。現在も事務所で仕事中や。」 「なんやそれ。」 「鍋島についても反応を示したぞ。」 「どんな。」 「鍋島の名前を出した途端、顔色が変わったわ。でも村上は鍋島と連絡を取っとらんって言っとったから、実際に何が理由であいつの表情が変わったかは分からん。トシさんが言っとった高校時代のトレーニングについて聞いたら、やっぱりインターハイで優勝する奴やな。鍋島が飛び抜けて優秀やったって言っとった。あいつが鬼の時はどこで気づくんか分からんけど、隠れとってもすぐに捕まる。あいつが逃げる側のときはいつも最後まで捕まらんかったって。鍋島は相当熨子山の地理に精通しとるわ。」 「…そうか。佐竹や赤松の言うこととは食い違っとるな。」 「なに?本当か。」 「おう。どっちが本当のことを言っとるか分からんけど参考にさせてもらうわ。村上は佐竹のことを言っとったか。」 「いや、連絡は取っとらんって。」 「おかしいな。佐竹は村上と連絡をとったって言っとったぞ。実際連絡をとった時刻も方法も通話の履歴も見せてもらった。」 「あいつ、嘘をついとるな。」 「マルホン建設関係は6年前の件といい、今回の事件といい何か臭うな。」 「ああ。」 資料をひと通り撮影し終えた片倉はそれらを元の位置にしまって、部屋を後にしようとした。 「どうや片倉。昼飯で落ちあわんか。金沢駅に様子のおかしい喫茶店がある。そこで話を整理しよう。」 片倉の返事はない。 「おい片倉。どうした。」 「松永…。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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オーディオドラマ「五の線」
54,12月21日 月曜日 11時12分 金沢銀行金沢駅前支店
54.mp3 事業所融資の稟議書をパソコンに向かって作成していた佐竹は行内にある時計に目をやった。時刻は11時を回っていた。目、肩、腰に疲労を覚え始めていた彼はいったん手を止めて、両腕を天井に向けておもいっきり体を伸ばした。その時、自席の後方に位置する支店長席を見ると山県の姿は確認できなかった。彼は朝から店を出たきりだ。連絡も何もない。 「支店長まだ帰ってこんな。」 自分の隣に席がある橘がつぶやいた。 「そうですね…。あれから次長に連絡ありましたか。」 「いや、何にも。」 「融資部からは?」 「それもない。」 「…それにしても、なんでこのタイミングでこんな派手なことするんですかね。支店長は。」 「ほんなもん分かっかいや。」 窓口業務につきものの検印を押しながら橘は佐竹の問いかけを適度にあしらった。 「…でもな、支店長言っとったがいや。」 「はい?」 「奇襲って。」 「ああ、そんなこと言ってましたね。小さな勢力が大きな勢力に立ち向かうときに有効な手立てって。」 「そんな攻撃誰に向けてすれんて…。そこら辺ちょっと考えてみてみぃや。ああ、高橋さん。この改印届けオッケーね。」 「え…あんまり考えたくないんですが…権力闘争とかってやつですか。」 橘は苦笑いし佐竹を見る。 「それやろうな。」 「…まじですか。」 「マジ。代理、あたりを見回してみぃや。」 佐竹は素直に店内の周囲を見回した。店の一番奥に支店長席。その前に自分と次長。その左側には融資係。右側にはパーテーションで仕切られた区画がありそこは営業部隊のスペースであるが、この時間には誰もいない。前衛には預金、為替、年金、投信、各種手続きをを担う窓口業務を行う女性行員が慌ただしく来店客の対応をしている。いつもの風景だ。 「金沢銀行の実力者はだれか知っとるよな。」 「本多専務です。」 「ほうや。代理から見て左側の融資係、右側の営業係。どちらの長も専務派。」 「ええっ!?」 「なんやお前。なんも知らんげんな。」 会社ごとにその構造は違うだろうが、なぜか銀行という世界は派閥を作りたがる。 学歴によるものもあれば、縁故地縁によるものもある。仕事に対する価値観で派閥を形成するケースもあろう。人事考課という明文化された評価基準は整備されているが、金沢銀行ではその運用方法が特殊であった。上位考課者による主観的評価のウェイトが非常に重い制度となっていた。この前近代的で硬直化した組織において出世をする際に重要となる要素のひとつは組織内営業。すなわち組織内で上司にいかに気に入られるかということが重要となる。仕事本来の実績は確かに重要であるが、結局のところ上司の胸先三寸によるものが大きいため、それはさしたるものではなかった。 金沢銀行では本多派が圧倒的多数を占めている。この中で出世をするにはこの主流派の信任を得ることが第一条件だった。 「俺ダメなんですよ。その手の社内営業。」 「わかるよ俺もおんなじや。でもなぁ。」 「でも?」 「代理は結婚もしとらんし、子どももおらん。気を悪くせんと聞いて欲しんやけど、今この瞬間に代理は職を失ったとしても、年齢もまだ若いし何とかやっていけるかもしれん。でも、俺みたいに家庭を持って年頃の子どもとか抱えて住宅ローンもあったりすると、そういうわけにもいかんのよ。」 「守るものがあるってやつですか?」 「そういうこと。俺も派閥とか出世とか下衆な人間関係はごめんや。でも家庭を守るために時として派閥の人間に肩入れすることだってあるわいや。」 「…だとしたら、今回のマルホン建設の件、次長も気が気じゃないでしょう。」 「何か分からんけどなるようになるやろって思ってきたわ。こっちは取り敢えず本部の言うとおりのことしたし、専務派の人間には対面保ったやろ。」 「でも支店長には黙ってやりましたよ。」 「うーん。でもさぁ。俺ちょっと思っとるんやって。」 「何をですか?」 「支店長、俺らがこうやることを想定して引き出しに鍵かけんと出て行ったんじゃないかって。」 橘は空席のままの支店長席を眺めた。 「支店長としてはマルホン建設の融資はもうしたくない。しかしそのために部下を巻き添えにしたくない。電話で小堀部長にあんなに強く言ってもきっと融資部は稟議上げろと指示してくる。そのために自分が目を通していない稟議書をゼロから書いて本部に上げてしまうと、部下が独断専行で融資を起案したように捉えられるおそれがある。それなら実際支店長自らが目を通した稟議をそのままはんこがない状態で本部へ上げた方が体は良い。あとは本部が独断専行でやったことってな。」 「なるほど。」 佐竹は思わず手を叩いた。 「俺達は今回のマルホン建設の融資には一切タッチしていません。ただ言われたとおりにやれと言われたことをやっただけ。その証拠は支店長の判子が押されとらん稟議。」 「ほほう。となると次長。これは面白いことになってくるんじゃないですか。」 「なにが?」 