
前編から3年——。『遅れてきた春』の続編、『June Bride/KICHI』へようこそ。
3年の月日は、人を変えるには十分な時間です。彼女はキャリアコンサルタントとして子どもたちの未来に向き合うようになり、彼は主任教諭となりさらに教育に情熱を注いでいます。そして、二人は大切な時間を重ね、ある「決断」の時を迎えようとしています。
そんな二人の物語の舞台となるのは、再び「ねむりデザインLABO」。3年前に偶然出会った場所で、今度はどんな物語が紡がれるのでしょうか。
結婚、人生のパートナー、そして「眠り」という日常の大切な時間。それらが交錯する、少し大人なラブストーリーをお楽しみください
【登場人物】
・女性(28歳)・・・前編から3年後。変わらずVチューバーを続けながらダンスの公演を定期的におこなっている。アバターを使ったキャリア授業は小中学校で広がり、現在は週に6コマを受け持つ。でも実は子供が苦手(CV:桑木栄美里)
・男性(30歳)・・・30歳を迎え主任教諭になった。キャリア教育には特に熱心でドローンや生成AI技術などの専門家を呼んでさまざまな授業を取り入れている。彼女とは付き合いはじめて3年目を迎えプロポーズを考えている。子供が大好き(CV:日比野正裕)
<シーン1/小学校の教室>
(SE〜学校のチャイム/小学校の教室)
彼女: 「はい、今日の授業はここまでにしましょう。
みなさん、生成AIの使い方はしっかりマスターしましょうね」
(SE〜小学校の教室/子供たちの返事)
彼: 「みんな、テキストを使った生成方法はもう理解したな。
来週は全員に発表してもらうぞ」
彼女: 「次回はフリーハンドで描いたイラストを生成AIで仕上げてみましょう。
それを3Dプリンターでフィギュアにしてもいいわね」
(SE〜小学校の教室/子供たちの歓声)
◾️BGM/
彼女: 初めてこの学校へきてからちょうど3年目。
最初に教壇に上がったときは覆面のVチューバー。
臨時のキャリア講師だった。
転機は去年。キャリアコンサルタントの国家資格を取得したこと。
いまは、いろんな学校でキャリアタイムを企画・実施している。
もちろん、素顔で。
実務は、子どもたちの進路相談に乗ったり、キャリア形成の支援。
今だから言うけど私、ホントは昔から、子どもって少し苦手だった。
彼と真逆なの、ふふ。
子どもたちの前で素顔を見せなかった理由には、それもあるんだ。
でも、こんな小さな子たちが真剣に将来に向き合う姿を見ているうちに
ああ、子どもも大人もないんだなって。
それにみんな、なんでも私に相談してくれるから可愛くって・・・
あれ?
じゃあ私、なんで子どもが苦手だったんだろう。
(SE〜学校のチャイム/夕暮れのイメージ/カラスの鳴き声とか)
(SE〜LINEの着信音/会話の間にも着信音が鳴る)
彼女: ふふ。まるで定時連絡。
マメな彼から今日の予定が送られてくる。
彼: 『おつかれ!
今日はこのあと職員会議だから夕食、1時間後でどう?』
彼女: 私もルーティンで返信する。
『オッケー。私も教育委員会に顔だけだしてくるから』
彼: 『じゃあ待合せはいつものカフェで』
彼女: 『その前に行きたいとこあるんだけど』
彼: 『どこ?』
彼女: 『ねむりの悩みを相談できるとこ』
彼: 『あー了解。じゃあ待合せ場所を変えよう』
彼女: 『いいの?』
彼: 『僕も行きたいと思ってた』
彼女: 彼はいつもテンションが高いけど、
なんだか今日は私に気を遣ってる感じ。
私は返事を絵文字で返して、学校をあとにした。
<シーン2/ねむりデザインLABO>
(SE〜店内の雑踏/小走りの足音)
彼女: ああ。ハイヒールってちょっと走りにくい。
市が主催する定例のキャリア会議。
私の提案が白熱して長引いてしまった。
提案したのは「木工」。
いまの子どもたちに、木工の技術を知ってもらいたいの。
Vチューバーの私が「木工」って、なんかヘンな感じだけど
子どもの頃から木の温もりって好きだったんだ。
タブレット上でキャラクターを作って動かすだけじゃなくて
自然の木から形あるものを作るってこと教えたかったの。
家具屋さんの知り合いもいるしね(笑)
(SE〜街角の雑踏/小走りの足音)
余裕で間に合うと思ってたけど、
閉店まで1時間を切ったかな。
小走りで駆け込む店内。
向かうのは私たちの間でお約束。ベッドコーナーへ。
彼がスリープアドバイザーとなにか話してる。
顔は笑ってるけど、いつもよりまじめっぽい。
なんだなんだ?
