
2025年10月30日、Perplexityは「Perplexity Patents」を発表しました。発表によれば、これは“世界初のAI特許リサーチエージェント”をうたい、自然言語で「2024年以降の量子計算の主要特許は?」と尋ねるだけで、関連する公報コレクションを提示し、画面内で原文を閲覧できる仕立てです。ベータ版は全世界で即日提供、期間中は無料。Pro/Maxのユーザーには追加クォータやモデル構成の選択肢が付与されます。
最大の変化は“キーワード至上主義”からの離脱です。従来の特許検索は用語や分類の知識がないと網羅性を落としがちでしたが、今回のツールは「フィットネストラッカー」と聞けば「アクティビティバンド」や「歩数計付きウォッチ」といった言い換えも拾い、先行技術の見落としを抑えます。回答は常に出典を伴い、関連トピックの追跡質問を提案。会話のコンテキストも跨いで保持します。
裏側ではエージェントが複雑な質問を情報取得タスクに分解し、Perplexityのエクサバイト級検索基盤に載せた「特許知識インデックス」で反復探索します。必要に応じて、特許文献に限らず論文や公開ソースコードといった“非典型の先行技術”にも踏み込み、技術動向の地図を描き直す狙いです。
この動きは、同社が8月に発表したAIブラウザー「Comet」による体験の垂直統合とも地続きです。検索・要約・閲覧・アクションを自社プロダクトの中で完結させる流れの中で、知財リサーチという高付加価値領域を囲い込む—そんな戦略が見えてきます。
一方、知的財産の世界では“法とデータの取り扱い”が常に注目点です。日本では9月に日本経済新聞社と朝日新聞社がPerplexityを相手取り著作権侵害で提訴するなど、ニュースの二次利用を巡る係争が続いています。特許は公開情報とはいえ、非特許文献の扱いも含めガバナンスは重要になります。プロダクトの価値と法的リスクの両立をどう設計するかが、今後の評価軸になりそうです。
総じて、Perplexity Patentsは「専門家の作法」をプロダクトに埋め込み、誰もが“質問できる速度”で先行技術へ到達する体験を提示しました。R&Dやプロダクト企画の初期段階での下調べ、ベンチマーク、FTOの前段階整理など、現場での“時間の再配分”が期待できます。まずは社内で自然言語クエリのテンプレートを作り、既存の専門ツールと突き合わせながら、どの工程を置き換えると一番効くのかを見極める—そんな小さな導入から始めるのが良さそうです。