
今回の特集はあのちゃんです。と言いつつも、中身はミスiDと大森靖子を軸に「2010年代のアイドルシーン」について振り返ろうという内容になっています。「推し活」の隆盛とともに、アイドルシーンについて語り語られる場所や機会が増えていく一方で、その実態は旧ジャニーズ問題をきっかけに労働問題やジェンダー問題が中心となり、カルチャーの側面からアイドルシーンの歴史や文脈を捉えようとする動きは依然として少ない(というか芯を食ったものがない)状況です。それもそのはず、J-POP自体が非常にカオスな偶発性の連続で成り立っているようなものであり、「なぜあのちゃんは売れたのか?」などと真っ正面から考えてみたところで答えなど出てくるわけがない。「J-POP」というよくわからないものの上で成立している「日本のアイドルシーン」というさらによくわからないものについて解明しようとすると、人はまず歴史を漠然と抽象化して考えようとする。つまり「2010年代前半はAKBとももクロ、後半は坂道グループとK-POP文化の流入」などと簡単にまとめて、「会いに行けるアイドルから、会いに行くことのできない偶像崇拝型のアイドルへ」くらいに結論づけるくらいが良いところです。しかしそれでは現在のカワラボやiLIFE、イコラブなどの流行の理由は説明できません。私もつい最近までは「なんで今更でんぱ組やももクロみたいな曲が流行ってるんだろう?」と疑問でした。しかし観測を続けていくうちにひとつの答えが出ました。それが「ミスiD」の存在です。ミスiDとは講談社が主催し2012年から2022年まで開催されていたオーディション・プロジェクト。iDの意味は「アイデンティティ」「アイドル」「i(わたし)」そして「多様性(Divercity)」。初回のグランプリは玉城ティナ、2022年の最後のグランプリは金井球。何よりも木村ミサとSKY-HYが審査員として参加していたということ。サバ番やオーディション番組が全盛となる以前、その前例としてあまりにも早すぎたプロジェクトが誰に語られることもなく忘れ去られようとしている。2010年代を総括し、2020年代のアイドルシーンを考えるためのピースはここにあるはず。知らない名前がたくさん出てくると思いますが、彼・彼女たちはあの時代を皆、一生懸命生き抜いていました。是非とも固有名の洪水にめげずにお聴きください。