
『デイゴの花/IROTTA CHICと沖縄へ』は、夏の沖縄を舞台にした、家族の絆と記憶をめぐるお話です。
14歳の娘が父に連れられ、母の故郷である沖縄を訪れる夏休み。そこで彼女は、沖縄の美しい風景と、おじいちゃんの優しさに触れながら、「家族とは何か」「命の大切さとは何か」を感じていきます。
この物語には、沖縄の文化や風習、そして家具職人である祖父が大切にしてきた「ものづくりの精神」も込められています。さらに、インテリアアートや家具を通して、家族の思い出が色濃く描かれています。
■ストーリー案「デイゴの花/IROTTA CHICと沖縄へ」篇
(※)登場人物のペルソナ(※設定は毎回変わります)
・娘(14歳)・・・父に連れられて、母の実家がある沖縄へ戻った夏休みの一コマ(CV:桑木栄美里)
・父(45歳)・・・沖縄出身の妻と東京の大学で知り合って結婚し名古屋に住む(CV:日比野正裕)
・祖父(84歳)・・・母方の祖父。沖縄戦体験者(当時5歳)(CV:日比野正裕)
【Story〜「デイゴの花/IROTTA CHICと沖縄へ/前編」】
<シーン1/那覇空港>
(SE〜飛行機の離陸音〜案内放送「みなさま、当機はまもなく沖縄・那覇へ到着します」)
娘: 「もう着いたの?パパ」
父: 「ああ、セントレアからたった2時間と25分だからな」
娘: 「おじいちゃんに、早く会いたいな」
父: 「もうすぐだよ」
(SE〜空港の雑踏/走っていく子供の足音)
娘: 「あ〜本当だぁ」
祖父: 「めんそーれ」
娘: 「おじいちゃん!」
祖父: 「ようきたなあ」
娘: 「ただいまぁ!」
祖父: 「おかえり!」
娘: 「会いたかったぁ」
祖父: 「おじーもさあ。もういくつになったんだい?」
娘: 「14だよ。中学2年生」
祖父: 「そうかあ、14か。そうかあ」
娘: 「おじいちゃんにプレゼント持ってきたんだ」
祖父: 「なんだろう」
娘: 「はい、これ」
祖父: 「おっきい包みだねえ」
娘: 「あけてあけて、早く」
◾️がさごそと包みを開けると
祖父: 「これは・・・」
娘: 「デイゴの花、の絵だよ。インテリアアート」
祖父: 「満開やっさー」
娘: 「おじいちゃんちも咲いてる?」
祖父: 「デイゴはもう散っちゃったよ。
この絵みたいに満開だと台風がくるかもなあ」
娘: 「台風?」
祖父: 「ははは。冗談だよ。冗談。
もう嵐はとっくに過ぎ去ったから。
それにしてもこの絵、なんだかキラキラしてきれいやなあ」
娘: 「ラインストーンっていうの。
インテリアのお店で見つけたんだ」
祖父: 「そりゃ高かったろうに」
娘: 「ううん、私のお小遣いで買えたよ」
祖父: 「そうかいそうかい、ありがとうなあ」
娘: 「でも残念、おじいちゃんちのデイゴ
もう散っちゃったんだ」
祖父: 「でもな、いまはハイビスカスが咲いとるぞ」
娘: 「ホント?早くみたぁい!」
祖父: 「よしよし、じゃあ行こうか」
娘: 「やったぁ」
父: 祖父との再会を喜んだ孫娘は、祖父の手をひき、車へ向かう。
まるで父親の存在など忘れたかのように。
ひょっとしたら亡き妻の温もりを祖父に感じているのかもしれない。
私は、控えめにセダンの後部座席に乗り込んだ。
<シーン2/妻の実家>
(SE〜セミの声=クロイワニイニイ、クマゼミ、リュウキュウアブラゼミ、オオシマゼミ)
娘: 「わあ!ハイビスカスの花!すっごくキレイ!
