
ここは、一見普通の特別養護老人ホーム。しかし、その正体は、法で裁けぬ巨悪を闇で裁く秘密組織「陽炎」の最後の砦だった。
介護福祉士のルイと、個性豊かな入居者たちが、AI監視企業「シンギュラリティ」の脅威にどう立ち向かうのか?三州瓦、花火、水圧銃…お年寄りたちが、それぞれの特技を活かした驚きの武器で敵を迎え撃ちます。
【ペルソナ】
主人公・ヤマサキさん(年齢不詳):寝たきりのおばあちゃん。実は手下に命令を下して悪いやつらを闇に葬り去る「陽炎」のビッグボス
介護福祉士・ルイ(24):秘密組織「陽炎」で訓練を受けた世界最高級の秘密工作員。訪問介護や病院への送り迎え、外出催事などの際にミッションをこなしている
[シーン1:特別養護老人ホーム 鷹濱荘】
◾️SE/効果音:緊急コール(No.1530968 緊急コール)〜廊下を走る音
※CV/息を切らして走ってくるルイ
はぁっ!はぁっ!はぁっ!
緊急コールを鳴らすなんて、また誰かが転倒でもしたのかしら?
骨折とか大事(おおごと)でなきゃいいけど。
※CV/モノローグっぽく
ここは、愛知県高浜市にある特別養護老人ホーム鷹濱荘(たかはまそう)。
海沿いに建つ瀟洒な施設。
一見、どこにでもある普通の特養だが・・・
◾️BGM/スパイアクション風に転換
ここにいるのは、ただ静かに余生を送る老人たちではない。
法で裁けぬ巨悪を闇で裁く非公認の秘密諜報組織「陽炎(かげろう)」。
彼らはその「陽炎」最後の生き残りたちである。
私は介護福祉士のルイ。
しかしてその実態は・・・
「陽炎」で訓練を受けた腕利(うできき)の秘密諜報部員。
パステルカラーのユニフォームの下にはワルサーPPK。コルセットをガンベルトにしていつでも臨戦体制の工作員なのだ。
いやいやいや、私などまだまだ青二才。
ホームの入所者は全員、超一流のエージェント。
その素顔は誰も想像できまい。
主だったメンバーを紹介しよう。
※年齢はそのまま続けて読んで
まずは、元鬼師のタクミさん(85歳)。
三州瓦で鬼瓦を作る伝統工芸職人。
特殊な材料でいろんな瓦の仕掛けやギミックを作り、敵を制圧する。
毎回私に新しい発明品を見せたくてウズウズしてるのよね。
面白いけどほっとこ。
戦時中「従軍看護婦」だったマミさん(78歳)
毒物調合の達人。
手に持っている砂糖入れには常に微量の毒が混ざっている。
今日もメタボ気味な理学療法士のおじさんに、デザート作って渡してた。
メタボ解消よ〜、って笑ってたけど・・・
おじさん大丈夫かしら?
コウシさん(82歳)は”回天”計画の元特攻隊員。
出撃直前「陽炎」にスカウトされたらしい。
水を使った戦法が得意。
介護浴槽の中でも10分以上息を止められるって。
職員が海にボールペン落としたときは、潜ってサっと拾ってくれた。
ありがたいわぁ。
伝説のスナイパー「人形菊(にんぎょうぎく)」ことコハルさん(75歳)。
いまはちょっと耳が遠くなったけど、視力とスナイパーの腕は健在。
上空150メートルぎりぎりに飛んでるドローンも一発で撃ち落とす。
昨日もドローンが近づいてきたから撃墜したって言ってたけど・・
なんかこわ〜。
元花火師で爆弾作り名人の、トシカズさん(88歳)。
破壊対象のごく一部だけを正確に、かつピンポイントで爆破する。
しかも超人的な聴力はデビルイヤー。他人の心音まで聴き分ける。
こないだも「ルイちゃん、心拍数あがってるよ。相談員の栗栖くんの前だから?」って。
いらんことを〜。
カズオさん(90歳)は、凄腕の金庫破り。
少〜し認知入ってるけど、錠前開けの腕は健在。
所長が金庫の鍵なくしたときなんて、つまようじ一本で開けちゃったし。
すごすぎる〜。
最後は、ヤマサキさん(年齢不詳)。
戦後の混乱期から今まで、諜報機関「陽炎」の指揮官。
3年前の脳梗塞が原因で寝たきり・・・
というのはカムフラージュ。
超人的なリハビリを半年続けて復活。
密かに私に指令を出している。
表情ひとつ変えずにぼそっと言うから、ちょっと怖い。
◾️SE/効果音:緊急コール(No.1530968 緊急コール)〜廊下を走る音
※CV/息を切らして走ってくるルイ
はぁっ!はぁっ!はぁっ!
呼んでいるのは4階の北の端。多目的交流センター。私が打合せをしていたのは南の端1階のデイルーム。
走っても遠いわ。
はぁはぁ・・・
あ・・れ?
交流センターのマットに寝かされてるのは・・・タクミさん?
ま〜たなんか瓦でヘンなモノ作ってたんじゃない?