「だってこれは支店長の専務派に対する宣戦布告みたいなもんでしょう。専務の実家のマルホン建設の融資については今後一切タッチしませんよ。追加の融資もしませんよって意思表示でしょう。だから今後の責任は全部本部のお偉方ででよろしくって。」 橘は呆れた顔で佐竹を見る。 「代理。お前もうちょっと賢い人間やと思っとったけど、案外そうでもないんやな。」 佐竹はむっとして言った。 「何がですか。」 「小堀部長言っとったやろ。もう庇えんって。あれは小堀部長が専務派ながら影で山県支店長を支えとったってことやろ。今後はその歯止めがきかんくなる。専務派の攻勢が一気に始まるってことや。」 「どういうことですか。」 「切り崩しに来る。既に融資係と営業係は取り込み済み。山県支店長を孤立化させるために俺とか代理とかを取り込みにくるぞ。他人事じゃ済まされんぞ。」 「ちょっと待ってくださいよ。そういう変な派閥とかが嫌いだから俺は中立でいままで仕事をやってきたんですから。」 「代理さ。これがこの世界の常識ねんぞ。立ち振舞を間違えたら俺みたいに万年次長止まりとか、窓際、出向だってある。」 橘は45歳で次長になった。同世代の入行組でも比較的順当に昇進してきた部類であったが、次長になってからというもの、10年間一切の昇進をしていない。方や橘よりも遅くして次長になった連中でも専務派といわれる派閥に属している連中は支店長や本部の役付けで活躍していた。これも派閥の力学がさせるものなのだろうか。 「次長はどうするんですか。仮に専務派が攻勢に出てきたら。」 「…さあな。その時はその時や。俺だって生活あっから…。ただあいつらから見れば俺らは山県派として見られとるんは間違いない。」 佐竹は不安になった。橘から「お前は独り身だから何が起こってもある程度の融通がきくだろう」と言われたが、そんなに自分の置かれた状況は楽観的なものではない。確かに家庭をもった人間から見れば守るものもさほど無いように見えるだろう。だからといってしばらく俗世と距離置けるほどの蓄えもない。佐竹にはやはり毎月の決まった収入は必要である。36歳。転職・再就職には絶望的な年齢だ。さらに金融機関の仕事は他の業界でつぶしが利かないことで有名であることが佐竹の不安心理を助長させた。 「派閥に入り込んだらそれはそれで派閥内の権力闘争がある。入らずに中立でいたらこれだ。代理、お前ならどっちがいい?」 佐竹は橘の問いかけに答えることができなかった。 「権力闘争はえげつないもんや。いかに上の人間に気に入られるかということよりも、結局のところいかに他人を出し抜くかってことなんや。そんなんじゃ仕事の上で価値観を共有する仲間といえるもんはできん。表面上はいい面しておいて、後ろを向いてあっかんべー。クソみたいな人間関係ばっかりになる。」 「…そんなクソみたいな権力闘争を勝ち抜いても、信頼出来る仲間がいない。そうなれば仮に出世したとしても辞めるまで延々と他人を引きずり落とすことしか考えなくなる。そんなのはゴメンですね。」 橘は佐竹の言葉に笑みを浮かべた。 「次長。ここは銀行です。人から預かったお金を必要としている人に貸す。ただそれだけの仕事をする場所です。そこにわけの分からない派閥とか権力闘争とか温情融資とかお家の事情を持ち込むことが異常なんです。」 「代理…。」 「やりましょうよ次長。俺達は俺達の筋を通しましょう。権力闘争なんかくそくらえです。」 ため息をついた橘はどこか呆れ顔だったが、佐竹の言葉に嬉しさを感じているようにも見えた。 「お前、本気になったな。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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オーディオドラマ「五の線」
53,12月21日 月曜日 10時22分 熨子山連続殺人事件捜査本部
53.mp3 「そうですか。その小西とかという目撃者の話によると、穴山と井上は18時の段階ですでに一緒にいたってことですね。」 部屋の一角に設けられた会議スペース。大きなテーブルに様々な資料が雑多に置かれ、その中心に位置する席は主である松永が外出中であるため空席であった。関はその空いた席の横に座り、捜査員から上がってきた情報の取捨選択に暇がなかった。 「目撃された田上から現場までどれくらいの時間がかかるんですか。」 「30分から40分といったところでしょうか。」 「ならば事件発生時刻までの空白の時間が生じる訳ですね。」 関は捜査本部に掲示されている金沢市の地図を眺めた。 「どうですか。熨子山までに彼らが時間を潰しそうな施設などは、この辺りにあるんでしょうか。」 「田上周辺には国立や私立の大学があることから、それなりに商業施設はあります。なので彼らがしばらくこの辺りに滞在していても何ら不自然なことはありません。」 捜査員の一人が関に答えた。 「よし。田上地区のめぼしい商業施設の防犯カメラを調べてください。聞き込みもやりましょう。彼らがなぜ一色に殺されなければならなかったのか、何かの手がかりになるかもしれない。」 「はっ。」 関の指示を受けて捜査員は駆け足で本部をあとにした。 「ほかに穴山と井上に関する情報はないですか。」 別の捜査員が手を挙げた。 「穴山と井上の共通の知人にコンタクトをとりました。」 「どうぞ。」 「あいつら札付きのワルです。」 関をはじめとした捜査員たちの顔つきが変わった。 「具体的に。」 「これは生前の穴山と井上の写真です。」 そう言って捜査員は何枚かの写真をホワイトボードに貼りだした。捜査員たちはそれを見て反応を示した。 「これはこれはなんともゴージャスなことで。」 貼り出された写真にはヨットの船上で大勢の女と一緒に豪遊する穴山と井上をはじめとした男ども、どこかの南国の高級リゾートと思われるプールで、これまた複数の女達と一緒に写っている穴山と井上の姿があった。また別の写真では金沢の高級クラブでホステスたちと一緒に写った二人もある。 「これは一介のサラリーマンができる贅沢さを超えていますね。」 「穴山と井上がこのような浪費をし始めたのは3年前からのことだそうです。共通の知人、仮にこの場ではAとします。このAが言うには奴らの浪費は突然始まったようです。二人は以前からパチンコなどのギャンブルに手を出して借金をしていたようでした。しかしこれがさっぱりでAにも金の無心をしている有様でした。しかし3年前のある時期から生活ぶりは一変。この手の浪費に金を使うようになったようです。Aが二人にその出処を聞くと、なんでもギャンブルで一山当てたとかで、詳細は一切明かしてくれなかったとのことです。奴らはAに借りがあったので、この手の催し物には必ず同席させ、その借りを返していたようです。」 