
第18回は一之宮エリアを担当するヒダテン!一之宮かぐらのCV声優、小椋美織さんが登場します!
今回お届けするボイスドラマは、シリーズ初となる戦争をテーマにした物語。
タイトルは、
『臥龍の記憶 〜櫻守が見た夢・儚い春の風〜』。
終戦記念日を前に、1944年〜1947年の飛騨一之宮を舞台に描かれるのは、
出征を前にした青年と、その婚約者である少女の、一途で切ない恋の物語です。
ミオリを演じるのは、小椋美織さん。カズヤを演じるのは、日比野正裕さん。二人の演技が、臥龍桜の下に息づく"記憶"を、まるで今そこにあるかのように描き出します。
恋とは、信じること。希望とは、待ち続けること。そして、戦争とは、残酷なまでにそれを引き裂くもの。
彼らの言葉に、想いに、あなたの心もきっと揺さぶられるはずです。
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あの日、桜の下で交わした約束が、いま、あなたの胸にも届きますように・・・
【ペルソナ】※物語の時代は昭和19年〜22年
・ミオリ(17歳)=飛騨一ノ宮駅の東側にある実家で育った。一之宮尋常高等小学校を卒業後、高山の女学校に通う女学生。勉学に励み、将来は子どもたちに教える教師になることを夢見ている。真面目で一本気な性格だが、感受性豊かで、心の奥には繊細さも持ち合わせている。親が決めた許嫁であるカズヤとの関係に反発しつつも、どこか彼の不器用な優しさに気づいている(CV=小椋美織)
・カズヤ(19歳)=飛騨の林業を営む家に生まれた。家は飛騨一ノ宮駅の西側。幼い頃から木に親しみ、その温もりと力強さに魅せられ、いずれは家業を継ごうとは思うが、今は家具職人(匠)になりたいと思っている。1944年現在は高山市の家具工房で修行の身。寡黙だが、内に秘めた情熱と職人としての誇りを持つ。不器用ながらも、ミオリのことをいつも気にかけている(CV=日比野正裕)
【設定】
物語はすべて臥龍桜の下。定点描写で移りゆく戦況と揺れ動く2人の心を綴っていきます※今回は朗読劇のスタイルで
【資料/飛騨一ノ宮観光協会】
http://hidamiya.com/spot/spot01
<第1幕:1944年3月5日/臥龍桜の下>
◾️SE:春の小鳥のさえずり
※【カズヤの声/日比野正裕】
https://drive.google.com/drive/folders/1QqbAyz6J654WbW1QdlckorK4ldtZL76g?usp=sharing
「冗談じゃないわ!
どうして私がカズヤと祝言(しゅうげん)あげなきゃいけないのよ!」
「親が決めたことだからしょうがないだろ。」
「情けないわね!あんた、それでも日本男子?
しっかりしなさい!」
「日本男子は関係ないだろうに」
「そうね、カズヤには関係ないかも。
だけど私には大あり」
「どういうことだ、ミオリ?」
「カズヤにはわかんないでしょうね。
でも私はね、花も恥じらう十七歳。
一之宮尋常高等小学校を卒業して、高山の女学校に通う学生なのよ」
「だからなんなんだ」
「あー、いや、ちょっと待って。
そういや、あなただって、林業を捨てて高山の工房で家具を作ってるじゃない」
「捨ててなどないぞ。
オレは別に父母の仕事を卑(いや)しめてはいない。ただ家具作りが・・」
「好きだからでしょ。
昔から手先が器用だったし」
「そ、そうだけど」
「こんなふたりが。
戦時中だというのにこんな好き勝手やってる男女がよ。
親が決めた許嫁と祝言なんて、まあなんて前時代的な話だこと。
いま何年だと思ってるの?昭和ももう19年よ。昭和19年。
明治時代じゃないんだから」
「ちょっと言い過ぎじゃないか」
「なんでよ」
「親が言っていることの意味も考えねばならんだろう。
戦局はますます激化していくこのご時世で」
「はあ?」
「厚生省が『結婚十訓』を発表したではないか」
「それがどうしたの?」
「『結婚十訓』第十条『産めよ殖(ふや)せよ国のため』」
「ばかばかしい」
「ばかばかしい?非国民かオマエは」
「非国民でけっこう」
「なに」
「だいたいカズヤと夫婦(めおと)になるなんて無理無理」
「ふん。こっちだって願い下げだ」
「あら。初めて意見が合ったじゃない」
「た、たしかにな」
「あゝせいせいした」
「なあ、ミオリ。
オマエ、ひょっとして・・・」
「なによ」
「いや、別に・・」
「言いなさいよ」
「ああ。ほかにいい人がいるのか・・」
「え・・」
「やっぱりそうか・・」
「な、なによ。悪い?