私、紅い花って大好き!」
父: 庭のベンチに仲良く座って
ハイビスカスを見ながら祖父と娘が話している。
私は、サンルーから2人を眺めていた。
ああ、サンルーというのは縁側のようなテラスのこと。
風の通り道となっていて、
ときどき気持ち良い風がクールダウンさせてくれる。
祖父は家具職人。
この家に置いてある家具もサンルーも、全部自分で作った。
沖縄の家具は風通しのいいものが多い。
なのに、木の温もり、竹の優しさが伝わってくる。
家に帰るとすぐ、祖父はサンルーの柱に娘が持ってきた絵を飾った。
娘のお気に入り。
デイゴの花とともに飾られたラインストーンがまぶしい。
その横には妻の写真が並んでいる。
何年振りかに訪れた祖父の家、妻の実家。
座卓に置かれた涼しげなデザインの琉球グラスは
冷やしたさんぴん茶が注がれている。
収納付きの座卓。
引き出し付きのベンチ。
そして、琉球畳。
沖縄の家具はいたってシンプルだけど、
人に優しい感じが伝わってくる。
私は目を閉じて、初めてここにきた日のことを思い出していた。
あの日はまだ春で、デイゴの花が咲いていたっけ。
私たちは晩婚だったから、
妻のお父さんもお母さんもとても喜んでくれた。
特にお父さんは、カチャーシーを舞いながら
オリオンビールを何度も私に注ぐ。
(※この先、父は義理の祖父をお父さんと呼ぶ)
明るく酔った顔で、
”ぬちどぉたから”
と、何度も繰り返した。
そのときはわからなかったが、あとから妻に聞いてみると
『命こそ宝』
という意味だという。
そういえばお父さんが生まれたのは、1940年って言ってたから・・・
沖縄戦・・・
そうか・・・当時5歳だったんだ。
私もオリオンビールを飲みすぎて酩酊していた。
同じように”ぬちどぉたから”と繰り返しながら
拙いカチャーシーを踊る。
記憶をたぐれば
私と目があったとき、お父さんは確かに目に涙を浮かべていた。
娘の結婚が嬉しいんだろうと思っていたけど、
なにか別の理由があったのかもしれない。
(SE〜セミの声=クロイワニイニイ、クマゼミ、リュウキュウアブラゼミ、オオシマゼミ)
娘: 「おじいちゃん、箪笥の上になにかいるよ」
祖父: 「あれは、シーサーさぁ」
娘: 「守り神の?」
祖父: 「そう。玄関だけじゃなくて、家の中も守ってくれるんだよ」
娘: 「そっかぁ。
おじいちゃんはずうっと守ってもらってるんだ。
いいなぁ。
私もシーサーに守ってほしいなあ」
祖父: 「もう守ってもらってるよ」
娘: 「ホント?」
祖父: 「ああ、今日無事におじいの家に来れたのも
毎日健康でいられるのも守られてるからなんだ」
娘: 「うん、なんとなくわかる」
祖父: 「学校でお友達はできたかい?」
娘: 「うん・・・少しだけど」
祖父: 「いちゃりばちょーでー」
娘: 「なあにそれ?」
祖父: 「一度会った人はみんな兄弟。
人は助け合わなきゃ生きていけんからなあ」
娘: 「そうだね。
世の中の人がみんなそう思ってくれたらいいのに」
祖父: 「自分がそう思わなきゃ、みんなも思えないよ」
娘: 「うん・・・」
祖父: 「そうだろう」
娘: 「おじいちゃん!」
祖父: 「どうしたんだい?」
娘: 「やっぱり・・・おじいちゃん大好き!」
祖父: 「そうかそうか」
娘: 「冷やしもんたべた〜い!」
<シーン3/那覇空港>
(SE〜空港の雑踏)
祖父: 「気をつけて帰るんだよ」
娘: 「大丈夫だよ。だって名古屋まで2時間25分だもん。
あっという間だから」
祖父: 「はは、そうか。
ああ、忘れてた。これも持っていきなさい」
娘: 「なあに?」
祖父: 「お前の好きなもんいっぱい入れておいたから」
娘: 「え〜こんなにいっぱい?キャリーケースに入りきらないよ」
祖父: 「大丈夫。到着までになくなっちゃうよ」
娘: 「ひょっとして、おじいちゃんが畑で作ったゴーヤも入ってる?」
祖父: 「もちろん。それだけじゃないぞ。お前が大好きな・・・」
娘: 「おにぎり!?」
祖父: 「そうそう。ジューシーおにぎりに・・・」
娘: 「スパムおにぎり!!」
祖父: 「またいつでも帰っておいで」
娘: 「いちゃりばちょーでー」
■BGM〜「インテリアドリーム」
祖父: 「そうそう。みんな仲良くなあ」
娘: 「おじいちゃん!大好き!」
■SE〜飛行機の離陸音
父: お父さんは私たちが見えなくなるまで手を降り続けた。
娘は瞳を潤ませて、小さなお守りを握りしめていた。
それはお父さんが娘に渡した石敢當(いしがんとう)。
親指より少し大きいくらいの、四角い石のお守り。
お父さんが自分で石を小さく切り出して、
『石敢當』の文字を書いたらしい。
みんなに守られて、幸せになるんだよ。
”ぬちどぉたから”