
オーロラを実際に見たことがありますか?
夜空に揺らめく幻想的な光のカーテンは、まるで地球からの贈り物のように美しく、見る者の心を奪います。本作の主人公は、そんなオーロラに魅せられた女性研究者。彼女は科学の視点からオーロラを追い求めていますが、研究に没頭するあまり、睡眠障害に悩まされています。
そんな彼女を密かに見守る先輩研究者との何気ない日常と、ある“運命的な出会い”が彼女の未来を少しずつ変えていきます。
この物語は、天文学と家具が交差するちょっと不思議なラブストーリー。
果たして「オーロラ姫」は、心休まる眠りを手に入れることができるのでしょうか?
登場人物のペルソナ
・女性(26歳)=大学院生で天文学を専攻。太陽風と地球の磁場の相互作用によって生じるオーロラについての研究に没頭している。最近、研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールにより、睡眠障害に悩まされている。オーロラの研究にのめり込みすぎているため、周りからは尊敬と揶揄をこめて「オーロラ姫」と呼ばれている(CV:桑木栄美里)
・男性(28歳)=女性と同じ大学院で天文学を研究している先輩。博士号終了後も国立天文台からのオファーを蹴ってポスドク(博士研究員)としてキャリアを積んでいる。「オーロラ姫」のことを慕っているが、なかなか言い出せないでいる(CV:日比野正裕)
【Story〜「オーロラの彼方に/電動ベッド『オーロラ』/前編」】
<シーン1/先端科学研究所>
(SE〜ラボの環境音)
男性: 「日本でオーロラ?
そんなの・・無理だよ」
女性: 「無理じゃない!
だって、最近の太陽フレア、異様に活発化してるの知ってるでしょ」
男性: 「そうだけど、地磁気のデータ見ててもそこまでじゃないと思う」
女性: 「20年前には、実際に観測されてるわ」
男性: 「あのときはすごく長い時間、磁気嵐が吹いてたからね」
女性: 周りのみんなは私を見て笑う。
ここは、大学の先端科学研究所兼観測所。
私は大学院生として天文学を専攻しながら、オーロラの研究に没頭している。
オーロラ。
誰もが知っている、幻想的な大気の発光現象。
太陽風に運ばれたプラズマが電離圏の分子や原子と衝突して発光する。
”太陽風”なんて、ロマンティックな言葉。
太陽の黒点で爆発が起きると、プラズマが吹き出すの。
真空の宇宙空間を吹き抜けていく”神秘の風”。
太陽の風と地球の磁場が作り出す、光のカーテン。
ああ、だめ。
オーロラのことを話し出すと、止まらないわ、私。
だから、研究所のみんなは、私のことを『オーロラ姫』と呼ぶ。
名前通り、私の研究課題は、オーロラの発生メカニズムとその予測モデルの開発。
どちらも結構いいところまできてるんだけどなあ。
でも私、オーロラにのめり込むあまり、
眠るのを忘れて、いまや睡眠障害。
研究のプレッシャーと不規則な観測スケジュールが原因ね。
男性: 「なんか、顔が疲れてるよ。
大丈夫?オーロラ姫」
女性: あ〜。やっぱ、わかるよねえ。顔に出ちゃうんだもん、疲れが。
彼は天文学の博士号を持つポスドク、つまり博士研究員。
短期契約を結ぶ前は国立天文台の研究機関にいたそうだ。
ま、つまり天文学のエリートね。
天才肌って感じ。
男性: 「今夜はもう帰って休んだら?