「しかし穴山と井上の住まいとか身なりはごく普通だったと報告が入っていますよ。」 「ええ、そのとおりです。彼らの住まいはどちらも平均的相場の賃貸住宅。所有する車も中古の軽と一見すると地味なもんです。しかしこの手の水物の出費には糸目をつけななかったとAは言っていました。」 「Aに無心したお金はいくらなんですか。」 「50万。」 「それならAにはその金額と利息分だけを払って、後は自分たちのものにしようとするほうが合理的だと思いますが。」 「私もそれが引っかかっていたんでAに詳しく聞きました。Aも不思議に思ったようです。それだけの豪遊ができる金があるなら、現金で返してくれとAは言ったそうです。すると穴山と井上はそれはできない。現金で返すことができないからこれで返していると言っていたそうです。気味が悪くなったAは貸した金以上の見返りを貰うことはできないという理由をつけて、ある時点から彼らと連絡を取らなくなったそうです。Aは懸命な判断をしました。」 「というと。」 捜査員は鞄の中からA4サイズにプリントアウトした写真を取り出して、関の前に広げた。 場所はどこかはわからない。高級ホテルの一室のようにも感じられる。豪華な調度品が写り込んでいた。そこには穴山と井上のほかに20代とおもわれる女性が3名裸で写っていた。 「反吐が出ますね。」 写真を見た関は不快感を露わにした。 「関係長。よく見て下さい。」 関はプリントを手にとって見た。その場にいる捜査員たちも関の後方にまわって写真を覗きこむ。野放図な様子の彼ら彼女らの奥にベットの上に横たわって、かろうじて写っている鋭利な物体を確認した。 「これは…。」 「そうです。クスリです。」 「なるほど。ようやくわかりましたよ。穴山と井上はただ豪遊していた訳じゃなかったわけですね。」 「そうです。初めは羽振りの良さを見せつけるただの豪遊だったのかもしれない。現にAが招待されたパーティーではクスリは一切使用されていなかったそうです。何回かの享楽的な体験すると人間の欲というものは際限がなくなる。快楽を極限まで追求するようになります。そこでクスリの登場です。薬物は快楽追求のリミットを外します。快楽の奴隷を創りだすことによって穴山と井上はその奴隷から搾取を始めます。自ら連絡を取らなくなったAは、その後何度か穴山と井上からパーティーに招待されています。そのときのメールに添付されていたのがこの写真だそうです。」 「となるとスポンサーが問題ですね。」 「はい。」 関は腕を組んで考えた。 「わかりました。この件については正午に理事官に指示を仰ぎましょう。あなたはそれまでにこの件を資料に取りまとめておいて下さい。」 「はっ。」 「さて。七尾の件はどうなっていますか。」 「死因は特定出来ました。」 別の捜査員が資料を関のデスクの前に並べる。そこには凄惨な現場の写真、遺体の解剖に関する情報などが記載されていた。 「ガイシャはいったん睡眠薬で昏睡状態に陥らされ、頭部を拳銃で撃ちぬかれています。」 「拳銃?」 常に平静を保つ関の顔つきが険しくなった。 「まさか…その拳銃は。」 捜査員は苦渋の顔つきで関の顔を見つめて言った。 「はい。ご察しの通りです。弾丸と薬莢を現在BIRI(ビリ)で照合していますが、鑑識が現状見る限り、県警で使用される拳銃と同型のものではないかとの話です。」 関はこの言葉に天を仰いだ。 「ガイシャの身元は。」 「ダメです。」 これまた苦い顔をした別の捜査員が関に答えた。 「ダメとは。」 「身元を特定する手がかりがない状態です。」 「え?何言ってるんですか。全く無いなんてあり得ませんよ。遺留品とか指紋とか、なんでも手がかりになるでしょう。」 「ガイシャの指紋照合には時間を要する状況のようです。遺留品についてもガイシャに身元につながるものはまったくない状況です。」 「何なんですか…それ…。」 「唯一手がかりらしいものとして現場物件の賃貸借契約があります。」 「それですよ。私が聞きたいのは。」 「借主はコンドウサトミという人物だそうです。」 「コンドウサトミ?」 「ええ。コンドウサトミ。女です。」 「女…だと…。」 「いくら身元の手がかりが無いといえ、遺体が男性であることは一目瞭然。借主とガイシャは同一人物ではありません。」 「でも契約書に添付してある身分証明書を見ればコンドウサトミがどんな人間かすぐにわかるでしょう。」 「それが…。」 「それが?。」 「どうやら偽造された免許証の写しのようなんです。」 「なんだって?」 「コンドウサトミの免許番号と警察保管のデータが一致しないんです。」 「…。」 「また家賃の引き落とし口座を調べようと思ったんですが、この物件の家賃は契約時に一年分を現金で一括払いをしているため、コンドウサトミの銀行口座を抑えることができませんでした。」 「公共料金は。」 捜査員は首を横にふる。 「それもすべて現金払いです。」 「付近の住民の目撃情報は。」 「皆無です。そもそもこの部屋に人が住んでいたことすら知られていませんでした。」 関は腕を組んだ。気のせいか彼の顔に笑みが見えた。 「一色さん。用意周到ですね。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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52,12月21日 月曜日 10時35分 喫茶ドミノ
52.mp3 「コンドウサトミって誰ねんて…。」 赤松剛志は誰に言うわけでもなく、コーヒーをすすりながら呟いた。 「自分の頭のなかだけで考えとっても整理できん…。」 そう言うと彼は胸元からヘミングウェイやピカソがかつて愛用していたメモ帳のようなものを取り出して、ペンを走らせ始めた。 ー6年前の事件のことをここに書き出してみよう。 赤松は父親の忠志を中心にしてそこから放射状に人物を書き出し始めた。先ずは6年前の事件の相関関係。マルホン建設とベアーズデベロップメント、そして本多善幸。その構造を知ったのが父。その情報を共有していたのが母の文子。誰が父に直接手を下したかはわからない。警察では事故で処理された父の死だったが、一色は事故ではないと言っていた。キーワードはコンドウサトミという架空の人物。500万の現金は回収されたはずなのに、なぜか再びウチへ戻ってきた。 この辺りまで書きだした赤松は筆を止めた。 ーここだよ…やっぱりここが気になる…。誰が500万をウチに持ってきたんや。 ため息をついて赤松は天を仰いだ。 「誰ですか。コンドウサトミさんって。」 野太い声が赤松の世界に割り込んできた。 「誰や。」 体勢を元通りにした赤松の目の前に、髪を短く刈り込んだ強面の男が立っていた。 