お慕いする方くらい、いたっていいでしょ」
「別にかまわんけど。オレだって・・・」
「へえ〜、カズヤにもいるんだ。そんな相手が」
「馬鹿にするな。こう見えてもモテるのだぞ」
※当時からあった言葉です
「馬鹿になんてしてない。
だってカズヤ、見た目だけはいいんだし」
「だけ、って・・失礼千万だな」
「じゃ、いいじゃない・・」
「うむ・・」
「ねえ、ようく見てみなさい。あそこ。飛騨一ノ宮駅のホーム」
「飛騨一ノ宮駅か・・」
「毎日毎日聞こえてくるわ。
出征兵士を見送る家族の、心で泣いてるバンザイと
供出された飛騨牛たちの、悲しそうな鳴き声」
「うむ」
「この臥龍桜だって」
「桜の季節はまだまだ先だがな」
「赤紙(あかがみ)手にした兵士と、家族や恋人が今生(こんじょう)の別れをしている」
「はるか彼方の戦地に送られて、思い出すのはやっぱりふるさとの桜じゃないかな」
「もう二度とこの桜に会えないからと、しっかりと目に焼き付けて」
「今日もこのあと壮行会があるらしいな」
「臥龍桜の下って、本当はもっと幸せな気持ちになれるはずなのに」
「・・・」
「それなのに銃後(じゅうご)の私たちだけ、のうのうと幸せになるのはいや」
「ミオリ、らしいな」
「高山線だって10年前に開通した時は、飛騨の夢と希望をのせていたのに。
いまじゃ、悲しみを乗せて走ってる」
「・・・」
結局、痴話喧嘩のような言い争いは中途半端に終わった。
1944年、昭和19年3月。
臥龍桜の蕾はまだまだ固く、一之宮の春は遠い。
戦局はますます悪化し、ニッポンは敗戦への道を歩み始めていた。
<第2幕:1944年4月7日/臥龍桜の下>
◾️SE:春の小鳥のさえずり
「ちょっとカズヤ。
なによ、急に呼び出して」
「すまん」
「そういえば1年前にもヘンな話で呼び出されたわね」
「ヘンな話じゃないだろう。祝言の話は・・・」
「十分ヘンな話よ」
「そうか・・・。
まあ、いいじゃないか。
ミオリの希望通り、ご破算(わさん)になったんだから」
「やあね。なんだか私がぶち壊したみたいじゃない」
「だってそうだろ」
「いいでしょ。あなただって、私なんかと夫婦(めおと)になるより
想い人と一緒になる方が」
「あ・・ああ・・・いいかもな」
「あ〜あ。ほら、見てよ。
今日もまた飛騨一ノ宮駅のホームに出征兵士が。
あんなにたくさんの人に見送られて。
あんなにたくさんの涙を背負って」
「そう・・だな」
「それよりもう、じれったいわね。なんの用なの?」
「いまから話すよ・・」
「カズヤんちは駅の西側だからスッと来れるけど、
うちは東側なんだから。
いちいち線路を渡ってここにこなきゃいけないのよ。
わかってるでしょ」
「すまない・・・」
「なに?なんか素直で気持ち悪い。
いつものカズヤじゃないみたい」
「実は・・・」
「うん」
「昨日・・・」
「うん」
「来たんだ・・・」
「え・・・」
「これ・・・」
「なによ、それ?」
「わかるだろう・・・赤紙だよ」
「えっ!」
「両親とはもう話した」
「そんな・・・」
「ミオリにもちゃんと伝えておこうと思って・・・」
「なんでカズヤがいかなきゃいけないの」
「え?あたりまえだろう。
日本国民なんだから」
「最低」
「すまない」
「なにをあやまってるのよ」
「いままで喧嘩ばっかりで・・・」
「出征はいつ?」
「1週間後だ」
「間に合わないじゃない」
「なにが?」
「臥龍桜よ。決まってるでしょ」
「しかたないさ・・」
「じゃあやめちゃいなさいよ。出征なんて」
「ばか。なんてこと言うんだ」
「ばかはあんたよ」
「・・」
※言いながら感情を抑えきれなくなるミオリ
「ばか・・・ばかばかばかばかばかばか・・ばか」
「すまない・・・おい、ミオリ!」
私は、我慢ができなくなってカズヤの元から駆け出した。
後方から私を止める声は聞こえてこない。
振り返らずに、線路を渡っていく。
ホームからは賑やかに出征兵士を送る歓声が聞こえてくる。
◾️SE:SLの切ない警笛
蒸気機関車の警笛が人々の悲しみを飲み込んでいく。
1945年、昭和20年4月7日。
臥龍桜の蕾は膨らみはじめ、開花の季節が近づいていた。