明日また夕方からくればいいじゃん」
女性: 「そっか。まあ、昭和じゃないしね。
でも、帰ってもなかなか眠れないんだなあ」
男性: 「不眠症?ストレスで?」
女性: 「う〜ん。
毎日好きな研究に打ち込んでるんだから、ストレスじゃないと思う」
男性: 「好きなことやってたって、こん詰めれば精神はダメージ受けるよ」
女性: 「かもね」
彼は小さく笑って、データ解析室を出ていった。
2歳年上の先輩。
なのに私、タメ口だ。
それは、彼が『みんな仲間なんだからタメ口でいいよ』
って言ったから。
私は、観測室へ行き、大型望遠鏡を覗く。
最近、太陽活動が活発化している。
「太陽フレア」と呼ばれる爆発が、強い太陽風を地球に送り込む。
オーロラが見られるのは、緯度60°から70°の極地だけ。
だけど、異変を感じているのは私だけじゃない。
北海道・陸別町(りくべつちょう)の天文台で働く友達からも連絡があった。
地磁気のデータが面白いことになっているって。
ああ、ちょっと疲れたかも。
帰るか。
でもきっと、帰っても眠れないな。
<シーン2/インテリアショップ>
(SE〜インテリアショップの環境音)
男性: 「あれ?」
女性: 「あ・・・」
男性: 「珍しいところで会うね」
女性: そう。ポスドクの彼に会ったのは、インテリアショップ。
ホントは心療内科へ行こうかと思ってた。
でも、言われることはわかりきってるし・・
って思って歩いてたら、目の前にインテリアショップがあったんだ。
で、お店の前のタペストリーの商品が目に焼きついた。
電動リクライニングベッド。
あ、なんか気になる。
しかも、ようく見たらそのネーミングは・・
”オーロラ”
思わず口角が上がる。
私を呼んでるの?
なんて、思ったときに、彼の声が耳に飛び込んできた。
男性: 「そっかぁ。眠れないって言ってたよね。
しかも・・ああ、この名前。
そうかそうか」
女性: 彼も笑いをこらえてる。
いやあね。
私とおんなじとこでハマらないで。
男性: 「ほら、見てみて。
2モーターだって。
背中と脚が別々に動かせるんだね」
女性: ああ、そういうこと?
ベストポジションを探れるってことか。
ちょっと脚を高めに上げれば、無重力に近づけるかな。
でもそんな高機能なリクライニングベッドなんて
研究員の薄給じゃ買えないわね、きっと。
男性: 「これなら、僕の給料でも買えそうだ」
女性: あ、ホントだ。
ひょっとして、心療内科へ行かなくて正解だったかも。
ひととおり、リクライニングベッドに寝てみてから
私と彼は、お茶を飲んで別れた。
<シーン3/先端科学研究所>
(SE〜ラボの環境音)
男性: 「北海道?」
女性: 「うん。行ってみようと思うの。
さっき所長に言って、思い切って休みをとったから」
男性: 「そうか。観測と解析に明け暮れてたから、いい休息になるんじゃない」
女性: 「だといいけどね」
男性: 「最近、ちょっとだけど顔色も復活したかな?」
女性: おっと。鋭い。
彼と一緒に見つけた、私と同じ名前のベッド。
電動リクライニングベッド『オーロラ』。
あれから速攻で購入したんだ。
なんとなくだけど、睡眠サイクルがよくなった気がする。
男性: 「北海道のどこ?」
女性: 「陸別町(りくべつちょう)。
そこの天文台に友達がいるの」
男性: 「え、それじゃ、仕事と変わらないじゃん」
女性: 「違うわ。気分転換よ」
男性: 「さすが、オーロラ姫だ」
女性: 「ふん。どうせそうよ。
いいの、思いっきりリフレッシュしてくるから。
移動手段なんて、北海道新幹線のグランクラスよ」
男性: 「そ、そんなゴージャスな一人旅なんだ・・」
女性: 「1人って決めつけないで」
男性: 「1人じゃないの・・・?」
女性: 「1人だけど」
男性: 「うん、いいじゃないか。行ってらっしゃい」
女性: 出かける前に見た彼の表情は、暖かかった。
なんだか安心したように。
宣言通り、私は北の大地へ旅立った。
<シーン4/北海道・陸別町の天文台>
(SE〜吹雪の音/電話のコール音)
男性: 「おめでとう。君のいう通りだったね。
やっぱり君は、オーロラ姫だ」
■BGM〜「インテリアドリーム」
女性: 2023年12月1日、北海道で低緯度オーロラが観測された。
肉眼でも確認できるほど、明るい光が夜空を赤く染めていく。
2003年10月以来、約20年ぶりの天体発光現象。
光のカーテンの向こうを
ピークを迎えたペルセウス座流星群が光の軌跡を描く。
私は、幻想的な天体ショーに見惚れていた。
それは私の開発した予測モデルが証明された瞬間。
これでまた当分、『オーロラ姫』という称号は消えないな。
ふふ、私らしいわ。
睡眠障害から少しだけ解放された”暁の女神”。
女神からの贈り物は、最高の輝きを放っていた。