記憶の地層に耳を澄ます――『記憶発掘ラボ』 なぜ、あの机の側面には画鋲が刺さっていたのだろう。 意味などなかったのかもしれない。だが、だからこそ、それは確かに私たちの時間の一部だった。 傷だらけの机。回される画鋲。エナメルバッグからのぞく剥き出しのワイヤー。 どれも忘れ去られた風景でありながら、誰の心にも確かに沈殿している断片たち。 無頓着さの中に潜む、子どもという存在の奇妙な純粋さ。 語り手の静かな声が、それらを少しずつ掘り起こし、曖昧な輪郭を持った記憶を、やさしく光の下に置いていく。 これは懐かしさではなく、“思い出されることの快楽”の記録。 誰かの記憶が、ふと、あなたの記憶を呼び起こすかもしれません。