
アメリカの心理学者ミハイ・チクセントミハイが提唱した概念に「フロー」がある。そのときやっていることへ完全にひたりきり、すべてがうまくいっていると感じる精神状態である。
スポーツ世界では、集中力が極限まで高まったとき、周囲の景色や音が意識から消えるという。この状態を「ゾーンに入る」と表現する。究極のフロー状態がゾーンであるとする場合もある。
東洋的修行法においては、意図的にゾーンへ到る技法が追求されてきた。ヨーガ、密教、禅、神道でさまざまなアプローチが試みられ、それは武術、能、茶、書、華など諸芸に大きな影響を与えたとされる。
呼吸法においても、この種の体験に至ることがある。とかく神秘化されがちなこの現象を、水の呼吸では「主客転倒」が起きていると考え、これをSOシフトと呼ぶ。
いったんそれが理解できると、スポーツ、武術、各種教典で伝えられる超絶体験や常識を超えた逸話が、我々の暮らす日常と地続きであることに気づく。
本書『主客転倒〜呼吸が根底から変わる〜』では一歩ずつ段階を踏まえ、主客が転倒した不思議な呼吸世界について、可能な限り論理的に解説したいと思う。
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