「失礼しました。私こういうものです。」 「警察本部捜査2課…。」 「古田と申します。赤松剛志さんですね。」 突然自分の世界に割り込んできたかと思えば、この古田という男は自分の名前さえ知っている。名刺を見る限り目の前の男はどうやら警察官。警察という人種はこうも無粋なものなのか。憤りを感じながらも赤松は「はい」と返事をし、テーブルの上のメモ帳を閉じた。 古田は店内を見回した。客らしき人間は自分と赤松だけ。店の調度品の類はみな年期が入ったものばかり。木製のソファーにはあずき色のスエード地でクッションが誂えてある。純喫茶の雰囲気をもつ喫茶ドミノは、先ほどまで古田が滞在していた喫茶BONと対照的な作り、客の入りであった。 「やはり月曜のこの時間ですと、喫茶店を利用するの客層っていうのは限定的ですな。」 赤松と向かい合う席を指でさして、彼が着席を許可するのを確認して古田はそこに座った。 「今日はお休みですか。」 「ええ。ウチは月曜定休と昔から決めてあるんです。」 「そしたら暫くお時間を頂戴してもよろしいでしょうか。」 古田は出された暖かいおしぼりでもって自分の顔を拭いた。 「ひょっとして事情聴取ってやつですか。」 赤松は腕時計を見て小一時間ぐらいならば話に付き合えると返答した。古田は赤松の申し出に謝意を表し、コーヒーを一杯オーダーした。 「実はですね、さっき佐竹さんと合っとったんです。」 「え?佐竹…ですか。」 赤松の動きが止まったのを古田は見逃さなかった。 「赤松さん。まぁそう緊張されずに構えてくださいよ。そうそう先ほど書かれてたメモ帳ですが、良かったらもう一度見せていただけますか。」 ー馬鹿な。これはあくまでも自分の家の事情を整理するために書き記してるだけのもの。プライベートを覗きこまれるなんてゴメンだ。 「コンドウサトミさんもそうですが、あなた、その相関図みたいなものに一色の名前を書かれていましたね。それを知っちゃあ事情を聞かざるを得ない。」 古田はどうやら赤松が書いていたメモの一部始終を別の席に陣取って観察していたようだった。どのタイミングでこのドミノへやってきて、どういう術で赤松のメモを覗き見したかは知らないが、古田がメモの中身を把握しているのは間違いないようだった。 「その相関図は一体何を示しているんですか。」 赤松は思った。そもそも警察が父の訴えに聞く耳を持たなかったことが事の発端だ。警察が父の訴えをしっかりと聴いて、何かしらの行動を起こしていれば父の命は奪われなかったかもしれない。 「いまさらかよ。」 「なんやって。」 「そもそもあんたらのせいねんて。俺の家がめちゃくちゃになったんは。」 「赤松さん。申し訳ないが私はあなたが何に対してお怒りなのかわからないのです。お聞かせくださいませんか。」 「こっちは警察に裏切られっぱなしなんや。あんたらに話すことはない。」 赤松の言葉を受け止めた古田は少しの間をおいて口を開いた。 「赤松さん。我々警察は全体の奉仕者です。あなたのような一市民にそのような感情を抱かせてしまっていることに対しては、率直にお詫び申し上げねばならない。しかし…。」 「どうして私は貴方の正面に座ることを許されたんでしょうか。」 「…。」 「座ることはおろか、小一時間の聴取にも同意を頂いたというのに、手のひらを返したように突然、話すことはないとおっしゃる。おかしいですな。」 古田の問いかけに赤松は沈黙を保っていた。 「あなたが今回の熨子山連続殺人事件をうけて、精神状態が穏やかでないというのはわかる。しかしどうやらあなたの精神的不安定をもたらしている要因は、そのメモに在る何かによるもののようですな。」 赤松は手元の閉じられたメモ帳に目を落とした。 「私はあなたから事件に関する話を聞きたい。そのためにはあなたの精神を侵すその何かについても受け止める必要がある。」 「どうですか、赤松さん。私に話してくれませんか。」 顔を上げて古田の目を見た赤松は彼の眼光の鋭さに圧倒されそうになった。彼の視線は赤松の目を通り越してその奥に潜む心の中までも覗きこみ、心理の変容さえも捕捉するかのようだった。 「…わかりました。」 古田は頷いた。 「6年前にさかのぼります。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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オーディオドラマ「五の線」
51,12月21日 月曜日 10時18分 本多善幸事務所前
51.mp3 駐車場に停めてあった自分の車に乗り込んで片倉は胸元からタバコを取り出しそれに火を着けた。 助手席側には先程まで一緒にいた岡田が座っている。 松永率いる捜査本部とは別に自分と古田が独自の捜査を行なっていることは極秘だ。 このことが露見すると松永の叱責が自分に飛んでくることはおろか、命令を出した朝倉の責任も追求されよう。 一緒に行動している古田も同様だ。片倉は村上から聴取した内容を頭の中で整理しながらタバコをふかした。 「お前、どう思う。」 「どうって言われても、正直課長が何を聞き出したかったのかわかりませんでした。」 「そうか。」 片倉は岡田にタバコを差し出した。 「吸えや。」 「いただきます。」 「お前、目の付け所がいいな。」 岡田はタバコの煙を吐き出して無言を保った。 「あいつ、何か臭う。」 「何がですか。」 「結果的に検問に一回しか引っかってないから、氷見から石川に入ったのは間違いねぇ。しかし。」 「しかし?」 「羽咋から民政党金沢支部までの時間が随分かかっとる。」 「それは私も感じました。…ただよくいるじゃないですか。広い駐車場みたいなところで車止めて死んだように寝とる営業マンとか。あいつも息抜きしたかったんじゃないですかね。」 思いっきり吸い込んだ煙を吐き出して、片倉は吸殻を捻り潰して灰皿にしまった。 「普通の状態ならわかれんて。あいつが。」 「高校の同期が容疑者だって話ですか。」 「ああ。」 「確かに…。頻繁に会っとったんに、気がついたら疎遠ってことはよくある話です。私もそういう関係の友人はいっぱいいます。結局そんな関係性しかない人間ってのは所詮他人。ほんなもんですよ。ですが村上は何か感情が高ぶる要素があった。だから熨子山へ足を伸ばした。」 「仮に羽咋から金沢までの時間の事は目をつむったとしても、交友関係はどうや。疎遠な人間の事に動揺して事件現場付近に向かうか?」 「事件の前もその後も高校時代の連中とは連絡はとっていないって言ってましたね。」 「そこがわからんげんわ…。」 片倉は再びタバコを咥えて窓から見える北陸特有のどんよりと曇った空を眺めた。