
量子コンピュータの仕組み(量子ビット・重ね合わせ・量子もつれ)
量子コンピュータは量子ビット(キュービット)という情報単位を使って計算します。従来のビットが「0」か「1」のどちらか一つの値しか取れないのに対し、量子ビットは0と1の両方の状態を同時に重ね合わせて持つことができます1st-net.jp。この重ね合わせによって一度に多数の状態を表現でき、従来よりも多くの計算を並行して処理することが可能です1st-net.jp1st-net.jp。さらに量子ビット同士を量子もつれという現象で絡み合わせると、離れたビット間であっても状態が相互に関連づけられ、片方の測定結果がもう一方に即座に影響を与えるようになります。量子コンピュータではこの重ね合わせと量子もつれを駆使し、量子ビットの状態に対して量子ゲート(論理操作)を適用することで計算を行います。ゲート操作により量子ビットの確率振幅を干渉させ、解きたい問題に応じて望む結果が高い確率で得られるような状態を作り出し、最後に測定(観測)を行って答えを読み取ります。これが量子コンピュータの基本的な計算の流れです。
例えば、2量子ビットを用いる場合、重ね合わせ状態では「00」「01」「10」「11」の4通りの状態を同時に表現できます。一連の量子ゲート操作によってこれらの状態に重み付け(確率振幅)の干渉を起こし、不要な解の可能性を打ち消して必要な解を強調することで、最終的な測定で正しい答えを得やすくします。重ね合わせによる並列計算ともつれによる相関操作は、量子コンピュータが古典コンピュータとは異なる原理で計算能力を引き出す鍵となっています。
量子コンピュータの革新性は、従来のコンピュータでは不可能または非常に時間がかかる計算を飛躍的な効率で実行できる点にあります。古典的なコンピュータが1つ1つ順番に試行しなければならない問題でも、量子コンピュータなら量子ビットの重ね合わせによって複数の計算を同時並行で処理できますbota-labo.blog。これにより計算能力が爆発的に向上し、極めて膨大な組み合わせを持つ問題でも解を高速に探索できます。特に、有名なショアのアルゴリズムでは、量子コンピュータ上で巨大な数の素因数分解を多項式時間で実現できることが示されました。これは従来のコンピュータでは事実上不可能だった計算を現実的なものにする画期的な成果で、現在広く使われているRSA暗号や楕円曲線暗号が将来的に破られる可能性を示しています1st-net.jp。またグローバーのアルゴリズムでは、無作為なデータベース検索を平方根時間(約二次的に高速)で行えることが知られており、特定の問題で大幅なスピードアップが可能です。
こうした量子アルゴリズムにより、量子コンピュータは特定分野において桁違いの処理能力を発揮します1st-net.jp。例えば、Google社は2019年に53量子ビットプロセッサによって、当時の最速スパコンでも1万年かかるとされた特定の計算を約200秒で完了し「量子優越性」を実証したと発表しました(この主張には議論もありますが、量子計算の潜在力を示す例です)。このように従来比で指数関数的な高速化が期待できる点が量子コンピュータの革新的な違いです。ただし、量子コンピュータはあくまで特定の問題領域(暗号解読、組合せ最適化、量子シミュレーションなど)で優位性を持つことが知られており、汎用的にあらゆる計算が速くなるわけではありません。そのため古典コンピュータとは得意分野が異なり、相補的に使われると考えられています。
飛躍的な可能性を秘める量子コンピュータですが、実用化に向けて解決すべき技術課題も数多く存在します。現在指摘されている主な課題は以下のとおりですkagoya.jpkagoya.jp:
ハードウェアの安定性と量子デコヒーレンス: 量子ビットの状態(重ね合わせやもつれ)は外部環境のわずかなノイズや熱振動によって容易に崩れてしまいます1st-net.jp。この量子デコヒーレンス(量子状態の崩壊)により計算結果にエラーが生じやすく、信頼性の高い計算を行う妨げとなっています。対策として極低温(絶対零度に近い温度)で量子ビットを冷却したり、真空環境や電磁シールドで外界から隔離したりする技術が用いられます1st-net.jp。しかし、大規模化するほど外乱の影響も増大するため、安定したハードウェアを作ること自体が非常に難しい課題です。
エラー訂正と信頼性の確保: 量子ビットが非常に繊細なため、動作中に従来のコンピュータよりはるかに高頻度でエラー(誤ったフリップや位相の乱れ)が発生します1st-net.jp。そのままでは計算結果に誤りを含む可能性が高いため、量子エラー訂正と呼ばれる技術によってエラーを検出・修正する必要があります1st-net.jp。具体的には一つの論理量子ビットを実現するのに多数の物理量子ビットを冗長に使い、エラー発生を監視・補正します。しかし現状の量子コンピュータはエラー訂正に充てる十分な数の量子ビットを搭載できておらず、完全な誤り耐性を持つ量子計算機の実現にはなお時間がかかると見られていますkagoya.jpkagoya.jp。
スケーラビリティ(大規模化): 実用的な問題を解決するには、量子ビット数を現在より何桁も増やした大規模な量子コンピュータが必要とされています1st-net.jp。ところが量子ビット数を増やすほど先述の安定性維持が難しくなり、ノイズやエラーが指数的に増えて「スケールアップすると使い物にならない」という壁に直面しています1st-net.jp。現在の技術では数百量子ビット規模が限界で、数万~数百万量子ビット規模が必要とも言われる真の汎用量子コンピュータ実現には、現行技術を超えるブレークスルーが求められていますbusinessinsider.jpBack to Episodes