
本稿は、プライマリ・ケアにおいて広く認識されているホリスティック医学の質の向上を目指し、現象学の知見を臨床および研究に統合する可能性を探るシンポジウムの報告です。
現象学は、客観的データや既存の枠組みのみでは捉えられない、患者の個人的・社会的文脈を含む「生きられた経験」の構造を解明しようとする哲学です。このアプローチは、未分化で複雑な健康問題に頻繁に遭遇するプライマリ・ケアの現場において特に有用であり、客観的・量的な視点を意図的に留保する「エポケー」という概念が重要な鍵となります。シンポジウムでは、原因特定や数値の正常化といった従来の医学的目標を超えて、「この患者にとって良い人生とは何か」を問う事例や、患者を「世界内存在」として捉え対話を通じて新たな意味を共創する手法が紹介されました。現象学は、臨床での暗黙知の言語化を可能にし、質的向上を促す大きな潜在能力を持ちますが、今後は専門的な哲学的用語を臨床家にとって身近な共通言語に翻訳する努力が必要とされています。
Yokota Y, Son D, Sakakibara T, Nishimura Y, Taniguchi S. Phenomenology in Primary Care: Integrating Phenomenological Insight Into Clinical Practice and Research. J Gen Fam Med. 2025.
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