
前編では、娘が祖父と再会し、沖縄の空気の中で少しずつ「家族の絆」を感じていく様子が描かれました。
後編では、祖父が語る沖縄戦の記憶、そして彼が守り続けてきたものについて描かれていきます。
「ぬちどぉたから」—— 命こそ宝。
戦争を生き延びた祖父が、この言葉をどんな想いで語るのか。
また、旅の終わりが近づくにつれ、娘と祖父の時間はより特別なものになっていきます。
別れの時、祖父は娘に何を託すのか——。
登場人物のペルソナ(※設定は毎回変わります)
・少年時代の祖父(5歳)・・・父とはぐれたガマで学生と知り合い助けられる(CV:桑木栄美里)
・学生(14歳)・・・家具職人を目指して修行していた沖縄の学生(CV:日比野正裕)
<シーン1/1945年/那覇にて>
(SE〜激しい戦火の音)
少年: 「このガマに、入れてください」
「逃げているときに父とはぐれてしまいました」
「いまは僕1人です」
「もしお邪魔ならすぐに出ていきます」
「わかりました」
「おじゃましました」
学生: 「ちょっと待って」
少年: あきらめて引き返そうとしたとき、
声をかけられた。
ガマの奥から現れた学生服のお兄さん。
学生: 「きみ、どっから来たの?」
少年: 「宜野湾です」
学生: 「宜野湾から歩いてきたの?」
少年: 「はい」
学生: 「さあ、こっちへ来て。
僕のとなり、ちょっとつめれば入れるから」
少年: ガマの中の大人はすごく嫌な顔をした。
仕方ない。
だって今はみんな生きるのに必死だもん。
ボクだって、弾に当たらないようにしながら
ここまで一生懸命走ってきた。
オトゥーは途中の村でボクを先に行かせていなくなった。
絶対に後ろを振り返るな、と言われたから、
言うことをきいて、前だけを見てここまできた。
だけど、この辺鉄砲の音がいっぱいしてるから
怖くなって、ガマへ逃げたんだ。
声をかけてくれたのは、お兄さんだけ。
右手に包帯巻いてる。怪我してるのかなあ。
学生: 「もう大丈夫だよ」
少年: 「ありがとうございます」
学生: 「はい、これ食べて。周りの人にはナイショだよ」
少年: お兄さんは、小さくちぎった魚の干物をボクに手渡した。
これは、ハマダイかなあ。
小さすぎて、なんの魚だかもうわかんない。
僕が干物を口に入れたとき、
お兄さんのお腹がぐぅと鳴った。
え?
お兄さん、これ、お兄さんの晩御飯じゃないの?
お兄さんは人差し指を口にあてて
しいっというジェスチャーをした。
笑いながら、僕の耳に口を近づけて囁く。
学生: 「兵隊がいなくてよかったね」
少年: 「え?どうして?」
学生: 「あいつらがいたら、子供なんて絶対追い出される」
少年: 「兵隊さんはウチナンチュを守ってくれるんじゃないの?」
僕も小さな声で、お兄さんの耳にささやく。
学生: 「守ってくれたら、沖縄がこんな風になってると思うかい」
少年: 「え」
その先、言葉が続かない僕に、お兄さんは自分のことを話してくれた。
お兄さんは家具職人になりたいのだという。
学生: 「沖縄の家具ってのはね、美しくて、優しくて、
涼しくて、あったかいんだよ」
少年: 涼しくて、あったかい?へんなの。
学生: 「素材は琉球松とかイヌマキ。耐久性があって湿気にも強い。
イヌマキは首里城にも使われてるんだぞ。
最高の素材を使って最高の座卓や箪笥を作りたいなあ。
紅型(びんがた)で染めた風呂敷を座卓にかけるのもいいな。
シーサーをおく棚は格子にして風通しをよくしよう」
少年: 周りの大人たちは、おでこにシワを寄せて怖い顔をしてるのに
お兄さんはなんだか楽しそうだ。
学生: 「あーあ。なりたかったなあ。家具職人」
少年: え?なるんじゃないの。
さっき、戦争が終わったら家具職人になる、って言ってたよ。
学生: 「家具職人になりたかったけど・・・
このガマに入る前はね、戦争の道具を作ってたんだ。
ほら、家具職人ってみんな手先が起用だろ。
だから、仕事をやめて弾薬箱とか作らされるんだよ。
家具は、人を幸せにするもの。
家族の絆をつむぐもの。
なのに、僕たちは人を殺す道具を作っていたんだ」
少年: さっきまで優しい顔をしていたお兄さんが
だんだん険しい形相になってくる。
お兄さん、やめて。そんな話。
小さい声でも周りの大人に聞こえちゃうよ。
学生: 「ああ、そうだった。ごめんごめん。
もっと楽しい話をしよう」
少年: 「うん」
学生: 「君はここを出たら、家具職人にならないか」
少年: 「ボクが?」
学生: 「人を殺す道具じゃなくて、人を幸せにする家具を作るんだ」
少年: 「お兄さんはもう家具を作りたくないの?」
学生: 「そりゃ作りたいさ。ここを生きて出られたら」
少年: お兄さんの話はそこで終わった。
それからボクたちは何日ガマにいただろう?
食べるものもだんだんなくなって、入口近くにあった
草の根っこも全部食べ尽くしちゃった。
お腹が減ったなあ。おにぎり腹一杯食べたいなあ。
そんなとき、お兄さんは落ちてる枝でいろんなものを作ってくれた。
それは木でできたおもちゃ。
カエルとか魚とか犬とかニワトリとか。
すごいな、お兄さん。
今日はちょっと長い木の枝を持ってきて
周りの小枝を削って一本の棒にした。
なんだろう?
不思議な顔して眺めていると、
お兄さんは自分の下着を破いた。
ちょっと黒ずんだ白いシャツ。
え?そんなことしたら着れなくなっちゃうよ。
白い部分を木の棒に巻きつけて旗みたいにした。
学生: 「このあと、これを大きく振って外へ出るんだよ」
少年: 「どうして?弾に当たっちゃうよ」
学生: 「大丈夫。もう外で銃弾の音はしていない」
少年: 「そうなの?」
学生: 「この前、ガマにビラが投げ込まれただろ」
少年: 「ビラってなに?」
学生: 「文字を書いた紙だよ」
少年: 「ふうん」
学生: 「そこにはね、こう書かれていたんだ。
隠れているみなさん、戦争はもう終わりました。
出てきてください。
もう少ししたらガマに爆弾を投げ入れますから
早く出てきてください。
って」
少年: 「うそだ」
学生: 「うそじゃないよ。
今までずっとうそをついていたのは、僕たちが信じていた方さ」
少年: お兄さんはそう言って僕をガマの外に追い出した。
学生: 「いいかい。どんなに大きい音がしても、絶対に振り返っちゃいけないよ」
少年: オトゥーと同じことを言う。
ボクはボロボロの白い旗を振って外へでた。
外で待ち構えていたアメリカ兵は
すぐにボクを抱き抱えて走り出す。
背中からものすごく大きな音と強い風がやってきた。
■BGM〜「海唄」
祖父: こうして私は家具職人になった。
美しくて、優しくて、
涼しくて、あったかい家具を作り続ける。
人を幸せにする家具。
家族の絆をつなぐ家具。
棚や箪笥の上には、必ずシーサーを置く。
大切な人をいつまでもいつまでも守ってほしい。
愛する孫娘のことも。
”いちゃりばちょーでー”
みんなに守られて、幸せになるんだよ。
これから、どんな時代がやってきても忘れてはいけない。
”ぬちどぉたから”