大空を覆い尽くすその様子は展開の鈍い今回の事件を象徴しているようにも感じられた。 「まぁいいわ。んで、お前ら捜査は進んでるか。」 岡田は首を横に振った。 「課長。極秘なんですよ。」 「何がだよ。」 「私がここにいること自体が。」 片倉は岡田の困惑した表情を見て何かを悟ったのか、ため息をついて再び窓から外を見た。 「岡田ぁ。実は俺も今回は極秘なんだよ。」 事務所を囲うように植えられた雪吊りを施された植木たちが、おりからの強風に煽られてざわざわと音を立てた。 「ほやからここでおたくら帳場のサツカンとバッティングしてしまったことは不味いんや。」 「こっちだって片倉課長と会ってしまったことが不味いんです。」 「ほんなら一緒やな。」 片倉が笑みを浮かべてそう言うと、岡田の硬い表情が緩んだ。 「よし岡田。ここは取引せんか。」 「なんでしょう。」 「俺は本多事務所には来なかった。だからお前とも合っていないことにする。」 「それはありがたい提案です。」 岡田は思案した。松永からは極秘であると厳命されている。自分は村上隆二について調べたいとだけ松永に進言した。その方法については特段指示を受けていない。岡田にとって大事なのは自分が知りたい情報を得ることと極秘であることだけだ。片倉は極秘を誓っている。以前一緒に仕事をしてその性格などをある程度心得ている上司の片倉がそういうのだから、秘密は保持されよう。また、片倉が何を極秘に調べようとしているのかも知りたい。 「わかりました。」 「OK。ただ。」 「ただ?」 「一色と剣道部っていう関係性だけは胸に秘めておいてくれ。」 「どうしてですか。」 「お前らの最重要課題は被疑者の確保。俺はお前らとは別の角度から攻めている。捜査のベクトルが帳場とバッティングしてくるとこちらの存在意義ななくなってしまうんやわ。」 片倉には片倉の事情があるのだろう。こちらとしては村上の20日の行動履歴を抑えることができたので、当初の目的は達成だ。上司である片倉の依頼だ。無下に断ることもない。 「了解です。」 「特に鍋島惇の名前は伏せていてくれ。」 「…課長がどういった捜査をしているのか興味が有るところですが、捜査の妨げになるのでしたら口外しませんよ。」 「ははは。話がわかる部下を持てて俺は嬉しいぜ。」 価値観を共有できる存在を目の前にしてホッとしたのか、岡田は安堵の表情を浮かべた。 「なんだろうな。あいつ、何か臭うんだよ。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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オーディオドラマ「五の線」
50,12月21日 月曜日 9時30分 本多善幸事務所
50.mp3 「少しだけお話をしたいんですよ。」 本多事務所の受付の女性に名刺を渡して、片倉はその中の様子を伺った。 名刺を受け取った女性はそれに目を落とした。そして怪訝な顔つきでその名刺と片倉の顔を何度か見合わせた。 「どうしました。」 「警察の方なら今村上が対応しています。」 「は?私じゃなくて?」 「ええ。」 ーしまった。帳場の捜査とかち合った。…こうなったら一か八かだ。 「それは失礼。」 そう言うと片倉は女性の手にあった名刺を奪った。 「私はその人間の監督をする立場の者です。事務所の前で待ち合わせて一緒にお話を伺う予定だったんですが、彼は先に村上さんにお会いしてたんですね。大変ご迷惑をおかけいたしました。」 受付の女性は手のひらを返したように態度を変える片倉の対応に苦慮している様子だった。 「で、彼はどちらにいますかね。」 片倉は女性に付き添われて事務所二階の一室の前に案内された。女性がその部屋のドアをノックする。 「今来客中だから。」 憮然とした表情でドアを開けた男に片倉は一礼した。 「だれ。」 「申し訳ございません。私も同席する予定だったのですが遅れてしまいました。」 片倉は名刺を村上に渡した。 「捜査一課課長…。」 「村上隆二さんですね。」 「はい。」 「うちの若いのが先にお話を伺っていると思いますが、私も同席させていただいてよろしいでしょうか。」 村上は片倉の表情と名刺を見比べてどうぞと部屋へ招き入れた。 部屋の応接ソファに腰をかけていた捜査員と思われる男はギョッとした顔つきで片倉を見た。 「すまんすまん。遅れてしまって。」 不意を打つ人物の登場で彼の体は固まってしまっていた。 「岡田じゃねぇか。ちょっくら力貸してくれ。」 片倉は岡田の横に座って彼にしか聞こえないような小声で耳打ちした。 「で、どこまで話をお聞きしたんだ。」 「あの…。」 岡田が手にしている手帳の中身を覗くと、今まで何を聴きとったかの大体を把握できた。どうやら彼が事情聴取を開始してそんなに時間が経っていないようだ。 「続けて。」 ーなんで片倉課長がここで出てくるんだ。 岡田は金沢北署捜査一課所属の警部補である。片倉とは以前別の署の捜査課で仕事をしていた。よって二人は顔見知りである。今回の事件ではこの岡田と熨子駐在所の鈴木が真っ先に現場に踏み込んだ。現場検証に立ち会った際には岡田が当時の状況の説明を片倉に行なっていた。 「岡田警部補。続けなさい。」 困惑した表情を表に出していた岡田は片倉の命令によって我に返った。 「事件当日の村上さんの行動履歴についてはわかりました。確かにあなたは熨子山を通って高岡方面へ向かっています。当時の資料をみると村上さんの名前が確認できます。」 片倉は岡田の言葉にいちいち相槌を打ちながら、村上の表情に変化がないかつぶさに観察する。 「聞くところ、あなたは党の会合があるとかで高岡に向かったそうですね。」 「ええ。」 「おかしいですね。民政党高岡支部に聞きました。そんな会合は無いって話でしたよ。」 「そうでしょうね。」 当時の村上の言動と実際が異なっている。この辺りから彼の不審点を炙り出そうとしていた岡田は、あっさりとその不一致を認めた彼の言葉に肩を空かされてしまった。 「だっていろいろと詮索されたら時間も取られるし、面倒臭いでしょう。」 「時間が取られるのがあなたにとって煩わしかった訳ですか。」 「まぁそんなところですか。」 「ではあなたは富山方面になぜ向かったのですか。しかもわざわざ事件現場である熨子山を通ってです。」 「容疑者が高校時代の同級生である一色貴紀であったから。」 横から片倉が口を挟んだ。 この言葉を聞いた村上の表情は誰が見ても明らかなように変化を示した。 「そうですよね。村上さん。」 不意を打つ片倉の問いかけ。そして自分には知り得なかった容疑者とこの目の前に座っている男との関係性が、岡田の心の中を掻き乱した。 「まぁそうです。」 「続けて。」 