
10月22日、Googleが社内アプリケーション群をx86だけでなくArmでも動かす“マルチアーキ”体制へ大移行中であることを正式に明かしました。公開された技術ブログとプレプリントによれば、YouTube、Gmail、BigQueryを含む主要サービスはすでにx86とAxionの両方で本番運用され、これまでに3万以上のアプリをArm対応へ移行。対象は10万本超に及び、社内クラスターはx86とArmを併用する状態へと進化しています。
なぜここまでArmなのか。その理由は“効率”に尽きます。Axion搭載インスタンスは、同等の現行x86と比べて最大65%の価格性能、最大60%のエネルギー効率をうたいます。GoogleはBorgでワークロードを両アーキテクチャに跨って配車できるようにし、サーバー利用率と電力効率の底上げを狙います。AxionはArm Neoverse V2を基盤とする設計で、Google CloudやArmの発表がこうした効率指標を裏づけています。
移行作業の“人手の壁”を越える切り札がエージェント「CogniPort」です。ビルドやテストがArmで失敗したら、その場で原因を推論し修正パッチまで自動生成する仕組み。Googleは社内の移行コミット約3.8万件をLLMで分類したうえで、245件を巻き戻して検証し、CogniPortがテスト失敗の修復に約30%成功したと報告しています。移行の大半は“低レベル命令の書き換え”ではなく、テスト・ビルド・設定の地味で反復的な修正だという実態も示されました。
業界文脈で見ると、Googleの動きはAWSのGraviton、MicrosoftのCobaltと同じ潮流にあります。Axionは2024年のCloud Nextで初公開され、x86世代機比で50%の性能向上と60%の効率向上、汎用Arm比で30%高性能という触れ込みで登場しました。同年の報道ではAxionの製造ノードをTSMCの3nmとする観測も流れましたが、これは“報道ベース”でありGoogleからの公式確証は出していません。
日本の技術系メディアでも“全面移行”の背景と影響が整理されました。価格性能と電力効率の改善はデータセンターのTCOを直撃し、Borgのアロケーション自由度が高まるほど、x86購入比率の見直しが現実味を帯びるという見立てです。The Registerも、まだ7万本規模の“ロングテール”移行が残ると指摘しており、CogniPortをはじめとする自動化の磨き込みが成否を分けると伝えています。