
2025年10月29日、ブルームバーグは「オラクルのデフォルト・スワップ(CDS)が2023年10月以来の高水準近辺まで上昇している」と報じました。背景には、同社がAI関連で巨額の投資を続ける中、短期的な信用悪化への警戒が強まっていることがあります。モルガン・スタンレーは実質純債務が現在の約1000億ドルから2028会計年度に約2900億ドルへ拡大すると試算し、5年物CDSと5年債の購入を投資家に推奨しました。
資金調達の現場では、銀行団がテキサス州とウィスコンシン州で建設するデータセンター向けに総額380億ドル規模の社債発行を準備していると伝えられます。AIインフラ関連としては過去最大級のディールで、オラクルは前月にも180億ドルを起債済み。こうした大型調達が積み重なるなかで、信用コストの上振れをヘッジする動きが一段と強まっている、というのが債券市場の見立てです。
この巨額投資の受け皿が、OpenAIが主導するAIインフラ計画「スターゲート」です。同計画は総額5000億ドル、最大10GWの能力確保を目標に段階的に拡張中で、9月には米国内で新たに5拠点を追加する計画が示され、10月には「中西部サイトはウィスコンシン州」とのアップデートが公表されました。
ウィスコンシンではVantage Data CentersがOpenAIとオラクルの両社と組み、新キャンパス「Lighthouse」を開発します。公式発表と業界紙の報道によれば、完成は2028年を予定。テキサスの旗艦拠点と並び、AI計算需要に応える中核インフラとして整備が進みます。
邦銀の関与も目立ちます。JPモルガンやMUFGなどがオラクル関連データセンターの大型融資・与信に参画しており、資金面での後押しが続いています。AI投資がグローバルに資本市場を巻き込むなか、日本勢がメガディールの主幹に入る構図は、為替や金利環境の変化を踏まえた新たな収益機会を示唆します。
とはいえ、投資家の視線は「成長と信用」の微妙な均衡にあります。AIクラウドの前向きな需要見通しがある一方、オラクルのように外部調達を積極化する企業では、調達ペースとキャッシュ創出のタイミングにギャップが生まれやすい。CDSの上昇は、その“つなぎ”を市場がどう評価しているかの実時間シグナルです。スターゲートの案件前進(たとえばウィスコンシンでの具体計画や起工)と、借入条件の消化・リファイの進捗が確認できれば、信用スプレッドが落ち着く余地もあります。逆に、市況悪化や案件遅延が重なる局面では、ヘッジ需要が続く可能性も織り込むべきでしょう。
総じて今回のニュースは、AIインフラの「規模の経済」へ突き進むテック業界と、リスクを精緻に価格付けする信用市場の緊張関係を映しています。企業側は、案件のマイルストーン開示やエネルギー・設備調達の確度を高め、プロジェクト・ファイナンスを含む多層的な資金手当てで“金利×工期”のリスクを圧縮できるかが勝負どころ。投資家側は、拠点ごとのキャッシュフロー見通しと、借換え圧力の山を冷静に見極める局面に入っています。