「タクミさん、大丈夫?」
「ああ、ああ。ちいっとばかし、転んじまったわ」
「バイタルは?」
「正常じゃ」
「打ったのはひざ?
見せて・・・腫れてはいないわね」
「ああ」
「一応、総合病院行こう」
「そうじゃな。いこいこ」
タクミさんは遠足へ行く子どもみたいな笑顔。
わざとらしく足を引き摺りながら、車に乗り込んだ。
[シーン2:介護車両「よしはま号」】
◾️SE/介護車両の車内音
「転倒なんて嘘でしょ?」
「いや、うそじゃない。わざとだけど」
「もう〜。
デイルームから多目的まで必死で走ったのよ」
「ほかほか。ええ運動になったのう」
「なぁにが。で、要件は?」
「昨日三味線弾きのカズヤが慰問にきたじゃろ」
「ああ。陽炎の連絡員、カズヤさんね」
「演奏の幕間(まくま)にちらっとだけ聞いたんじゃが・・・」
「なあに?」
「最近、裏の世界で不穏な動き、というか空気があるんじゃと」
「どうしたの?」
「八咫烏(やたがらす)って知っとるじゃろ?」
「同業ね。あっちはカズガ/ハルヒ神社の神官たちのグループじゃない」
「宮司のサカキバラを除いて全滅らしい」
「ええっ!?
500年以上も続いている神官と巫女のエージェント集団よ!」
「そうなんや」
「どういうこと?相手は誰?」
「わからん。
だから、いくつかわしが秘密兵器をつくっておいた」
「まぁた、瓦でヘンなもん作ったんでしょ」
「失礼だな。まあ見ろ」
「はいはい」
「まずはこれ」
「ただのキーホルダーじゃない。たしかクラファンの返礼品でしょ」
「そう見えるだろうがな、これは手榴弾じゃ」
「え〜」
「爆弾作り名人のトシカズさんに爆薬を調合してもらってな。
窯の中で爆発させず、強度も保てる瓦爆弾を焼いてもろうたんじゃ」
「そんなん持ってるだけで危ないじゃん」
「そうかぁ?
ほんじゃこっちは?
三州瓦を細かく砕いて、特殊な合成樹脂で固めた手甲(てっこう)じゃ。
一見、ただのギプスに見えるやろ?
拳銃の銃弾(たま)だって弾き返すんやぞ」
「重いだけじゃん」
「やっぱ若いやつには、この価値はわからんかぁ。
見よ、この瓦の艶。美しいのう」
「もう総合病院着くわよ。
とりあえずレントゲンだけはとっときましょ」
結局、タクミさんは手首を骨折していた。
瓦のギプス、役立ってよかったじゃん。
まあ、股関節の骨折じゃなくてひと安心。
早くホームに戻ってボスに報告しなくっちゃ。
[シーン3:ビッグボス】
◾️SE/小鳥のさえずり
「八咫烏が全滅だと?」
「はい。生き残ったのは宮司のカズヤさんだけ」
「シンギュラリティだな」
「シンギュラリティ?なんですか、それ」
「先週防衛省の役人がきたとき、ちらっと言っておった」
「防衛省の役人!?そんなん、いつきました?」
「なんや。ほれ、マミの家族が訪ねてきとったろ?」
「ああ、あの息子さんとお孫さん・・・
ってあれ、偽物だったんですかぁ!?」
「年に一度の定期連絡じゃ」
「年に一度しか顔を見せないなんて冷たい家族だなあ、
って思ってたんですけど・・・
え、でも・・・お孫さんは?子役ですか?」
「チャイルドプレイのメンバーじゃよ」
「チャイルドプレイ?ちょっと頭が混乱してきました」
「正式には非政府組織のNGO。
10歳未満のこども中心の諜報メンバーじゃな。
労働基準法の『年少者保護規定』にひっかかるんでNGOになっとる。
売れてる子役はたいがいメンバーだぞ」
(※以下カット可能)
「ひえ〜。芦田愛菜とかも入ってたりして」
「初代隊長じゃ」
「いやいやいや。そうですか。ごちそうさまでした」
「話を戻そう。
シンギュラリティは、AI監視ネットワークを駆使した反政府団体じゃ。
SNS時代に急成長したAI監視企業が、ならずもの国家と結託してな、
全世界を掌握しようとしておる」
「じゃあ、陽炎とか八咫烏は・・」
「基本アナログのわしらは、やつらにとって最大の脅威。
と認識し始めたらしいのう」
「だから最近正体不明のドローンが飛んでるんですね。
昨日はコハルさんが撃墜しましたけど」
「近いうちに必ずなにか仕掛けてくる。
と役人が言っておったが、まさか八咫烏を先に潰しにくるとは・・」
「どうしますか、ビッグボス」
「次の外出は、彼岸花の鑑賞やったな」
「はい」
「その次がおまんとか」
「ですね。それまでにはケリをつけないと」
「よし。じゃあ、次の外出のとき、動ける者はみんな稗田川へいけ」
「ラジャー」
「そこで敵をおびき寄せる」
「ありったけの武器を持っていきます」
「こちらの出方を悟られんようにな」
「わかりました」
「わしは残ったものと敵を迎え撃つ」
「お気をつけて」
※続きは音声でお楽しみください。