
呼吸は心理状態に大きな影響を及ぼす。心理もまた呼吸を左右する。両者の間には自律神経が介在している。
自律神経は不随意的な神経系であり、循環、消化、発汗、体温調節、内分泌、生殖、代謝、呼吸などを制御する。闘争か逃走か(fight or flight)に総称される恐怖心との関連が深い。
無意識の呼吸も自律神経の管轄下にある。しかしながら、呼吸は意識的に行なうことができる。そのため呼吸を操作して自律神経に働きかけ、心を操作できることに人類は気づいた。かくして呼吸法が各方面で研究されてきたのである。
とりわけ武術において心身のコントロールは生死を分けるため、不動心や平常心が重視され、これを獲得する技術が探求されてきた。丹田と呼ばれる下腹部の装置が大切にされるのも、この文脈に位置づけられる。
本書では、丹田と並んで心理操作に大きな役割を果たす「身体の芯」について考える。芯もまた意識のあり方と深く関わる。身体に芯を確立して不動心を身につけた先人に学び、その現代的トレーニング法を整理したい。
荘子にいわく「君子の交わりは淡きこと水の如し、 小人の交わりは甘きこと醴の如し」。立派な人物の交際は水のようだが、つまらない人の交際は甘酒のようにベタベタしている、という意味だ。
絆や仲間意識が強調され、強い同調圧力がかかる日本社会において、自らの道を歩むために心の護衛手段を持つことは重要である。他者の影響を最小限にとどめ、和して同ぜずの境地に至る。身体に確固たる芯を立てる技法が、その一助となれば幸いである。
※外柔芯剛をソトジュウシンゴウ、三節直列をミッツセツレツ、足節をアシセツ、着眼大局をチャクガンダイキョク、大樹をダイジュと誤読している箇所がありますのでご注意ください。
⚫︎電子書籍で読む『十二節〜同調圧力を受け流す呼吸法〜』