
「家族の食卓/もうひとつの物語」は、家具職人の父と、声優を夢見る娘の心の交流を描いたものです。
「家族の食卓」は、単なる食事の場ではなく、思い出や愛情が積み重なる特別な空間。
けれど、親子の関係はいつも順風満帆とはいかず、時にはすれ違い、ぶつかることもあります。
それでも、どこかでお互いを思い合っている—そんな二人の物語をお届けします。
本作は 服部家具センター「インテリアドリーム」 の公式サイトをはじめ、SpotifyやAmazon、Appleなど各種Podcastプラットフォームでもお楽しみいただけます。
◾️登場人物のペルソナ
・娘:紅葉(くれは)/専門学校生(20歳)=真面目で一途。子供の頃から声優に憧れ、夢を追いかけて東京へ上京する。感情を表に出すことはあまり得意ではないが、家族への深い思いを胸に秘めている。実家の家具屋で育ったため、無意識に家具に対する愛着があるが、家業を継ぐという両親の期待に反発していた(CV:桑木栄美里)
・父(59歳)=インテリアショップのオーナー兼家具職人。無口で職人気質、細やかな技術と頑固さを持ち合わせるが、家族への愛情は深い。言葉では多くを語らないが、家具を通じて娘に自分の気持ちを伝えようとしている。娘が家業を継がずに上京することを不安に感じ、心配しながらも彼女の夢を応援したいという気持ちを隠している(CV:日比野正裕)
【Story〜「家族の食卓/もうひとつの物語/前編」】
<シーン1/20歳の食卓>
(SE〜食卓の環境音)
父: 「声優・・?
そんなフワフワした職業じゃなくて、まじめに将来を考えなさい」
娘: 「別にうわついてなんかいないもん!
なんにも知らないくせに」
娘: 売り言葉に買い言葉。
喧嘩なんて、したくもないのに・・
お父さんなんて、大っ嫌い。
父: 「おまえには、いずれうちの家業も継いでもらわないと」
娘: 「継がないから。
私、家具なんて興味ない」
父: 「なんだと」
娘: お父さんったら、言ってることが、まるっきり昭和。
タイムマシンに乗って1970年代に戻ったみたい。
って、生まれる前の時代なんて知らんけど。
父: 「大学を卒業したら家の手伝いを・・」
娘: 「大学卒業したら東京へ行くの」
父: 「と、東京!?」
娘: 「卒業後は1人暮らしするって、ずうっと言ってるじゃない」
父: 「東京なんて聞いてないぞ」
娘: 「東京じゃないと、ちゃんとした声優事務所なんてないもん」
父: 「母さんは知ってるのか?」
娘: 「お母さんにはもう話したから」
父: 「なに・・?」
娘: 「賛成してくれたもん。
お父さんだけだよ。
そんな古臭いこと言って反対してるのは・・
父: 「うるさい・・」
娘: 怒りの感情は6秒で収まるっていうけれど、
お父さんのテンションもだんだん下がっていく。
結局、私の希望は認められ、晴れて春から1人暮らしとなった。
<シーン2/東京〜アパート探し>
(SE〜東京の雑踏)
娘: 「お父さん、
何回も言ってるけど、お部屋くらい自分で探せるって」
父: 「ばか言うな。
なにも知らない田舎者がアパート探そうと思ったって
不動産屋にいいように騙されるだけだ」
娘: 「ちょっと、それ、不動産屋さんで言うせりふ?」
少し困ったような表情を見せたあと、
不動産屋さんは手際よく、いくつか部屋を見せてくれた。
これが、内見、ってやつ?
(SE〜鍵を開錠する音)
父: 「ここはだめだ。
リビングが南向きじゃないと、陽も当たらないし、
電気代もかかるからだめだ」
娘: このご予算では、これ以上のお部屋はちょっと・・
と言って、不動産屋さんが口籠る。
結局、4件目の内見でやっと、少しだけ明るい部屋に出会った。
とは言っても、電気が通っていないと、ほんのり暗い。
私は、薄暗い部屋の真ん中に立って、あたりを見回す。
娘: 「ねえ、お父さん。
お部屋って、な〜んにもないと、
こんなに暗くって、寒いんだ」
父: 「ああ、そうだ。
だから、どんな部屋にも、まず食卓を置くんだよ」
娘: 「こんな狭い部屋に食卓なんて置いたら、よけい狭くなっちゃう」
父: 「狭くなるんじゃない。あったかくなるんだよ」
娘: 「え・・」
父: 「別に大きな食卓を置け、って言ってるんじゃない。
2人用でも、木の香りがして、優しい食卓にすれば
ここより5度はあたたかくなるぞ」
娘: 優しい食卓?
お父さんらしい表現だな。
だけど、私にもわかる。
うちは大家族だったから大きな6人用の食卓。
そこはいつも笑顔と、美味しい香りが溢れていた。
笑い声が飛び交う、暖かい場所。
考えたら、ベランダに面した南向きのリビングより
食卓の方があたたかかった気がする。
父: 「まあ、あとはお前次第だ。
無理せずにがんばりなさい。その・・・なんだ・・」
娘: 「声優?」
父: 「ああ・・。
一生懸命やって、だめだったら戻ってくればいい」
娘: 「また、昭和の言い方して」
父: 「しょうがないだろ。昭和の人間なんだから・・」
娘: 「ねえ、お父さん」
父: 「どうした?」
娘: 「この部屋に合う食卓、選んでくれる?」
■BGM〜「インテリアドリーム」
父: 「え・・
あ・・わかった。
お前に似合う食卓を選んでやるよ」
娘: 「ありがとう」
父: 「あったかい部屋にするんだぞ」
娘: 「うん」
父: 「ちゃんと自炊して規則正しい生活を送ること」
娘: お父さんが選ぶ、私の食卓。
実物を見なくても、なんとなくわかる。
木の香りが優しくて、
ずうっと座っていたくなる食卓。
目を閉じれば、お父さんやお母さんの笑顔が浮かんでくる食卓。
ほら、笑い声まで聞こえてくる。
夢をかなえるのに一番必要なのは、
やっぱりお父さんの不器用な応援だな。
もう一度言うね。
ありがとう、お父さん。