片倉に促されて岡田は自分が聞きたかった事を聞くことにした。 「結論から申し上げます。あなたが富山から石川に再び入った形跡がないんです。」 「と言うと。」 「県警ではこの事件発生から県境全てに検問体制を整えています。ですから、あなたが富山、正確にいうと高岡ですが、我々の検問にかからずに再び金沢に入ってくることはできないのです。」 傍の片倉はなるほどと興味深そうに岡田の発言に何度か相槌を打った。 「どうやってあなたは金沢まで戻ってきたんですか。」 ーこいつは面倒臭いことになってきたな。 「はて、刑事さん。あなたは県境全てに検問体制を整えたとおっしゃいましたが、少なくとも私が金沢に戻るまでの道のりに、そのようなものは存在していませんでしたよ。」 岡田はそんなはずはないと一枚のA4コピー用紙を村上の前に差し出した。 「差し支えのない程度で結構です。村上さん。あなたが高岡から金沢に戻るまでの行動記録をここに書いてください。」 「まるで私が疑われているみたいですね。容疑者はまだ逃走中だってのに。」 村上の表情は憮然としたものだった。村上の感情は至極全うなものだ。今の状況下での警察の最優先事項は容疑者一色の確保。なのに自分がちょっと検問に引っかかっていたため詳しく話を聞きたいと言われ、好意で岡田との面会時間を設けたのに、挙げ句の果てには何かの疑いをかけられているように受け止められる。しかもだからどうだということではなく、とにかく当時の行動を詳らかにせよとだけ。一方の課長といわれる片倉という男も自分と一色は高校時代の同級生ですねと言ったきりだ。 「どの時点から書き出せばよいのですか。」 「できれば12月20日全て。」 「どうやって書けば良いのですか。」 「大体の時刻を書いて、その横にあなたが何をしていたのかって程度で結構です。」 「ふぅ…。」 村上はため息を付いて渋々自分の当時の行動履歴を目の前のコピー用紙に箇条書きに書きだした。 「20日は私は朝からここにいました。」 そういうと村上は8時~10時半頃という時刻を記入し、その横に本多事務所と書いた。 「その間、あなたは何をされていたのですか。」 「本多が国土建設大臣に就任したでしょう。そのため支持者のみなさんがお祝いを持ってきたり、挨拶をしにきたりと朝からてんやわんやだったんですよ。」 「なるほど。」 「支持者が朝から事務所に来てその対応がひと段落した時です。今回の事件が起こったことを知ったのは。」 「何で知りましたか。」 「テレビです。朝のワイドショーみたいなのがあるでしょう。たまたまそれを見ていたらやっていました。」 「容疑者が一色だと知った時、あなたはどのように感じましたか。」 ここで片倉が岡田と村上のやり取りに割り込んできた。当時の感情を即座に思い出して言ってみろと言われても、即座に言えるほど鮮明な記憶は持ち合わせていない。村上は当時の自分のことを思い出すためにしばしの時間を要した。 「テレビに容疑者の顔が映し出されたぐらいでは、あの一色かどうかわかりませんでした。ですが名前が呼ばれた時に高校時代の同級生である一色貴紀だとわかりました。」 「どうして。」 「当時の面影が残っていたんです。あと特徴的なほくろもちゃんとありました。」 「あなたは一色が県警に勤務していたことは知っていましたか。」 「知りませんでした。ですからはじめのうちは本当に同一人物か確証を得ることができませんでした。」 片倉はここで疑問を感じた。議員の秘書たるもの、地元自治体の要職にある公務員の情報ぐらい得ていても良いだろう。村上が一色の存在を把握していなかったとは考えにくい。 「本多自身が警察との関わりを持たない主義ですので、我々スタッフの側も警察の情報は持ち合わせないからですよ。せいぜいで付き合いがあるのは本部長さんぐらいです。まぁ他の議員さんのことは承知はしていませんがね。」 片倉が持っていた疑念に気づいたのかは分からないが、村上は彼の疑問点に端的に答えた。そのため片倉は話を続ける。 「では容疑者が高校時代の一色貴紀と同一人物であるとあなたが確証を得たのは何がきっかけなんですか。」 ここで村上は黙り込んだ。 「どうしました。村上さん。」 ーここで佐竹とのやり取りを持ち出すとあいつに迷惑がかかってしまう。 「なんて言うんでしょうかね。閃きとでも言うんでしょうか。感覚的にあの一色だとわかったんですよ。」 片倉は納得するように頷いた。何事も言葉で説明できるほど人間は合理的な生き物ではない。行動のきっかけの大半が直感や感情といった非合理性なものに由来する場合が多い。そのためあらゆることを論理的に説明されるとかえって疑いを持ってしまう。村上の受け答えは片倉にとってごく自然に感じられた。 「一色とは高校卒業以来連絡も何もとっていません。やっぱり落ち着きませんでしたよ。ですから野次馬根性が鎌首をもたげたとでも言うのでしょうか、何故か事件現場の方に足が向いていました。」 「剣道部の部長でしたからね。他人ごととは思えんでしょう。」 「ええ。」 片倉の言葉に頷いて村上は筆を進めることにした。 「12時ぐらいでしたか。熨子山の検問に出くわしたのは。」 岡田はコピー用紙に目を落とす村上の表情の変化を見落とさないように黙って観察した。 「そこで氷見の方へ足を伸ばしました。時刻は正確には覚えていませんが確か14時ごろだったと思います。」 「氷見?。どうして。」 「何か海を見たくなったんですよ。ああ、具体的な場所も書かないといけませんかね。」 「できれば。」 「氷見漁港近くのコンビニです。あそこは眺めがいいんですよ。あそこの景色を見るとなんだか落ち着くんです。穏やかな内浦が心を和ませてくれるんです。30分ほど車を止めてただひたすらに海を眺めていました。その後は宝達山を超えて羽咋を経由して夕方の本多のパーティーに加わりました。」 「内浦の穏やかな海の様子を眺めて日常に戻る。村上さんはロマンチックな方なんですね。」 片倉の言葉に村上は苦笑いした。 「なるほど。それなら村上さんが再び検問に合うことなく石川県に入って、17時からの本多議員のパーティーに同席しているのが理解出来ますね。」 岡田は少し落胆した表情だった。 「岡田さんっておっしゃいましたっけ。」 「はい。」 「いったいどういうことなんですか?あなた言いましたよね。私が検問に引っかかることなく、再び石川県に入ることができないってのは。」 岡田は片倉の様子をうかがった。 「いいよ。話してあげなさい。別に捜査になんら影響もないだろう。」 片倉の承認を得て岡田は村上に事件発生当時から金沢から県外に出る県境主要道に検問の体制が敷かれており、17時には県境全ての道という道に検問体制が敷かれている旨を村上に説明した。 村上は高岡支部へ行くと熨子山の検問に言った。