彼: 「おつかれ。結構時間かかったね」
彼女: 「ごめんなさい。
委員会で、生成AIの授業をもっと深掘りしよう!
っていったら激論になっちゃって」
彼: 「はは、君らしいな」
彼女: 「あなたはなに話してたの?」
彼: 「もちろんベッドの話だよ」
彼女: 「どのベッド?」
彼: 「うん、どれもこれも迷っちゃうんだけど、
これからのこと考えるとポケットコイルのマットレスかな」
彼女: 「そう?どうして?」
彼: 「だって、君は硬めのマットレスがいいって言ってただろ」
彼女: 「うん。ちゃんと覚えててくれたのね」
彼: 「寝返りもうちやすくて」
彼女: 「そうそう」
彼: 「体圧分散性も重要だって」
彼女: 「うん。でもそれはあなたもでしょ」
彼: 「そうさ、だからポケットコイルのマットレスがいいなって」
彼女: 「あなたも買うの?」
彼: 「2人一緒に買うんだよ」
彼女: 「どういうこと?」
彼: 「こういうこと」
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼女: そう言って彼は胸ポケットから小さな赤い箱をとりだした。
彼: 「聞いてくれる?」
彼女: 「ちょっとちょっと。待ってよ。ここで?」
彼: 「そうだよ。だって3年前、2人の物語が始まった場所じゃないか」
彼女: 確かに。
それに、閉店前でお客さんも周りにはちょうどいない。
さっきまで彼と話していたスリープアドバイザーも
ベッドの向こうで背中を向けている。
ふふ。
別に、見届けてくれればいいのに。
彼: 「僕たち、まだ3年だけど、もう3年でもあるよね」
彼女: 「そうね」
彼: 「ここから先はずっと、2人一緒にいたいんだ」
彼女: 「うん」
彼: 「だから、このポケットコイルのベッドとともに
一生そばにいてくれる?」
彼女: 「はい。います」
彼: 「ありがとう」
彼女: 「でも・・・」
彼: 「え?」
彼女: 「一生ベッド買い替えないつもり?」
彼: 「あ、いや、そうじゃないけど・・・」
<シーン3/結婚式場>
■BGM〜ウェディングマーチ
(SE〜拍手と歓声/「おめでとう」の声)
彼女: そして私は、6月の花嫁になった。
私たちの新居には、マットレスが2台並んでいる。
1台は硬めにアレンジされた私用、
もう1台は柔らかめが好きな彼のベッド。
2台とも体圧分散性に優れたポケットコイルのマットレス。
木製のフレームが心地いい。
人生の1/3は睡眠。
睡眠の質を上げて、人生を豊かに。
■BGM〜「インテリアドリーム」
彼: 「いつまでも幸せにするよ」
彼女: 「ありがとう」
彼: 「僕の方こそ。
最高の人生にしてくれてありがとう」
彼女: 「うん・・・。
いつまでも大切にしてね。
私も、ベッドも」
彼: 「またそれを言う」
彼女: 「ずうっと言い続けたらだめ?」
彼: 「いや。ずうっと言ってほしい。
必ず約束を守り続けるから」
彼女: 「あなたのそういうところ、好きよ」
照れながら見せる白い歯。
私、3年前、そのまぶしさに魅せられたの。
いつまでも笑顔でいられるよう、
2人で人生を作っていきましょ。
実は、今日は私、Vチューバーとしての最後のステージ。
だけど、舞台に立つのは一人ではない。
モーションキャプチャー用のマーカーをつけた
ウェディングドレスとタキシード。
結婚式場の大型ディスプレイに映し出された
私たち2人のアバターが照れくさそうにキスをした。