あくまでも仕事の一環。普通の人間ならばよっぽどの油を売らない限りは、疲労を貯めこまないためにもそのまま仕事を済ませて金沢へ戻る。一般的に熨子山を通って金沢から富山方面に向かった場合は、往路と同じ県道熨子山線を使用するか、それに次いで最短ルートである国道を利用して再び金沢へ戻る。場合によっては高速道路を利用するというのもあるだろう。これらの道には当時から検問がなされている。しかしそれらの検問報告には村上の名前はない。そのため村上が17時の本多善幸の会合にいたことが解せなかった。 「なるほど、そういうことだったんですね。」 「ですが、今のあなたの当時の行動を伺って理解出来ました。あなたが羽咋へ抜けたと思われる時間帯には宝達山の検問体制は整っていません。」 「ではこれでよろしいですか。」 「いいえ。まだです。」 片倉が言った。 「いままでの行動履歴はよくわかりました。ですがどうも腑に落ちない。」 「何が。」 「あなた、高校時代の同級生が今回の容疑者やって何らかの確信を得たんでしょう。そして言葉で説明はできんが感情が高ぶって熨子山まで足を運んだ。そこでUターンをする訳もいかずにそのまま富山方面に向かったが、気持ちの整理ができない。なので氷見漁港から富山湾を望んで気持ちの整理をつけた。しかしなぜそこから遠回りとなる羽咋を経由して金沢へ戻ったのですか。あなたは一応仕事中だ。夕方には大事な会合が控えている。」 「私だって日々の仕事の中で気分転換が必要なんです。ですから車を走らせて心のゆとりを取り戻したい時もありますよ。」 「今はどうですか。」 「はい?」 「今はある程度の心の整理ができていますか。」 「まぁ一日経ちましたからね。」 「あなたが一色貴紀と高校の同級であるということ、こちらにお勤めの方は御存知ですか。」 「いいえ。」 「ならばあなたの中だけで一色との関係性を処理しているんですね。」 「まぁそうです。」 「お辛いでしょう。」 「何ですか。何が言いたいんですか。」 「あくまでも私の個人的な経験則で話しますが、あなたのようにできた人間はそうもいないということです。」 ーなんだこいつ。 「溜め込んだ感情。それが正のものでも負のものでもすべて飲み込んで自分一人で消化できる人間はいません。必ずどこかでその感情は発露されねばならない。発露の仕方は人それぞれ。物にあたる人間もいるし、八つ当たりという形で表面に現れる人間もいる。しかし、大抵の人間は自分が抱いている感情を誰かと共有することで、そのストレスを解消する。」 片倉は村上の目を直視して言葉を続ける。 「本件の被疑者とあなたの共通項は高校時代の剣道部の同期である点です。村上さん。剣道部の誰かと事件後に連絡を取りませんでしたか。」 村上は黙ったままだ。 「氷見から羽咋。正直どうも取ってつけたような理由なんですよ。海を眺めて気持ちの整理をつけるなんてね。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 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オーディオドラマ「五の線」
49,3年前 8月3日 水曜日 15時13分 フラワーショップアサフス
49.mp3 文子は固唾を呑んだ。 「忠志さんは知ってしまったんです。指定暴力団の仁熊会が公共事業に関する用地取得に深く関わっていることを。それもこの開発目覚しい田上地区に関する用地取得。そしてこれから本格着工される北陸新幹線沿線の用地取得についてです。用地取得にありがちな不正は、地権者が取得者に対して賄賂を送って、その査定に便宜を図るよう依頼するというものです。これだけなら話は簡単です。」 彼女はだまって眼鏡の奥に光る一色の目を見ている。 「忠志さんが知ったのは用地取得に関する複雑な構造だったのです。」 すると一色は自分にお茶うけとして出された3つの最中を文子の前に横一列に並べた。 「左から順番にマルホン建設。仁熊会。そして国としましょう。」 「国の用地取得での当事者における関心事は2つ。ひとつはその承知取得そのものの実施、そしてもうひとつがどの土地が取得対象になるのかということです。そこでまずこのマルホン建設工業が登場します。」 一色は左側の最中を手にとった。 「マルホン建設工業。石川県の地元有力土建会社です。先代社長は現在の衆議院議員、本多善幸です。彼は土木建設業界出身ということもありその分野に関しては深い見識を持っています。またマルホン建設自体が公共事業を生業としていることから、省庁にも顔が利きます。本多は国土建設省の族議員として政界で活躍をします。政務次官や党の部会長などを経てその影響力を高め、国土建設省の政策決定に深く関与して来ました。」 一色は最中を畳の上に置いて話を続ける。 「今から25年前のことです。マルホン建設はここ田上地区周辺の土地を買い漁っています。バブル華やかなりし時代です。誰もが投資をすれば儲かるなんて言 われたばかみたいな時代です。マルホン建設も周囲と同じように不動産投資を積極的に進めます。しかしそれは見事に崩壊。マルホン建設は多額の含み損を抱えることになった。」 ぬるくなってしまった茶をすすり、彼は真ん中の最中を手に取った。 「続いてベアーズデベロップメントという会社が登場します。不動産投資業を営む会社ですが、その正体は仁熊会のフロント企業です。ベアーズは多額の含み損を出したマルホン建設の土地をすべて購入しました。バブル崩壊から1年も経たないころのことです。土地の価格は下落傾向。これからどれだけその下落が進行するかわからない。不動産投資に誰も見向きもしない時期にベアーズはそれをすべて買い取ったのです。その後本多善幸が国会に進出、やがて田上地区の開発計画の噂が流れだします。この噂を受けて田上地区の地価は下落から横ばいに推移しました。そして噂が実際の計画として発表された頃から、地価は上昇に転じました。計画の実施にあたってこのこの辺りの用地取得が必要となります。結果的にベアーズがマルホン建設から買い取った土地の殆どが国の用地取得の対象となり、国に買い取られることになりました。」 彼は右側の最中を手にした。 「お母さん。お分かりでしょう。マルホン建設は評価損の土地をさっさと売却したかった。それに応じたのがベアーズデベロップメント。時代が時代です。バブル崩壊のあおりを受けて、今後どれだけの不利益を被るかわからない不動産投資の契約なんぞ誰も自ら進んで結びません。しかし仁熊会のフロント企業がそれを引き受けた。不自然ですね。おそらくマルホン建設の社長であった本多善幸が公共事業に何らかの影響力をもつ存在になることで、将来的にベアーズに利益をもたらす密約でもあったのでしょう。事実、ベアーズはマルホン建設から購入した金額よりも3割高値で国に売却しています。ベアーズは多額の利益をこの取引で得ることとなった。」 一色は右側の最中を2つに割って、その一方を口に入れた。 「ぎっしりと詰まったこの最中の餡は実は全て税金だった。国民の血税が特定の連中に食い物にされている。それを忠志さんはどこかで知った。」 「…はい。その通りです…。」 「忠志さんは現在進行中の北陸新幹線建設にかかる用地取得でも、田上地区の用地取得に関するマルホン建設、ベアーズ、国の三者構造が潜んでいることを忠志さんは知った。田上地区は終わった話。しかし新幹線に関することは現在進行形の話。」 「そうです。」 「忠志さんは正義感が強い人です。それはむかしこの家に出入りしていた私が身を持って知っている事実です。忠志さんは警察に行きます。忠志さんが金沢北署に来ていたことは当時の資料からすぐに分かりました。これが6年前の事故の2ヶ月前のことです。」 ここで一色は言葉に詰まる。 「しかし警察は動かなかった。」 「そうです。主人は警察に行きました。何度も。ですが証拠も何もないのに動くことはできないと言われたそうです。」 「知ってしまった事実と現実社会の間で忠志さんは苦悩します。忠志さんはあなたにも相談します。自分は一体どうすればよいのか。このまま黙って見過ごすことは容易いが、人としての良心が放っておかない。そんな中、この用地取得の関係者と忠志さんは接触します。おそらく向こう側から接触してきたのでしょう。この手の話の場合、口止めが接触の主な動機です。忠志さんは先方の申し出を断ります。」 「当時、私達の店は決して楽な経営状態ではありませんでした。500万円という口止め料を提示されたと主人から聞かされたときは心が揺らぎました。しかしあの人はその場で断ったそうです。その原資も税金からくるものなのかもしれない。それを考えると尚更、先方のやり口に腹が立つと怒っていました。一度こうだと思ったら頑としてブレないのは主人の性格ですからね。でも現実問題としてまとまった資金は店を経営していく上で必要でした。」 一色の物語を自然と補足するように語りかける文子に彼は頷いた。 「あなたはご主人に無断で先方と連絡をとって入金口座を教えた。ある日口止め料が入金されます。コンドウサトミという人物からです。あなたはコンドウサトミさんを御存知ですか。」 文子は首を横にふる。 「そうでしょうね。このコンドウサトミという人物はこの世に実在しません。銀行にある本人確認書を照合した結果、偽造されたものだとわかりました。架空の人物を創りだすことにその筋の人間は長けています。おそらくこれにも裏社会のパイプを持つ仁熊会が絡んでいるんでしょう。」 「いつものように銀行にいって通帳を記帳するとその人から500万が入金されいていました。その数字が記帳された通帳を見て、私は主人を裏切ってしまった後ろめたさよりも正直ホッとしたんです。」 一色は彼女の様子を黙ってみる。 「綺麗事ばかりでは生活は成り立ちません。この店は火の車でした。このままじゃ京都で生活している剛志たちにも迷惑をかける事になる。だから私はそうしたんです。ですが主人は違いました。あの人は曲がったことが大嫌いです。今回の件もそうです。ですから私が口止め料をもらったと知ったときは恐ろしいまでに怒りました。」 「そうでしょうね。」 「私は間違っていました。今回の件はあくまでも主人とマルホンとベアーズとの間での話です。私はそのことについて主人に相談されただけ。そこに降って湧いたように500万が入ってくるかもしれないと話があって、それに縋った。目先のお金に目が眩んだんです。」 「お気持ちはよくわかります。あまり自分を責めないで下さい。」 「主人は絶対に受け取れないお金だと私を諌めました。そして翌日銀行でそのお金を全額引き出しました。」 一色は通帳の写しを眺めて払い出しの欄に500万の数字が記入されているのを確認した。 「その夜のことです。主人が事故で死んでしまったのは。」 文子はその場で泣き崩れた。 「私が悪いんです。私が目先のお金に目が眩んだからです。」 文子に掛ける言葉がなかったが、このまま彼女の様子を見ている訳にはいかない。うかうかしていると赤松も店に帰ってくる。 「お母さん。自分を責めても何の解決にもなりませんよ。」 そう言うと一色はハンカチを取り出して文子に差し出した。 「涙を拭いてください。」 一色は通帳の写しに目を落として話しを続けた。 「500万は確かに事故当日に引き出されています。忠志さんはこのお金を持って関係者と接触を図る。それがひょっとしたら夜の熨子山だったのかもしれない。そこで事故を装って関係者に殺害された。そして500万も関係者に回収された。」 文子は涙を拭っていた手を止めた。 「…違います。500万円はここにあります。」 「…え。」 おもむろに立ち上がった文子は、押入れの奥から現金が入った封筒を持ってきて一色に見せた。 「…どうして。」 「葬儀も一段落して、剛志がこっちに帰ってくるかこないかの話をしていた頃です。店番をしていたアルバイトが私に渡して欲しいってお客から預かったそうです。お菓子の箱だったんですが、中を開けるとこれが入っていました。」 封筒には文字が書かれていた。彼は声に出してそれを読んだ。 「コンドウサトミ。」 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 【公式サイト】 http://yamitofuna.org 【Twitter】 https://twitter.com/Z5HaSrnQU74LOVM ご意見・ご感想・ご質問等は公式サイトもしくはTwitterからお気軽にお寄せください。 皆さんのご意見が本当に励みになります。よろしくおねがいします。 すべてのご意見に目を通させていただきます。 場合によってはお便り回を設けてそれにお答えさせていただきます。
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5 years ago
16 minutes

オーディオドラマ「五の線」
ある殺人事件が身近なところで起こったことを、佐竹はテレビのニュースで知る。 容疑者は高校時代の友人だった。事件は解決の糸口を見出さない状況が続き、ついには佐竹自身も巻き込まれる。石川を舞台にした実験的オーディオドラマです。 ※この作品はフィクションで、実際の人物・団体・事件には一切関係ありません。 ※不定期ですが地味に更新してまいります。こちらはポッドキャスト専用ブログですので、テキストデータはウェブサイトにあります。http://yamitofuna.org